親
「七日間戦争、しようと思う」
夕飯中、私が言うと、両親は特に反応しなかった。
「姉ちゃん、七日間戦争って何?」
「何日かKたちと立てこもるんよ」
「んー…友達と泊まり行くん?」
「まぁ、そんな感じ」
「楽しそうやねー」
三つ下の弟はそれだけ言うと、夕飯を再開した。
「…七日間戦争って、本気でやるん?」
母に聞かれ、うん、と答える。
学校での惨状は、いつも話していた。
泣かされた人数も、何が起きたかも全て知っている母。
反対されることはないと、思っていた。
「それってあんたがやらないけんのかね?」
「…え?」
「だって、あんたは”ひいきされよる”側やん。別に、今の先生のままでもいいんやない?」
「あのさぁ」
私は箸を置くと、母に向き直った。
「うちは、自分が良ければそれでいい、なんて教育受けてないんやけど」
母は黙った。
代わりに父が口を開いた。
「人数を集めろ」
「…何で?」
「少数が何をしたってお前らの歳やったら非行で終わる。でも、数が多かったら話は別やろ。大人は、子供と数に弱い。両方揃えば、最強や」
「全員は無理やろうけどね。先生好きって変な人もおるし」
「馬鹿お前、全員とか絶対チクる奴おるやん」
馬鹿お前、は父の口癖だ。
「いいか、まずグループ分けや」
「グループ?」
夕食を終えても続く、父の長い説明を簡単にまとめると。
自殺したいというほど追い詰められている、絶対に裏切らない人をA。
何となく嫌いという、いざとなったら裏切りそうな人をB。
先生大好きな人をC。
Aには極力細部まで説明して、逆にBには一切の情報を流さない。
これは最低限の下準備らしい。
「あとはメモを取るなよ」
「三十人くらいおるんやけど…暗記?」
「馬鹿お前、一見して分からん形にすればいいやん。そんなんも思いつかんのか」
お手上げ、という風に両手を上げて、大げさに嘆く父。
強めに足を蹴ると、「ぐっ」と手は引っ込んだ。
私は少し考えて、真剣に両親に向き直る。
弟は隣でゲームに夢中だ。
「あんさぁ…足を蹴られた父」
「何や、足を蹴った娘」
「……迷惑、かけると思う。先言っとくわ。……ごめん」
何となく気恥ずかしくて、俯く。
だが、言っておかなくてはならない言葉だった。
父が笑う。
「子供が正しいと思ってしたことの責任くらい、親がとれんでどうするよ」
顔を上げようとすると、押さえつけるように頭を撫でられた。
「頭くらい、いくらでも下げてやるわ」
どうやら、父も気恥ずかしいらしい。
チラリ、と母を見た。
母も私を見ていて、目が合う。
母は溜め息をついて、でも、確かに頷いた。
よし、と内心ガッツポーズをとる。
その時、母が呟いた。
「パパにそっくり」
「「何てぇ!?」」
父と私は同時に叫ぶように聞き返した。
「やけん、似とるんよ。生きにくそうなとこが」
「こいつに似とるとか名誉棄損や!それ、一番言っちゃいけんこと!」
「訴訟しよう!パパ、裁判の準備しよう!」
「よっしゃ任せろ娘!一番安いとこ頼もう!」
「やめてー。勝っても負けてもウチからお金が出ていくー」
我が家にいつも通りの騒がしい空気が戻り、私は少し安堵した。