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HONEY MAN  作者: 鮎川 了
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十九、薬の秘密が解りかけた事


 

 真新しい木綿の、その柔らかい重さを持つものを、それでも私は放り投げる事すら出来ずに用事を済ませなければならず、行く先々で顔色の悪さを指摘され、心配されたが“風邪を引いた”と言い張り乗り切った。


 店に戻ると美花が出迎え目敏く包みを見て「あら、それはなあに?」と寄ってきた。

「こ、これはお得意様から義父さんへとお預かりした大切な品だよ」

「そうなの」

 美花は詰まらなそうに頬を膨らませる。

「ごめん美花、後で何か良いものを買ってきてあげるからね、そんなに拗ねないでおくれ」

 そんな事より義父は何処だ?

 早くこの包みの呪縛から解放されたいのに。

「ところで、義父さんは?」

 大哥の云った事は今思い出しても色々と意味が解らないが、この品物が今日あたり届く事は義父も知っているのだろう。

 私は大哥からこれを預かっただけ。中は見ていない。本来見ないのが礼儀だから何も知らない。包みに何が入っているかなんて知らない。

 心の中で繰り返し唱えていると義父が魯に何か指示しながら歩いて来た。

「お義父さん」

「おお、虞淵、ご苦労様だったね」

 ああ、やっと解放される。

 この“荷物”から。

 象でも担いでいるような重さを感じる“これ”から。

「義父さん、これを義父さんへ……と、お預りしました」

「劉さんから?」

「いえ、お得意様の劉様からではなく……」ちらりと魯を横目で見た。云って良いものか迷いながら包みを渡すと、それを受け取った途端、義父はこれを預けたのが誰なのか判った様子だ。その柔らかい重さ。中身は見ずとも判る筈だ。

 ……やっと解放された。

 安堵していると義父は

「これは……厄介な仕事が増えて大変だったね」

 と表情を変えずに云った。


 美花は相変わらずあの薬を舐めていた。

 身の回りの世話をしている姐姐が「お嬢さんがまた何も食べなくなって、あの薬ばかり召し上がるので困っています。若旦那様からも云ってやってください」と泣きついて来た。

 また悪阻が酷くなったのだろうか? 

 何にせよ、美花にはあの薬はもう舐めて欲しくない。

 まだ憶測に過ぎないが、私はあの薬に何が入っているか、何となく解ってしまったから。

 そう、大哥が渡したあの包み。その中身こそが薬の原料だと気付いてしまったのだ。

 しかし、そんな事が有って良いのだろうか?

 きっと私は何かを見間違えたり、勘違いをしているだけなのではないだろうか? いっその事そうあって欲しい。

 何故なら大哥が押し付けたあの包みの中身は、動かなくなった赤ん坊だったからだ。



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