ギルド登録
「私はファリーン・ラルフローレン。ファー姉と呼ばれてるけど、何とでも。身分証を一時お預かりしてもう一枚加えて、階級に応じた名前を彫っているの。まあプレートの色も変えてわかりやすくしているけどね」
「具体的には?」
「アッシュのプレート、それが最低ランク『ディア』。通常の身分証と変わらない色ね。
次のが青いプレート、『ルクラ』。一定の実績を重ねれば、一年くらいで達成可能なランクね。大抵の駆け出しはここまで行って、才能のなさに絶望する。
そして緑のプレート、『リュマ』。ここからは努力だけじゃなく才もある程度いるわね。
その上が赤いプレート、『ジータ』。これは完璧才能がいるわ。でも才は持っているだけという冒険者。
最後が黒いプレート、『ツェレ』。これは努力と才が両方合わさった奴ね。ぶっちゃけキモイ。っと、噂をすれば、あれツェレクラスにいる十人の一人、アンペールよ」
額には三つめの目がある。筋骨隆々とした体躯は、それを見せびらかすようにぱっつんぱっつんなアンダーの上にボディーアーマー、ガントレットががっしゃがっしゃと金属音を立てる。
「何かないかね?できれば討伐などは?」
声も大きい。ぶっちゃけうるさい。
「話を進めましょうか。誓約書読める?」
「ええ、はい」
差し出された羊皮紙は、ゴワゴワして油断していると直ぐに丸まってしまう。
『冒険者ギルドへようこそ。
我々は共に戦い共に生き、国のために尽力するものである』
するかボケ。
『ということはなく、依頼があれば金のために、名誉の為に、モテたいために、死力を尽くして欲しい。英雄は俗世欲を満たしてナンボである』
おい翻訳機能仕事してんのか。
『だが、最低限度以下のことは守って欲しい。
1、殺しは犯罪者、決闘敗者、敵国の者に限る。
2、クエストの提供においてギルドが紹介手数料を5パーセントもらう。
3、クエストの失敗は記録され一定以上溜まった場合ランクダウンもありうる。
4、情報の交換、クエストのアイテム交換、武器トレードの問題は不正な略奪でない限りギルドは一切感知しない。
以上を守り、適切に冒険を行ってくれ。
ギルド長 パフィン・ブレイン』
うん。
「…読み終わりました」
「はいじゃあここにサイン。よろしく」
さらさらと書くと、筆記体が綺麗にスペースに収まった。
「じゃ、ディアのプレートを取ってくるから」
と、話が終わったようで、アンペールががしゃりと立ち上がってこっちを向いた。その時アッシュも視界に入ったようで、ニヤニヤ笑って近づいてくる。
「やあアンデッドのお嬢さん。俺はアンペール、ツェレのファイターだ。どうだね、一杯やらないか?その後宿屋でも良いがな、がはは」
「ちょっとそれは女性に対して礼を失する言動ではないかい、アンペールさん?」
棘のある言い方に口元をヒクヒクさせながらアンベールは返答する。
「もうあんたは王子じゃない、俺には命令できんはずさ」
「そうだな。しがない冒険者だ」
「なら人のことに汚ねえクチバシ突っ込んでんじゃねえぞガキ。ハーフアンデッドが粋がるな」
アッシュの方向から殺気が沸き立つ。
「母を侮辱する気か?」
「ん?面白いこと言うな、侮辱すらする気も起きんな」
「貴様ッ…!!」
身の丈ほどの大刀にアンペールが手をかけ、抜き放つ。鈍色に光る刃は血を吸ってきたことを誇示する様に掲げられた。
アッシュの鉄剣は新しさこそあるが、相棒感がある。
だがギルド本部で揉めては欲しくない。二人が決闘だ!などと言い出す前に、と指先に小さい光の玉、『発光弾』を作るとぽいっと投げた。
カッ!と光をはなったそれが十秒きっかり視界を奪う。その間に取り落とした剣は背中に、腰にと戻して座り直した。
「い、今のは!?」
「あ、ああ、まだチカチカしやがる」
「剣が…!」
戻しました。部屋の中で長物振り回すのはやめて欲しい。
「あんたがやったのか?」
「いいえ!違います」
受付嬢のお姉さんごめんなさい。私です。止めたらこうなることわかっててやりました。
「…あれ?どうしたの?」
「ちょっと一悶着、でももう良いんじゃない?」
「なら良いけど。はいプレート」
「ファーさん、早速依頼ってない?」
しばらく考え込むそぶりを見せたが、思い当たったように顔をあげた。
「アイテムの買取くらいなら、やれるわ」
「なにが売買されてるの?」
「今しがたラピッドの肉が焼けたやつの在庫がきれたみたいなのよ、ギルドのね。持ってない?」
「アイテムウインドウあります?」
「これ持ってる人滅多にいないのよ、あなた運が良いわね」
その中からラピッドの肉を出すと、ファーさんが顔に似合わない嗜虐心の滲み出たような笑顔で舌なめずりをしながら受け取って、奥に引っ込み幾らか金を出した。
「割高よ、あれで職員のおかず全部明日まで賄える計算になるから、三日分の宿代とその間のご飯代くらいにはなるね」
「そうですか。明日もまた来て見る事にします、装備は…マント自分の買わないといけませんね」
「そうね。アンデッドの眠りは娯楽だから、雨風を凌げるタイプで、18テリル銅貨で買えたかしら。高くてもその手持ちよりは断然大丈夫だから、心配せずに買ってらっしゃいな」
「ええ、有難うございました」
アッシュの方に向き直ると、アンペールがアッシュに食ってかかっていた。
「お前何かしたな!?」
「あれやったの俺なら目はつぶったまま剣を振り抜いてただろうがな」
「何だと、ディアのくせに!」
「アッシュ、このマント自分のを買ったら返すよ。見繕うのに助言が欲しいんだ、ついて来てくれないか?」
「あ、ああ」
「それだったら俺がーー」
なお食い下がろうとするアンペールに、「すまないが」と付け加えてさらりと言う。
「お金があまりないんだ、庶民の感覚を持ち合わせた方にお願いしたいと思ってね」
「だったら俺が金を、」
「分かってないな、お金を稼ぐのも私にとっては冒険のうちなんだ」
反論する隙を失った彼はぐうと唸った切り黙り込んでしまった。
「とんだ演技者だな、君は」
「アッシュ、さっき止めたのは私だ。双方至極私からしたら関係の薄いことで怒っていたがな」
一瞬ぽかんとして、そして下を向いて吐き捨てるように言う。
「どうして止めたんだ」
「君に死んで欲しくなかったからさ」
アッシュが目を見開いた。立ち尽くした彼に、「どうした?」と言うと「何でもない」と返って来た。
アッシュが何かと目の敵にされていることは分かった。
ならば、それを利用しよう。面白いことを起こせるかもしれない。
どうせなら引っ掻き回してやろう。
この世界では向こうでできなかった事をいくらかかっても良い、好きなだけ。
アッシュがその時赤くなっていた事など、私には知る由も無かった。
アッシュが陥落しました。赤秀ちゃんは何だか自分で墓穴掘りまくって落ちる子のような気がしてきました。
裏には全力の企みが隠れているのにもかかわらず言葉通りに受け取ってしまうアッシュとの会話のズレを書けるだけ書いていきたいです。