会議
「親、許可とった」
教室だったので、主語を省いた短い言葉で報告する。
Hは「よし」という風に頷いた。
「俺んとこもオッケー。…時間かかったけど」
「Kは?」
私が聞くと、Kはにこやかに言った。
「一方的に宣言してきた。何も言って来んかったし、あとで文句言われても知らん」
「うわ、何その爽やかな笑顔…キモ」
「は?」
Kの威圧に、目を逸らす。
「…くないねー。可愛いねー」
「うわキモイ消えろ」
「あんたが言うのはいいと!?キモイって言っていいと!?」
「はいはい、そこまで。で、この後どうするん?」
Hの仲裁で、Kとのふざけ合いを終わらせる。
「うちの親は協力的でね、アドバイスもらったんやけど…」
チャイムが鳴った。
もうすぐ、担任が来る。
「放課後、図書室で」
秘密を告げるように声を抑えて言うと、二人は無言で頷いた。
「チーム分けか。なるほど」
放課後、図書カウンター裏の絵本の部屋。
Hがしっかりと頷いたのを見てから、私は持ち掛けた。
「うちは女子の方探るから、Hは男子の方やってくれると嬉しいんやけど…」
「わかった」
すんなりと承諾してくれてホッとする。
面倒くさい、とか誰かさんのように駄々を捏ねられたら困るからだ。
「じゃ、うちはあんたらがそんな面倒なことしよる間、何して遊んどこうかな」
その誰かさんは、また絵本を適当に読み流している。
「Kは絵本でも読んどったら?」
「時間を有効に使えんから、お前は馬鹿なんよ」
「何ぃ!?」
読み終わった絵本を元の場所に片しながら、Kは宣言した。
「じゃあうちは、あんたらの不審な動きに目がいかんように、先生の前でいい子ちゃん強化してまとわりついとくわ」
「いや不審な動きせんから。あくまで自然にやから。ね、H?」
「そうそう。自然に”お前、先生に不満ない?”って聞いて回って…」
「不審でした超不審でしたKさんお願いします!」
そんなの、”先生に不満ある人この指とーまれ!一緒に問題行動を起こそう!”って言っているようなものだ。
Kは、満足げにふんぞり返った。
「そうやろ。素直に頼んどくのが正しいんよ」
「ちょっと待て、なんでそのタイミングで頼んだ?」
ねぇねぇ、としつこいHをかわしつつ、話を進める。
「で、二人とも。確実に先生大好き派って言い切れる人おる?」
上がった名前は、私の想像していた名前と同じようなものだった。
クラスのリーダー格の女子グループ。鈍感な子。真面目で大人しい男子数人。
「じゃあ、そこら辺には絶対漏らさんどこう」
「そうやね。慎重になったほうがいいのは確かや」
Kの同意を得て、私も頷く。
正直、この二人以外に計画を持ちかけるどころか、探りを入れることすら不安だ。
勘づかれたら、この計画どころか、私たちの学校生活まで地獄と化しかねない。
先生は、小学生の私たちにとって、相手にするには大きすぎる敵だ。
「そうなると、問題はHやね」
「俺?」
Hが不思議そうに聞き返す。
「さっきの不審さは不審者も顔負けレベルやったよね…」
「もう計画即バレの勢いがある不審さやった…」
「そんなにか…」
賢いのに、変な所が不器用だった。
慎重にならなければならないところで、不器用な人に任せるのは不安だ。
「あいつは?ほら、あのチャラいの」
棘を含んだKの言い方に、思い当たる人がいた。
チャラくはないが、口が軽い可能性がある男子。
Yだ。