ご飯事情
「ふぁ…良く寝た。さて、これからどうするか」
現時刻は二時半、丑三つ時である。魑魅魍魎は跋扈する時間である。夜明けはそろそろお家に帰りましょう、そして昼の種族、エルフやらリザードマンが出てくるのだろう。アンデッドは昼間の時間帯も活動中だが。
と、お腹がきゅうっと鳴った。
「ギルド行く前に、まずは異世界のご飯事情からいこうか」
カウンターには昨晩応対してくれたノームの女将さんがいた。
「すいません、ちょっとこの辺りで美味しくて安いとこ、知りません?」
「あん?」
あ、この人(人?)お金が絡まなきゃ動かないタイプだ。
「ええ、そんなとこ知りません?」
と言いつつカウンターの上におかれた女将さんの右手に100テリル銅貨の入った革袋をザラ、と乗せる。
「良いところがあるよ」
女将さんがニヤッとした。
「『フロッグレッグ亭』、こんな寂れてそうなとこが?」
女将さんの言うとおり来て、確かに看板も消えかけてはいるがそう書いてある。勇気を振り絞り、とにかく開けてみよう。
ドアを開けると、気の抜けた様なベルの音と共にカウンターの裏側からデュラハンの店主が出て来た。首が綺麗な方だ。すっきりとした面差しは、東洋を思わせる顔立ちだ。
「あんた誰の紹介でここに?」
「えっと、『INNorm』の女将さんに…」
「へえ!あの欲の皮突っ張ったおばさんが?めっずらしい、いくら渡したの?」
「100テリル銅貨…」
「それじゃ高いわよいくら何でも。美味しいしやすいけど、滅多な事じゃ客がこない様にしたけど…普通払って10テリル。ないない、ははは」
「…まあ最初だけと割り切ればたいしたことじゃあないか」
「そうね。あたしは店主のフラニー。よろしくね」
「よろしく。私は七海赤秀だ」
と、新たな客が入って来た。
「あら、レギアス、今朝ごはん?」
「朝も夜もねえだろ、フラニー。こいつは?」
ダークエルフの少年。明らかに私より年上なのだろうが、かわいい。ツンと尖った耳に、好き嫌いが激しそうな顔立ち。アメジスト色の瞳がこちらを見つめている。
「初めまして、七海赤秀だ。よろしく」
手を差し出すと「あん?」と返って来た。かわいい。中学生が無理に粋がった感満載だ。私も中学生ではあるんだけど。
「いつもの。ーーお前お人好しだろ、騙されまくって後悔することになるぞ」
「フラニーさんの腕に任せる。えっと、予算は大体1銀貨以下に抑えてくれればいいや。オーバーは2銀貨までね」
「太っ腹ね、ずいぶん」
「人の話聞けよ!?」
「聞いてるよ。だけど私はお人好しでもいいと思っているんだ。だってそんなやつの一人や二人、いる方が世界はうまく回る」
「そういう奴ねえ。ま、俺は一人知ってるけど?」
「私は二人だな。一人はまあおいといて、もう一人は目の前にいる」
一瞬訳がわからないという様に首を傾げて、ハッと気付いてみるみる耳をピクピクさせる。
「あっはっはっは、一本取られたわね、レギアス。はい、プレート」
「前言撤回!お前やっぱやな奴!…くそう」
「赤秀も、はい。これはラピッドの肉のつけ焼、それからスープね。パンはおかわり自由だから」
「ラピッドの!?…ううう、入荷したのかよ…」
「昨日ギルドに持ち込んだアンデッドがいたらしいわ。さ、食べて食べて!」
それ私じゃないか?と思いつつフォークを伸ばし、一口頬張ると鮮烈なインパクトを残しながら幻の様に消えてしまう。旨い。
隣で悲壮な顔をしているレギアスに、一口差し出すと、「騙されないぞ」とじと目で見られる。
「そうかいらないなら食べてしまおう」
「いっーー!?」
「どうした?」
「……ります」
耳を垂らしている姿は可愛い、というか虚勢がまるっと剥がれている。
「あーん」
パクッと食べると、蕩けそうな笑顔をする。あー眩しい。純真すぎてまぶしいぜ。
「んまぁ…!」
スープを飲む。これまたコンソメの味わいの中に、黒胡椒とパセリの合いの子のような香辛料に引き立てられた野菜の甘味が広がる。
パンを一口ちぎって口に入れると、甘い匂いとふかふかの食感が五感全てを刺激する。
「…あー、生きてて良かった、生きてないけど」
「笑えねえよ…」
「あはは、それいいね!死にたい、死ねないけどみたいな応用もできそう!」
「いや死ぬだろ!寿命じゃ死なんが殺されたら」
「アンデッドの自己複製的に仲間を増やすことが禁止されてるのはそのせいだしね。さて、赤秀ちゃんパンお代わりする?」
「はい!」
「「ごちそうさまでした」」
「なあ、あんたここに来てどれくらいなんだ?」
「二日目だな」
「ギルド登録したのか?」
「まあ。その時にもアンペールと会ったけど、あまり好印象ではなかったな」
「そりゃあ災難だったな。俺はルクラの冒険者。ここに来て一年目だから、お前よりいろんなことを知ってる。あ、それから武器だけは持っておけよ、なるべくゴツい奴」
このレイピアではダメということか。
「あんたみたいな格好、王国騎士団の人でもしないよ。もう少し防御力ありそうな方がいいと思う」
「あー…いや、重くなると動きにくいし、この方がいいや。このレイピアもどうこうする気はないよ。それに、防御は盾より短剣の方が良いかな」
驚きを隠せずレギアスが目を見開いた。サイドアームでパリィするのは間違いなのか?
「ダブルアームか、なら無理強いはしないけど。あんたこれからギルドに行くんだろ?一緒にいかないか、ちょっと街を案内してやるよ」
「本当か?ありがたい。フラニーさん、お代。ごちそうさまでした」
「はい、また来てね」
書いててお腹空いて来た…orz
レギアス君は違う名前だったんですが設定資料に書き漏らしていました。
うっかりさんめ。