H
「うん。無理やろ、これは」
「…ですよねー」
冷静に否定したのは、読書仲間であるHだった。
彼は、中間の立場だった。
目立って褒められることはないが、目立って怒られることもない。
ひそかに”ひいきされてる”男子だ。
彼の冷静さは、つい同じノリでやりすぎてしまう私とKを止めてくれる。
そう思って声をかけた。
でも、冷静だからこそ、君子危うきに近寄らず。
断られても仕方ない、とは思っていた。
「分かっとる?これ、小説の中の話よ?現実で出来るわけなくない?七日も立てこもるとか、食料とか場所とかどうするん?そもそも、あんな爽快に大人に訴えかけれるわけないし。まぁ、警察は動くやろうけど、この年でご厄介になりたくないし。あと、俺ら小五やけん、エスカレーター式に上がる中学にも警戒されるやろ」
「全部正論やな」
Kが適当な絵本をめくりながら、相槌を打つ。
「…まぁねー。やっぱりHはやらんよね。じゃあ、この話は」
「でも」
聞かんかったことにして。と言う前に、Hは言葉を続けた。
「七日間はさすがに無理やけど、二日…いや、三日くらいなら食料は持ち寄りで何とかなるかもしれん。場所は、勝手に入ったら不法侵入になるけん、まぁ、契約せんといけんよね。数日だけ貸してくれる所とかあるやろか…」
「あれ、意外と乗り気?」
「まぁ、お前らに任せとったら、計画だめになりそうやし」
Hは無駄に格好つけながら言い切った。
「こんな面白い話、乗らんとかないやろ」
「やばい…今一瞬だけ格好良く見えた…」
「本当やな…一瞬な」
「お前ら計画チクるぞ」
ふざけ合いつつも、集めたい仲間は集まってくれた。
さぁ、これからどうしようか。
問いかけると、やはり冷静なHが答えた。
「親に宣言することが一番やろ。俺らは未成年やけん、何があっても迷惑するのは親やん」
「ねぇねぇ、K。うちさぁ…子供持つならHみたいなのがいい」
「偶然やな。同じこと思いよった」
「…お前ら、ちゃんと説得せえよ?」
Hの不安げな顔が面白くて、私とKは同時に吹き出した。