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HONEY MAN  作者: 鮎川 了
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九、婚礼の朝、虞淵が張に関する疑惑を聞く



 婚礼の日の朝、私は義父が用意してくれた真っ赤な衣装に身を包み、皇帝のような姿になった。

 この日は店も休みにしたが、招待されていなくとも、面識が無くとも、祝いに駆け付けた来者は無条件でもてなす事としているらしい。その為、店にはいつもの倍以上の食材や酒が運び込まれた。

 この量を無料ただで飲み食いさせるとは。しかも金をかけているのはそればかりではなく、都から楽団や京劇の役者や踊り子達を呼び寄せていた。いくら祝いの席だからと云って豪放磊落過ぎやしないだろうか?

 ……私が店を継いだら、もっと節約しよう。この金の使い方は産まれた時から貧乏だった私には怖すぎる。金の沸き出す泉でも持っていれば話は別だが。

「虞淵」

 ふと、聞き覚えのある声がして振り向くと、店の姐姐に連れられて叔父がいた。

「どうしても式の前に話がしたいと仰るので」

 姐姐はそう云うと席を外し、式の準備へと戻って行く。それを見届けてから叔父は更に周りに人が居ないか確認してから「虞淵、一体いくら借りたんだ?」などと云う。

「大方、張の旦那から金を借りて、返せなくなったんだろう?」

 何を勘違いしているのか解らないが、店も義父もそして美花も借金の肩に婿を取る程落ちぶれては居ない。

 あまつさえ美花はあの通りの美女だ。大金を出してでも婿になりたい男は大勢いる筈だ。

「叔父さん。とんちんかんな事ばかり云ってると、終いには怒るよ? 大体何だい、“おめでとう”の一言も無しかい?」

「めでたい事なんかあるもんか! いいか、虞淵、あの張って奴はお前の親父を殺したんだぞ」 

 何だって? でも父は殺された訳ではなく事故で怪我をして死んだ筈だ。

「叔父さん。張の義父さんが親父を殺したのを見たっていうのかい? 金で罪をもみ消したとでも?」

「い……いや、直接手にかけた訳では無いだろうよ。でもとにかく張のせいで李は死んだんだ」

 それが本当かどうかは解らないが、以前叔父が魯に云った言葉の意味は解った。

「証拠は? 証拠さえあれば私だって信じるよ」

 そうだ、証拠も無しに人を疑うなんて、人として一番やってはいけない事だ。これは父も、叔父本人でさえいつも云っていた事なのに。

「張は李を……お前の親父を売ったんだ」

「売った? 何処へ?」

「嘘だと思うなら親父の墓を掘ってみろ。亡骸どころか何も出て来ない筈だ」

 叔父はそこまで云うと私を呼びに来た姐姐から逃げるように立ち去った。

 何を信じていいのか解らなくなっている私に、姐姐が儀式と披露宴の仕度が出来た事を告げた。



 


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