雪の降る夜だった。
Aは窓から外を眺めた。
メールを返信したばかりの、携帯電話を手に持ちながら。
Aは携帯っこだった。幼いころから持ち歩くよう言われていた。
彼女は根っからのメール好きで、何かと時間があれば
すぐメールだった。何かをするときも、メールと一緒、ということが多かった。
ご飯を食べるとき、テレビを見ているとき、学校での授業中だろうとお構いなし。
とにかく携帯の画面から目を離さなかった。
そんなこともあって、よく周りからは文句を言われた。
「ご飯の最中くらい、携帯やめなさい。」とか、
「テレビみるかメールするかどっちかにしなさい。」とか。
しかし、Aにはそれも慣れっこだった。
ある程度まで注意すると周りの大人たちも、
最近の高校生の風潮なのだろうと、強制はしなかったのだ。
「オヤスミ。」
返ってきたメールを読んで、Aはベッドに入った。
降り積もる雪の静けさが、Aを安らかな眠りへと誘った。
「チャーンチャチャチャーン」
午前3時くらいだろうか。突然、携帯がなった。
その音でAは目を覚まし、携帯を手に持った。
画面には、「新着メールあり」の文字。
「誰だろう?こんな時間に。」
いささかの不機嫌さを覚えながら受信したメールを見た。
そこには「私、ニャモと言います。友好的関係を持つため
宇宙からやってきました」そう書かれていた。
ニャモ?ニャモなどという名前の友達はいない。知り合いにも
そんな名前に覚えはない。新手の嫌がらせか、それとも
詐欺か。いずれにせよ関わらないほうがよさそうだ。
そう思って、自分のアドレスを変更しようとした。
そのとき、新たにメールが届いた。さっきの送信宛だ。
それには短く、「お友達になりましょう」そう書かれていた。
出会い系の種類かな。そう思ってAはそそくさとアドレスを変更した。
これで大丈夫。Aは携帯をとじて、再び眠りに落ちた。
次の日の夜。また一通のメールが届いた。
同じ内容でただ一言、「友達になりましょう」と。
Aは、さすがに恐怖を抱いた。
なぜ、アドレスを変更したのに同じメールが届いたのか。
Aはそれから何度かアドレスを変更した。
あるときは携帯会社に相談し、受信を拒否できるようにもしてもらったが
それでもそのメールは届く。
Aは、いよいよ嫌になり、新しい携帯を購入した。
これでもう大丈夫だろう。そう思った。
携帯を変えた、その日の夜だった。
また新しいメールが届いた。誰にも自分のアドレスは教えていない。
恐る恐るメールをよむと、「なぜ返信してくださらないのですか?」
と、そう書かれていた。
何度も何度も一方的にメールを送ってきて、非常識にもほどがある。
Aの中で恐怖が怒りへと変わった。
「ふざけるのもいい加減にしてください!こっちは迷惑しているんです。
警察に訴えますよ。何をたくらんでいるか知りませんが、ともだちになんてなりません!
もうメールしてこないで下さい!」
そう書いて、メールを返した。
それ以降、そのメールは来なくなった。
さて、読者の方は予想できていると思うが、そのメールは、しかし重大な意味を持っていた。
おそらく、彼女が友好的にそのメールに返信していれば、地球は宇宙へと大きな
一歩を踏み出したであろう。それらは言うまでもなく、高度な文明を持った宇宙人
からのメールだったのである。メールは不特定多数の全世界の人々に送られた。
その中の何通かは、一国家の政府機関、研究機関へも送られた。
しかしそれらを受け取った全ての人々は、たちの悪いいたずらとみなし、その
メールに返信するのはおろか、あるものは、犯罪者、犯罪グループからの犯罪予告
とみなし、そのあて先にウィルスを送りつけて返信したのである。
返信されたメールを受け取り宇宙人たちは話し合うのであった。
「こんなに非友好的な星は初めてだ。終いには、コンピューターウィルスを
送ってきた。おかげでシステムの復旧にえらい時間を費やしてしまった。」
「しかし、キャプテン。あんな単調なメールなら、変なように取られても仕方
ありませんよ。やり方を変えてもう一度・・・」
「いいや。この星にはがっかりだ。情報技術に優れ、情報共有率も高いこの程度の文明
なら、我々を受け入れてくれた星はいくつもあった。それに、たとえ変なようにとらえ
られたとしても、そのようなとらえ方しかできないやつしかいないということだ。個々
に不信感を持たせるような文明だということだよ。まったく」
「では、次の星へ行きましょう。文明レベルはこの星より劣りますが、
そこの生命体とならきっと関係が持てるはずです」
そう言って宇宙人たちは、次の星へと旅立ってしまった。
Aの携帯に本物の嫌がらせメールが届いたのは丁度そのときであった。
単調な文で、「私と、友達になりませんか?」と。
お読みになっていただき有難うございました。
犯罪の多発によって、人々の心には絶えず
不信感が増大しています。他人に挨拶をすることでさえ犯罪につながりかねないこの時代。
もちろん、不信なメールにはご用心を。
作者:夏猫