二十二、張と虞淵が棺の蓋を開ける
◇
あの、薄暗い秘密の物置の中に無数の壺の中に埋もれるようにして美花は居た。
「美花、しっかりして」
彼女は死んだ様に虚空を見詰めている。身体は冷えきっては居たが、確かに生きている。その筈なのに。
やがて、色の抜けた唇が開いたかと思うと、彼女は消え入りそうな声で確かにこう云った。
「鬼に私達の赤ちゃんを盗られてしまった」
しかし、その後医者に診せても美花の身体にこれと云った変化は無く、きっと寒さのせいで意識が朦朧とし、妙な事を口走ったのだろう。
鬼と云ったのがいささか気にはなったが。
……もしかして、父は遺体はこの物置の何処かに在るのだろうか?
だから私はここで父の鬼を見たのだろうか?
父は……蜜人にされてしまったのだろうか?
そしてこの物置の何処かに隠されて居るのだろうか?
そう思えば合点がいく。
父が鬼となって現れた事も、叔父が“父の墓には何も入って居ない”と云った訳も。
私は大工から金梃子を借り、物置の床や壁の板を手当たり次第剥がしてみた。
すると、壁の一方が、かなりの広い空洞になっており、そこに青い釉薬で美しい絵が描かれた、陶器の細長い腰掛けのようなものが隠されていた。
それは大人一人がゆったりと横たえる事の出来る大きさ。間違いない、父はこの中だ。
しかし、どうしたものか。分厚い陶器の蓋は私一人では持ち上がらない程重いだろう。
「虞淵、これは一体何の騒ぎかね?」
見ると、義父が怒りを圧し殺したような表情で私を、無惨に引き剥がされた壁を見ている。
「お義父さん! 貴方は私に善くしてくれたし、尊敬さえしています。どうか一つだけ教えてください。私の実父の死に貴方は関わっているのですか?」
もう、謎を謎のままにしておく事は出来ない。
全てを明白にすればきっと皆幸せに暮らせる。
さあ、お義父さん、たった一言“関係無い”と云ってくれ。
「そうだ、君の父親は私が殺した」
義父はそう云うと、陶器の棺に手を掛け、開けようとした。
「やはり、一人では無理だな、虞淵、手伝っておくれ」
それは静かな、哀しそうな声だった。
この中に入っているのは実父の蜜人なのだろうか?
私は促されるまま蓋を開けた。




