8 狂気そして優渥
----とある場所の独り言
あーあ、まだ半分しか経ってないのにもう半分以上が脱落かぁ。
せっかくなんだしもうちょっと僕を楽しませて欲しいよ。
……まあ今日のところは残りの1092人に期待しておこうか。
ふふっ、何人か面白そうな子もいるしね。
【walker】に【leaf】、【citron】と後は【bell】に【night】,それに横にいる【saku】か。
特に【walker】は良い性格してるし、もしかしたら【saku】もそのうち面白いことになるかもね。
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----DC内の市街地エリア
4人の高校生が力を合わせ、超大型のエレボアを倒していた。
エレボアは光となって消え、たくさんのアイテムを落とす。
高校生たちは歓喜の声をあげ、戦利品に群がる。
「よし!とりあえず拠点Dに運ぶぞ」
その中の1人、リーダー格の【neo】が三人に指示する。
「へーい」
「うん」
「わかった」
それに応じるお気楽な性格の【saito】と紅一点の【kiri】、そして冷静でクールな【sin】
それぞれがポーチにアイテムを無造作に入れていく。
この四人は近い場所に送られていて、互いに知らないもの同士だったが、同じ境遇の者同士力を合わせて二日目を迎えていた。
こんな状況だからこそ四人はすぐに打ち解け、出会って一日目しか経っていないがお互いに信頼しあっていた。
「ネオ、さっきは助けてくれてありがとうね」
「なに言ってんだよキリ。そんなの当たり前のことだろ」
「相変わらず素直じゃないなぁネオちんは」
「ま、それがネオだからな」
「うっさい!いいから手を動かせよお前ら!」
和気藹々としながら四人は拠点Dに向かう。
ここは寂れた市街地のようだがネオたちは四人以外の人を見つけることは出来なかった。
拠点Dとは市街地内にある複数の拠点のうち、ここから一番近い場所だ。
看板曰く安全ゾーンでネオたちは主にそこを使っている。
「三日経ったらどうなんのかねぇ」
サイトが独り言のように呟く。
「こんなの辞めれるって思うしかないだろ」
ネオははき捨てるように言う。
ゲーム開始前の強く念じれば帰れるというのはもう出来ないようだった。
四人がそれぞれやってみたが駄目だったのだ。
機械音も『最終通告』と念を押していたが、そのときは誰もその言葉の重大な意味を考えてなく、今になってその重大さを思い知らされた。
キリは複雑な表情をしてネオを見る。
危機的な状況において恋に落ちやすい、その通りキリはネオに恋をしていた。
キリが惚れっぽく軽い女なわけでは無く、むしろ奥手で控えめな女の子である。
いつも危ないところを助けてくれる、みんなを引っ張ってくれる優しくも心強い、そんなネオを好きになるのは無理も無い話しだった。
そんなキリの様子に気がついてシンが近づき耳元で囁く。
「キリ、今のうち連絡先でも聞いておいたらどうだ?」
「っ!?な……え?シン!?」
「ネオのこと好きなんだろ?良いのか?もう会えなくなっても」
「あぅ……それは……」
キリは口ごもって下を向く。
LPが無くなったら死んでしまってもう会えないかもしれないということに加えて、三日経ってもどうなるか分からないため、キリもそのことは頭にはあった。
しかしキリは現実世界で男子に自分から連絡先を聞いたことが一度も無い。
ましてや二人はあってから一日しか経ってないのだ。
キリが決心つくまでまだ時間がかかりそうだった。
そんな様子を見てシンはやれやれといった様子で短く息を吐いて、「頑張れよ」と言って離れていた。
キリはシンに話しかけられるネオを見る。
“頑張ってみようかな?”
キリがそう思ったとき大きな音が響いた。
---タァーン
“……え?”
キリには何が起きたのか分からなかった。
いや、分かっていたとしても受け付けなかった。
ネオの頭上のLPのゲージが真っ白になり、その代わりと言わんばかりに頭から赤い液体が大量に噴出す。
「はっはっは、まず一匹!」
建物の陰からアサルトライフルを構えた寝癖頭の少年が心の底から愉しそうな顔をしていた。
頭の上には【walker】という表示。
三人があまりの光景に呆然としていると息絶えたネオの体が光に包まれ……消えた。
そして残された【death】という死亡の文字だけが浮いている。
「テメェーーッ!!セロ!!」
それを見たサイトが逆上して大剣を出しながらウォーカーに向かって走り出す。
「サイト!待てっ……」
---タァーン
「よっしゃ!二匹目!」
「くっ!」
シンが止める間もなくサイトが凶弾によって消される。
シンは悔しさに顔をゆがめながらキリを見る。
あまりの光景に声も出ず、その場にへたり込んで呆然とするキリ。
「セロッ!キリ!立ち上がれ!!早く逃げろ!!」
シンは先に刃の付いた長い槍を出しながら、キリの腕をつかんで無理やり立たせる。
「走れ!!お前だけでも逃げ……」
---タァーン
「あ……」
キリの目の前でシンが倒れこむ。
地面に着く前に光となって消え去り、【kiri】と【walker】、そして三つの【death】の文字だけが残った。
「三匹っと」
「あ……シン?……サイト……ネオッ!」
ようやく状況が分かってきたキリは逃げる気力も無くその場でうずくまって泣きじゃくる。
ウォーカーは笑みを浮かべながら銃口をキリに向けた。
「四匹目」
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「ご馳走様でした」
「ははは、どういたしまして」
丁寧に頭まで下げてお礼を言うサクにナイトは感心する。
“ずい分と礼儀正しい子だな”
サクは几帳面に、お菓子の空き袋を小さくたたんでいく。
頭の上のLPはほぼ回復していることから、お腹はだいぶ満たされたと分かる。
「でも、そんなのしかなくてごめんな」
「いえ、おかげさまで助かりました。どうお礼をすれば良いか……」
ナイトの言葉にサクは、慌てて両手を前で振る。
小柄なサクのそんな仕草は、ナイトに小動物を連想させた。
「そんな大袈裟に考えなくても………。どうせ食べるつもりが無かった物だし。それに1人じゃ心許なかったからサク君には感謝してるよ」
「……ありがとうございます、ナイトさん」
サクは感謝の意を表してもう一度深く頭を下げる。
「それからボクの事は『サク』で良いです。サク君は言い辛いでしょう?」
サクが首を傾けながら微笑み、「確かに」とナイトも微笑む。
「じゃあ俺の事も『ナイト』で良いよ」
ナイトもサクに敬称を外すように言うが、サクは小さく首を横に振る。
「いえ、ボクの方は『ナイトさん』と呼ばせてもらいます。命の恩人ですから」
「気にしなくて良いのに」
ナイトはやれやれと言ったように溜め息をつく。
「それにしてもナイトさんに出会えて本当に良かったです。もう少しで餓死するところでした」
「獣を倒すのも大変だからなぁ」
ナイトはサクのか弱そうな体を見て言うが、再び首を振ってサクは歯切れの悪くボソボソと口を開く。
「いえ、それは多分なんとかなると思うんですけど……その…………可哀想で」
「あ……」
ナイトは不意をつかれたようについ言葉をもらす。
ナイト自身もそういう考えが無かった訳ではないが、『ゲーム』や『非現実的』として割り切っていたのだ。
ナイトが複雑な表情をしているとサクが気付く。
「あ……す、すみません。別にナイトさんがいけない事をしているとか言うつもりじゃなくて……ただ自分の覚悟の無さというかその……僕も割り切らないといけないって思ってるんですけど……ごめんなさいっ」
慌てて勢い良く頭を下げるサク。
「……サクは優しいんだな」
「えっ?」
サクはゆっくりと顔を上げると、ナイトが優しい微笑んでいた。
「ははは、会ったばかりだけど不思議とサクの事信頼出来るよ。一緒に生き残ろうな」
ナイトは右手をサクの前に出す。
「あ……はいっ!」
サクはその手をしっかりと握った。