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本性と洞窟

レッツパーティー。

パーティー。

それは私にとって今までの人生を覆すほど嫌悪に(まみ)れた代物で、より具体的にいえば腐肉に塗れたゴキブリを素手で掴んで生きたまま食べることを強要される十倍の嫌悪を催すものであり、この偽善の指輪を取ってしまいたいほどのものではあるのだが、アッシュがいるなら五倍くらいには変わる。

本当に、面白いくらいの利用価値があると思えば、こそであるが。

だから、パーティーを組むことに関してはもう文句を言うことなどないと考えている。

そう、だから私は素直に、

「約束の時間に現れないとは一体どういうことなんだ?」

社会人として名乗る資格がこれから組む二人にないことに腹を立てていた。


「ごめん、討伐依頼に時間がかかって…本当にごめん!」

「仕事なら仕方がないさ。それに誠意のこもった謝罪を無碍(むげ)にするほど酷じゃない」

そうでなかったら笑顔で応対なんかしてないよ、という笑みをこぼして勘違いを助長させると、約束の時間から十分経った時計を見上げた。


三十分後。


一時間後。


三時間三十九分十八秒後。

「ハッハッハッハァー!!」

「アッシュ、この試練組み直すことって」

一度承諾した限り無理、と視線で返事が返ってくる。諦めて声の方向に目を向けると、まさしくナルシストともいうべき金髪碧眼のイケメン下マツゲが塔の上に立っていた。

「じゃあデートしようかアッシュ」

「異議なしだ、赤秀」

「じゃあせーので」

「「DASH!!!」」

今までの経験では一番の速度で(攻撃・防御を除き)走り抜け、アッシュと共に迅速に街から出る手続きを終えて城門の外壁を見上げる。

「あの人の発言やら態度から総合するに、…自分の存在を誇示した挙句、顔は整ってない事もないから自己陶酔に浸って嫌悪の言葉も誤解してポジティブに捉えて本気で嫌われウザがられてるのに気づかないタイプと見た」

「要するにナルシストだという事で良いんだな」

私が聞き返すと、アッシュが首肯する。

「私は君を今まで侮っていたが、わりかし気が合うな」

「俺もこんなに息ピッタリで走れる相手がいるとは思わなかった」

「ああ、とりあえず、一時だけでも奴から逃れ「ふっははは、ハァハァ」

息きれてんじゃないですか。

「私のあまりの美貌に話題にするのを避け、逃げ出そうとしたという事だね、子猫(kitten)ちゃん?」

「あれは肉の塊、戯言をほざくしか能がなくて気持ち悪いただの汚物…そう、天塚迅のような奴であったとしても私には何の、何の問題も、ねぇ……すーはーすーはー」

「赤秀、天塚迅って誰だ?」

アッシュの突拍子もない質問に、思わず本当の事を答える。

「私のストーカーで手篭めにしようとした…何でもない」

もうそこまで言って沈黙なんて無意味だろ、と吐き出す様に言ってアッシュがぽすっと頭を撫でた。

「アッシュ、これは主人公がヒロインに対してやる行為だな」

「うん?まあそうだな」

「なら私がアッシュにやってしかるべきだとおもうんだけど」

「…え、ヒロイン俺だったの?」

「いつからアッシュがヒロインだなんて錯覚していたんだ?」

「錯覚どころかそう思った事自体ないけど!?」

「ところで、「無視するとは僕の存在が神々しすぎて感知出来ないのかな凡庸な輩には。んふふふふ、フハハッハッハア!!」あれ置いていかないか?」

「大賛成」

後ろから「まてえええい(どさっぐちゃり)ふぅあぶなかった、って貴様ら私を捕まえて何をする?あっやめそこは僕の秘密の花園ーー」とか聞こえてきたけどキニシナイ。

アッシュも私も彼が街を出る手続きを正式に行わなかった事を心底ありがたく思っていた。


「ちょっと疲れたな、昼飯にしよう」

「ああ。っても携帯食料はお前が言ったように持ってきては…」

「ウィンドウ持ちだから、テントも食料もあるぞ」

「世の中って結構不公平だよねえ…」

不公平。

アッシュがいうと重みが違う。

いつぞや彼が、「ハーフアンデッド」と呼ばれていた事と関わりもあろう。そう言えばフード被ってるのがデフォルトになってきたな、とフードを外す。

「ふぅ、やはりアッシュの言ったとおり、高めのものを買って正解だったな。ちょうどいい着心地だ」

「そうか?…いやなんか照れるな」

「何、あまり気にするな。ヒロインをちょっとした事で褒めるのは王道主人公のなすべき事だろう」

「王道…?言ってる意味はさっぱりだが、何だか素直に褒められてない事だけは解ったぞ」

「アッシュ、君には事前に伝えておきたいのだが、私は誰かと一緒に行動するのが大嫌いなんだ」

「…唐突になんだよ」

「私は団体行動は至極苦手で統制の取れた動きなんてものは取れない、人の考えなど読めないからな」

「それで?」

「君の望む事をしてあげられる自信が、私にはない」

一気に空気が冷え切った。体感温度ではない、殺気があたりに立ち込める。アッシュからそれが発せられているのは明白だ。

「…いきなり、どうしてそんなこと」

「君の左手の指輪。偽善の指輪だろう」

アッシュの実力からすれば途方もない相手でありながら、私をバカにしていたという理由だけでこの男が無謀に刀を抜くはずがない。

「君は恐ろしいほど俺の思考を読みまくっているな」

「それでも君の望みを叶える自身はない。思考は読めても願いは読めない。お人好しと笑ってもらって結構、君には相当な借りがある」

「借り?何が借りだ、君の方がかなり危ない橋を渡るくせに」

アッシュの皮肉に笑みを返す。微笑と言えないほどの小さな笑みを。

「アッシュ、君にはこの正義をかたる女子の気持ちは永遠に分からないだろうさ」

語る、に聞こえたのだろう、「正義なんてものは曖昧だろ」と返すアッシュに、「分かっているさ」と返す。今のは偽物の自分への自虐だ。大体私は根性が腐っているのだ、そんな説教されずとも心得ている。

騙りである。完璧に。

お人好し?他人本位?

何と呼んでもらっても結構だ。この男があとほんの少しだけ鋭かったならば、

あるいは少しだけ鈍かったならば、

私を偽善者と愚弄できたろうに。


「ハァハァ…やっと追いついたぞ、僕の崇拝者たちッ!!」

気持ち悪いから死んでください、と言えずに「パーティーメンバーのセイジ、……さんですね」と頑張って言う。すっごい努力したんだよ。

「ああ。ファンクラブ会員になりたいのなら今すぐーー」

「「行きましょう」」

沈黙を守っていると、(ただし後ろの一人は延々と己の美しさについて語り続けているが)洞穴の入り口が見えてきた。


「いやあああ!!」

一瞬アッシュの肩がビクッとなったのは気のせいじゃない。

「…何?」

語尾が震えたのも気のせいじゃない。今私が叫んで後ろの奴が腰を抜かしたのも気のせいじゃない。

「こういうとこ怖いんだ?」

「…真っ暗闇の中気配だけが頼りだからな。シーフなら大抵暗視スキルを持っているんだが、このパーティーにはバーサクパラディンと嘘つきファイター、ナルシストしかいない」

「ま、光を見つけたら誘蛾灯の様に上にいるコウモリが襲ってくるからな」

「フッ、全てをこの私が!撃ち落としてやろう!」

うん?何か言ったかい?

こんな狭いところでそんなことしたら洞窟が崩れるだろうが。

「依存は無い様だな、それでは…「「いや許可してねぇって」」

遠くから魔獣の唸り声が聞こえる。

「そろそろ抜けーー」


どういうことだ?

迷路があると言ってなかったか?


まっすぐ進んで来ただけなのに、


私たちは魔獣の前にいた。

アッシュの本性的なものが見え隠れしました。果たして赤秀ちゃんの本性とどっちが闇が濃いのでしょう。

セイジはインキュバスのつもり(誘惑能力は皆無)です。

こいつは〆るだけじゃすまないなあと思えるキャラを目指しました。

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