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Dream Circulation  作者: 深雪林檎
一章 春日井莉亜
8/20

7 状況そして遭遇



----深い森林地帯


荒々しく木々が折られ、獣の唸り声が響き、鳥たちが慌てたように一斉に飛びたっていく。

木々を押し分けるようにしてその獣が姿を現した。

猪のような体に小さすぎる飾りのような白い羽、口周りには牙なのか角なのか鋭く尖ったものが何本も飛び出している。

その大きさは像並みで、背中の上に【エレボア】と表示されている。



そして近くの草むらの中で息を殺して隠れる静夜【night】(ナイト)

左手で純白の日本刀の鞘をきつく握り、エレボアの動きを注意深く見ていた。


エレボアはフガフガと詰まったような鼻で臭いを嗅ぐ。

そしてナイトのいる草むらを向き、後ろ足で地面を何度か蹴るような仕草をする。


「ちっ」


ナイトは短く舌打ちをして草むらから飛び出す。

それと入れ替えにエレボアが飛び込み、草むらの傍にあった木に衝突する。

木はミシミシと音を立てて激しく振動し、葉や虫を落とすもののかろうじて折れず、エレボアはぶつかった衝撃で動きを遅くしながらフラフラと再びナイトを探し始める。

ナイトはこの機を逃さず、右手を刀の柄に添えて距離を一足で一気に縮める。


「喰らえっ!」


横薙ぎに一閃。

鞘から刃先にかけて白い残光を残し、エレボアが動きをとめる。

一瞬の間を空けてエレボアは真っ二つになり、音を立てて崩れ落ちた。


「ほんとうにたいした威力と強度だな。セロ」


ナイトは精錬された刀身を眺め、納刀しながら呟く。

“一心”はすぐに光となって消えて刻印に戻る。

一方で息絶えた獣の方は、光に包まれながらゆっくりと薄れていき、完全に姿を消した。

そしてそこにポツンと何かが置いてある。

ナイトはそれを拾って確かめた。


「水に肉か。とりあえず昼食は確保できたかな」


500mlのペットボトルにたっぷりと入った水に、真空パックになった握りこぶし大の調理済みの肉。

ナイトはそれらをポーチに入れ、周囲の獣に警戒しながら移動し始めた。










この森林の中に突然送られてから一日が経っていた。

訳も分からない状況の中、ナイトが分かってきた事が幾つかある。

まず、今のように獣を倒すと食糧や飲み物、雑貨に菓子などのアイテムが手に入る。

ナイトが初めて獣に遭遇したとき、咄嗟に武器で防衛してそれは分かった。

獣には今ナイトが倒したような【エレボア】に、鶏のような外見に長い翼と鋭い爪を持った鷹ほどのサイズの【ファンケ】、地中を泳ぐ比較的害のない魚の姿をした【モロフィ】等がいる。

初めて殺したときは罪悪感があったが、現実味のないことも手伝ってナイトは割り切っていた。

他にも普通の生き物はいたが、手にかけていなかった。



手に入るアイテムは、調理済みの肉や魚、野菜がご丁寧に真空パックされたもの、ラベルの無いペットボトルに入れられた水やジュース、同じく無地のパッケージの菓子類、そして寝袋やマッチ、ランプ等の雑貨にビンに入った回復薬|(飲んでから分かった)だ。

DCでも空腹や疲労があるため、ナイトはありがたく思っていた。

森には豊かな緑に溢れているが、木の実や果物といったものがまったく無い。

ゆえに獣を倒さないと生きていけない。



現実世界なら絶対に倒せないであろう獣も“一心”のおかげもあるが、身体能力の向上が大きかった。

筋力、判断力、瞬発力、視力、自然治癒力など、DCにおいては現実世界よりも何倍も向上していた。

そうでなかったらナイトはとっくに死んでいた。


そしてナイトはまだ誰とも会ってなかった。

ここに送られたときにはすでに独りで、辺りを探しても人を見つけることが出来なかった。

見つけたのはここに送られたとき傍にあったポーチに獣たち、そしてあちこちに立てられた不自然な看板だけだった。


このポーチはナイトが良く分からずして拾って持ち歩いたものだったが、使ってみるとその便利さと不思議さに驚かされた。

まず、このポーチに収まる大きさの物なら、ナイトの試した限りどれだけでも入った。

何かを入れるとそれは光に包まれて消え、ポーチは再び空になる。

取り出すときは取り出したい物を思い浮かべるだけで光とともにポーチの中に再び現れる。

ナイトはこれを存分に活用していた。


不自然な看板はどうやらDCの主が立てたらしいとナイトは推測する。

その内容は『不思議な生き物を倒すと良いことがあるよっ』、『ポーチはちゃんと拾ったかい?』、『頑張って三日間生き残ろう』などふざけた口調でいろいろなことが書いてあった。

その中にはナイトが分かったことも多く書いてあり、また知らなかったことも多く書いてあった。


看板曰く、DCの時間は現実世界に関係ないらしい。

ここで三日間過ごそうが、現実では翌日に普通に起きるらしい。

どういう仕組みでそうなっているのか、ナイトにはさっぱり分からなかったが、今気にしていても仕方が無く生き残ることに専念することにした。


しかしナイトには未だに分からない、無視出来ない大きな問題があった。


“LPが無くなるとどうなるのか?”


機械音の最後の言葉

『それ、LPね。無くなったら死亡……とは言わないけど。今日の冒険はお終いさ。じゃあとりあえず3日間。生き残れるように頑張ってね』


この言葉の意味がナイトには気になって仕方が無かった。

このLPは怪我をしたとき等に減り、空腹や疲労でも少しずつ減っている。

そして自然治癒力や回復薬で怪我が治ったり、食事や休息をとったりすると回復する。

明らかに自分の命を数値にしていた。

DCの世界でも痛みもある。

どう考えてもLPが減ると死んでしまうとしかナイトには考えられないが、『今日の冒険はお終い』という部分が引っかかる。

まるで死んでも次があるような言い方。


“この世界では死ぬけど現実には関係ない?”


非現実的な考えだがDC自体非現実であり、それが一番辻褄のあうナイトの結論だった。







「よっ、と」


ナイトは倒れた木に腰掛ける。

森林の中では珍しく開けた場所で、ナイトの目の前には小川が流れている。

ナイトはポーチからさっきのエレボアから手に入れた肉と水を取り出し、昼食をとり始める。

肉は冷たくもなく暖かくもなく、塩コショウで簡単に味付けされたものだったが、十分に美味しいものだった。


ここは近くに立っている看板によると獣が近づかない場所らしく、ナイトはここを拠点にしていた。

そして看板の通りナイトはここで獣を見ることはなかった。


ナイトは良く噛みながらゆっくと食事し、最後の一口を口に含む。



---ガサガサッ


「っ!?」


背後の方から草が揺らされる音がして、ナイトは倒木から飛び降り、体を反転させて着地して身構える。

音のした場所からはまだ距離があったが、ナイトは獣が来ないと思って無警戒だったため過剰に反応する。

急いで口の中の物を飲み込んで、“一心”を出す。

いちいち【sello】(セロ)と言わなければ武器が出せないのは、食事時には致命傷である。


ナイトは草むらを睨む。

音はゆっくりと確実にナイトの方に近づいていた。


---ガサガサッ


「っ!」


手前の草むらが揺れ、ナイトの“一心”を握る力が強まる。


---ガサ


「「あ……?」」


同時に二人の声が上がる。

ナイトと草むらから現れた咲汰 【saku】(サク)は驚き、お互いに黙ってその場に固まる。

最初にその空気を破ったのはサクだった。


---グゥ~


サクは慌ててお腹を押さえる。

そんなサクのLPはかなり減っていた。


「「プッ……はははははっ!」」


森の中に二人の笑い声は長い間響き続けた。






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