森での出会い
そよそよと風がそよぎ、森の中から吹き抜けて行く。植生にはそこまで詳しくないが、夏緑樹常緑樹が入り混じった、温暖な地域のようだ。野宿しても寝冷えはしないだろうと思い、茂みを掻き分けると前に進んで行く。
と、目前に緑色の三角形が見える。まだこちらに気づいていない、そんなモンスター表示だ。腰の短剣へ左手を伸ばし、いつでも抜ける様にしておく。モンスター名は『ラピッド』、確か初期の肉食ウサギだ。こんな奴より人間の方が何十倍怖い。獣が死体をどうするかなんて大体わかる。
レイピアはずっと握ってきた様にすうっと手に馴染む。抜き放ち構えると、わずかな金属音に反応し、それがこちらを見た。
やられる前に、
「やああああ!」
勢いよく踏み込むと、普段の十倍は出てるんじゃないかと思う程の勢いで体が動き、次いでレイピアが赤く光った。
『赤の剣戟』。炎属性の刺突攻撃で、出血状態を80秒間維持するだとか何だとかあったが、関係ない。一気に燃え上がる。油と肉の焼ける良いにおい。後には小さな石が一つ、そして大きめの肉が一つ。
表示される緑色の三角形の上には、『ラピッドの魔石』、『ラピッドの肉、食用。鳥肉に似ている』とあった。ウェルダンっぽい。
拾い上げてアイテム欄に放り込んだ。
と、背後からガサガサ!と音がした。
しまったと思いながら左手で剣を抜き放ち、構えると。
そこにはアッシュブロンドの長髪を後ろで束ねている、ザ☆冒険者的イケメンが立っている。目が湖畔のごとく澄み渡った青色だ。
「…あれ?もしかしてラピッド倒したり…」
「したけど」
「えー!?そんな、二日間追いかけてたのに、魔石さえあれば一週間暮らせたのに…」
うん。
渡してあげよう。
「いいよ別に、生活に困っている訳じゃない。君は見た所冒険者のようだけど?」
「え、譲ってくれるのか!?」
「うん。聞きたい事もあるし、情報量ってことで、ね?」
「俺はアッシュ・アーバンヘル。ここのこと良く知らないってもしや秘境の出身なのかな?」
「ああ、特に人がいない地区でね」
「へえ!道理で強い訳だ。じゃあ交易なんかもしてないから通過単位からか」
今現在所持しているゲーム通貨リルは使えず、代わりにテリルが使われているらしい。言葉が通じるのもそうだが、自動翻訳のようだ。口の動きとあっていない。文字はテリルと記号の上に現れた時点で読めるとわかった。
一テリル銅貨が千枚で一テリル銀貨。
一テリル銀貨十枚で一テリル金貨。
この上に一テリル金貨百枚で一テルという冒険者単位が存在するが、これは高額の時だけらしいから関係ないだろう。
「それでこの国はナイトメア王国、詰まる所異業種の集まりなんだ。治めるのはアンデッドの、アーバンヘル王…まあ、俺は妾腹で王子の肩書きを捨てさせられたんだから今は何もないよ」
「見知らぬ人にたかる気はないよ。別に有名になりたい訳でも地位が欲しい訳でもないから」
そう。
こいつ自身に道案内とかさせないとは一言も言ってない。
このラピッドの魔石欲しいらしいし、恩を売っておくに越した事はない。
「そう、かあ。だよな、秘境地域の人って世界を見たいだので飛び出してく感があるしなあ」
やんちゃか。
「あそこはアンデッドも人も入り混じってるから、いいよなあ。君は何のアンデッド?」
「ん?ああ、あまり興味を持たなかったから知らない。ところで街まで案内してくれないか?」
「ああ、全然良いよ。アンデッドなら身分証なくってもこの国では冒険者出来るしね」
「そうか、悪いが手伝ってはくれないか?」
「ああ、構わないよ。これから行くのは首都のレキフィアからは程遠い辺境だけど冒険者はいっぱい集まるからね。ギルド支部から登録も出来る」
この男使える。
辺境から来た、強い子供。そんなのを見つけたら普通は街への案内料ギルド紹介料宿紹介料とごっそり持っていかれた事だろう。まだ魔石を渡す訳にはいかない。持ち逃げなんてコトだ。
「じゃあ、終わったら魔石ね。外でやりとりしてると持ち逃げされることもあるしなあ、盗賊に。じゃ、行こうか」
アッシュ・アーバンヘルという元王子(?)。
良い人アッシュに赤秀ちゃんは利用する気満々ですが、どうする気でしょうか、書いてる当人も困惑中です。