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Dream Circulation  作者: 深雪林檎
一章 春日井莉亜
4/20

3 受信そして来場




ピリピリッピリピロピー♪



「ん?メール?」


机に向き合って授業の復習をしていた静夜はベッドの方に振り向く。

ベッドの上に置かれた携帯電話は規則的な点滅を繰り返し、メールを受信したことを知らせている。


「先輩からの連絡かな?」


静夜は椅子から立ち上がって携帯を手に取る。

部活の時間の指定や、変更点などの連絡は良く来ることがある。

折り畳み式の携帯を開き、静夜はメールを確認する。


「……循環する夢にようこそ……かな?」


静夜は訳も分からないままメールの英文を簡単に和訳する。

差出人も不明で本文の意味も分からないメールに静夜は不思議がるが、良く聞く迷惑メールだろうと気にせず消すことにした。


「あれ?」


静夜は眉をひそめ、携帯に顔を近づけて画面を見る。

メールを消去しようとしても『エラー』の表示が出るのだ。

静夜は何度か試みたが結果は同じだった。


「おっかしいなぁ」


元々機械に疎い静夜にとっては携帯も例外ではなく、あちこちいじっている内に良く分からなくなって諦めた。

きっと迷惑メールとはこんなものなのだろうと静夜は思い、気を取り直して復習を再開すると、しばらくして母親から呼ばれて夕飯の席に向かった。


その後はメールの事もすっかりと忘れてのんびりと過ごし、寝る前に最後は竹刀の手入れをして就寝した。







--------------------------------------







ピーピリピーピリ、ピッピッピー♪



「メールかぁ」


ベッドに寝ころんでいた鈴は体を起こして壁にもたれかかる。

慣れた動作で携帯をスライドさせ、キーを操作してメールを開く。


「うぇるかむとぅどりーむ……しるきゅ?……らっちょん?」


首を傾げながら鈴は英文を読む。

意味どころか正しい読み方も分からない鈴。

しばらく考え込んでアドレス帳を開き、電話を掛け始める。

何コールかして携帯から無愛想な声が流れる。


『……もしもし』


「あ、莉亜ちゃ『ちゃん付けするな』ごめん」


鈴はエヘヘと笑う。

無意識にちゃん付けしてしまう事を中々止められないのを悪いとは思っている鈴だが、莉亜の反応が面白いとも思っていた。

鈴の記憶が正しければ小さい頃からずっと同じやり取りをしている。


『……何か用?今からご飯なんだけど』


「あ、うん。特に用はないんだけどねー」


『じゃあ、おやすみ』


「あわわっ、ごめんごめん莉亜ちy『ちゃん付けすんな』ゴメンナサイ」


電話越しに頭を下げて謝る鈴。

携帯から溜め息が聞こえ、鈴は話を切り出す。


「あのね、今さっき変なメールが来てね、莉亜t……莉亜の所にも来てるかなぁ、ってね」


『……ああ、そういえば何か来たよ』


電話越しに莉亜の面倒くさそうな声が聞こえる。


「私迷惑メールなんて初めて……あっ!莉亜ぁ~どうしよう私の初めて奪われちゃt『プー、プー、プー』ありゃ?切れてる」


鈴は携帯を閉じて、腕の力でベッドから飛び降りる。

メールの事を考えるが特に何も考え付くことなく、ご飯を腹いっぱい食べて幸せな気分になった頃にはすっかり忘れて寝た。







--------------------------------------







----とある部屋にて



ピッピッピー、ピッピッピピー♪



「ちっ、あぁもうっ!なんだよっ!」


薄暗い部屋の中、イライラした声が響くとともに、パソコンから大きな音が出る。

寝癖だらけの頭の少年がパソコンから手を離し面倒くさそうに携帯を手に取る。

パソコンの画面は少年が敗れた事を表示していた。


少年はイライラし続けながらもメールを開いてみる。


「…………へぇ」


中身を見た少年は表情を急に変え、含みのある笑いを零して楽しげにニヤける。



---トン、トン



その時ドアがノックされ、ドア越しに弱々しい声が入り込んだ。


「歩夢?ご飯だけどここに置いておくわね。……出来れば居間でお母さん達と一緒に……ううん、なんでもないわ」


ドアの前に何かが置かれる音がして、僅かな足音が遠ざかっていく。

歩夢と呼ばれた少年は汚いものでも見るような眼でドアを一瞥する。

歩夢の名字は小山内。小山内歩夢(おさないあゆむ)


歩夢はパソコンの電源をつけたままソファーに寝転がり、すぐに眠りに落ちた。







--------------------------------------






----とある飲食店にて



テッテテー、テテテッテテー♪



「あ、ごめんなさい」


ウェイターの格好をした、小柄で可愛らしい少年が慌てて音を消そうとする。


「構わんよ咲ちゃん。ワシしかおらんしの」


「咲汰、店の手伝いは良いから宿題でもして来い。どうせ客なんて来やしない」


幾つかあるテーブルに座る年老いた唯一の客と、自嘲気味に笑う店主が声を掛ける。

咲汰(さくた)と呼ばれた少年は携帯を開いてメールを確認するが、意味の分からないメールに眉をひそめ、すぐに携帯をしまう。


「ううん父さん、間違いメールみたい」


少年は布巾を棚から取り出して水に濡らし、良く絞ってからテーブルを1つ1つ丁寧に拭き始める。

何かから気を紛らわすように一生懸命に。



「咲ちゃんは働き者だのう」


「ああ、自慢の息子だよ。こんなバカな親に愛想つかさずにそばに居てくれる」


店主が常連らしき老人のいるテーブルにコーヒーを持って行き話し込む。


「もう保ちそうにないのかい?」


「ああ」


老人の問いに店主は悔しそうな、諦めのついたような複雑な顔をして答える。


「あの話……宇津宮(うつみや)グループの話を断るからじゃよ」


老人がコーヒーを啜りながら言う。


「ウチはウチのやり方でやっていく。例え潰れようがあんな腐ったやり方の奴らに従うくらいなら万倍マシだ。……ただ、咲汰の事を考えるとすぐにでも諦めるほうが良いのかもしれないな」


店主の言葉は尻すぼみに弱弱しくなっていく。

老人は何も言わず、コーヒーをまた啜った。




結局その日の客は老人1人だけで閉店を迎え、咲汰は父と共に店を丁寧に掃除して、ぐっすりと就寝した。







--------------------------------------








----とある車内にて



ピピピピピピッピー♪

ピリリロッピリー♪


「羽哉、携帯鳴ってるわよ」


「柚希様もです」


二人の女性がお互いに指摘する。

羽哉(わかな)と呼ばれた方はボーイッシュな髪にきちっとした執事服を着ており、柚希(ゆずき)と呼ばれた方は正反対に女らしい体型に綺麗で清楚な服装であり、どちらもタイプは違うものの美形である。

羽哉はポケットから、柚希はバッグから携帯をとりだし、メールを確認する。


「……迷惑メールの類のようです」


「私も同じだわ」


柚希は溜め息をつきながら羽哉に携帯を差し出して言う。

羽哉はそれを受け取って画面を覗き込む。


「私も同じメールを受け取っています。なんなのでしょうか」


「なんなのかしらね」


羽哉は柚希に携帯を返して訊くが、柚希は興味が無いといった様子で、携帯をしまう。

羽哉はもう一度自分の携帯のメールを見てからポケットにしまう。


“お嬢様の携帯のアドレスを入手しただけでは飽き足らず、恐れ多くも迷惑メールを送ってくるとは。ただでは済まさない”


歯軋りをしながら窓の外を睨む羽哉。

それを尻目に見て柚希は頼もしく思ってクスクスと笑う。



その夜、柚希はいつもと変わらず眠りにつき、羽哉はメールが気になったまま眠り落ちた。







この日、3000人の高校生に意図不明のメールが同時に送られた。

大抵の高校生は気にもとめず、大半がその存在を忘れたまま眠りについた。

しかし彼らが眠りについた途端、否が応でも思い出させられることになるのだった。








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『おやすみ、そしてDCの世界にいらっしゃい。あはは、あはははははっ』







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