お呼び出し
四月二日、入学式が終わった後、俺達新入生は教室に集められていた。当然、知らない奴ばかりが同じ教室にいる訳で、友達は今から作るもの、そうであるはずだ。知り合いのいない状態では誰からの注目を浴びることなく、普通に座っているだけのはずだ。
だがしかし、まだ友達を作っていない、それどころか一言も喋ってもいないのに、俺は教室中から好奇の目にさらされていた。別に派手な格好もしていないし、目立つ行動だってしちゃいない。俺自身は何の過失も犯していない。
だというのに、これは一体何の仕打ちだというのだろうか。全ては、数秒前に入った、とある放送のせいだ。
「連絡します、今から呼ぶ生徒は至急校長室へ来なさい。一年一組、佐藤。一年三組、猪俣。一年四組、鶴貝。一年七組、佐伯」
不意にスピーカーから入った放送は、数人の生徒の名前を口にした。共通点があるとするならば、全員が新入生ということだけで、他に全く関連性は無い。よって、放送でその名を呼ばれている理由がさっぱりと分からない。
それだけならば、この教室で俺がこんな思いをしているはずはない。なぜなら、俺のいるクラスは最初にすっ飛ばされたはずの、一年二組だからだ。
うちのクラスからは誰も行かないようだと、ホッと一息ついた所に、問題の一言が添えられていたのだ。
「なお、今から呼ぶ一名は何があろうとも来るように。一年二組、新城 賢治」
それが聞こえた瞬間に、思わず俺は素っ頓狂な声を上げた。静まり返っていた教室内に、その奇声は響き渡る。その情けない声に対して嗤う者もいなければ、笑う者もおらず、やはり静まったままだった。
しかし、声にはなっていなくとも、全員の関心が自分に向いてしまったのだけは、すぐに分かった。
視線という視線が真っ直ぐに俺を射ぬいている気配が、いくつあるか分からない。目は口ほどに物を言うとはこの事だろうか、『あいつ何やったんだ?』という疑問が聞こえたような気がした。
この状況で一番狼狽しているのが俺自身だ、という事がより一層皆の謎を強めているようだ。いきなり校長室へ、“必ず”来いと命じられたのに、本人でさえその理由が分かっていない。何かを罰せられるにしては、張本人たる俺が心当たりが無さそうにしているから、反って不安にさせているのだろう。
とりあえず俺は、呼ばれたからには仕方ない、といった風に装い、席を立った。わざとらしく「何でだろ」とか言ってみたりもする。だが、心配する声など一つも上がらず、やはり凶器のような視線ばかりが飛んでくる。
「大切な話があるので、走ってでも至急来るように」
急にクラスの内側がどよめいた。耳を澄ますと、他クラスからも似たようなざわめきがしている。急いで向かう、というよりも教室から逃げるためだけに、俺は逃げるように駆けだした。