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HONEY MAN  作者: 鮎川 了
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一、虞淵の桃の木に季節外れの実が成った事



 例えば、草花が突然全部枯れるだとか、色の違う実が成ったりだとか、いつもと違う事があれば、其れは凶事の前触れだから気を付けろ。と、親や年寄り達からよく云われて居た。    

 特に私のような作物に携わる事を生業としているものには、育てている作物の具合が生活を左右するのであながち迷信と云う訳では無いのだろう。

 少し気になる事があり、畑の一番北側にある桃の木の様子を見に行った。この桃の木は亡くなった私の両親が、私が産まれた時に植えたもので、毎年春に美しい花を咲かせ、夏には見事で味の良い実を実らせる。

 しかし今年は夏になってやっと少しばかりの花が咲き、たったの一個だけ辛うじて実を結んだ。単に肥料が合わなかったとか、剪定の仕方を間違えたのなら良いのだが、何か悪い事の前兆のような気がして仕方が無い。

 それでも、そのたったひとつの実には紙の袋を被せ、大事に育てる事にした。これから寒くなるので、どこまで育つか解らないが。



 そして気になる事はもう一つあり、どちらかと云えばこっちに関心が向いていた。気になる“事” と云うより気になる“人”だが。

 もし、この人は人間などではなく桃の花の精だと云われたら、私は何の疑いもなく信じるだろう。それ程美花(メイファ)は美しいのだ。美しいだけでなく心根も優しく人を癒す空気を常に纏っている。私はすっかり美花に夢中になってしまった。

 しかし、彼女は街で一番大きな店“張酒家”のお嬢様で、私はそこに作物を届けに来ている一介の農夫でしかない。もし、身分も弁えずに求婚などしようものなら、怒った彼女の父親は私との取引きを止めると云い出すだろう。それに、幾ら歳が近いからとはいえ、彼女自身が私をどう思っているのか解らない。目が合えば必ず微笑んでくれるのも好意の現れではなく、誰にでも優しい彼女の習慣の様なものかもしれない。

 そういえば誰かが云っていた。“恋なんて一種の熱病だよ”と。この病はいつになったら治るのだろう? 彼女の白桃の様な頬に触れる事が出来れば熱は引いて行くのだろうか? 




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