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神獣たちの初夜4

「そのまま、撫でてくれればいいものを」

「いいえ、そのような真似は」


「どの程度ならば、触れても構わないと。そなたの良い人は言っているのだろうね」

「友人との戯れならば、良いのではないでしょうか?」

 なぜ、この場面で飛鳥のことを出すのか、と静は思う。


 思わず投げやりに答えたけれど、

「いいや、恐らくは嫉妬の炎で狂うだろう」と寛麒は笑う。


「あなたは、いつもからかってばかりですね。この、真似事もまた、からかいなのでは?」

「これは、本当さ。もちろん、こんな児戯のような戯れで、子を成せるわけはないけれど。目くらまし位にはなっただろう。本来ならば、尾をそなたの後ろ脚の狭間に……」

 と口にする寛麒はすでに人の姿に戻っている静の、胡坐座の足に向かっていた。思わず静は居住まいを正し、正座になおる。


「胡坐座をする后というのも、中々」

「き、気のせいでしょう。先ほどからずっと、このように座っておりました!」


「私の前で装うことはないよ。取って食ったりはせぬし、そなたと姦淫に耽ることを望むわけでもない。恐らくは」

「恐らくは……が気になりますが」

 静が言うと、寛麒は笑う。


「私は王を継ぐつもりはない。ただ、父上や長老たちがそう動いているだけだ。もっとも母上は実子である朗麒を打ち立てたいと思っているようだが」

「では、あなたの目的は?」


「麒鞠や他四家の平穏、繁栄だ。それを阻もうとする者や、崩そうとする者から護らねばと思っている」

「それこそ、王の器だと思いますが」

「嬉しいことを言ってくれる。ただ、私は力に興味がないのだ。学問や歌舞、武芸を楽しめれば、それでいい。面白きものが好きなだけ。退屈は遠ざけたい」


「それには同意です。ただ、私はこれから何をすれば良いのですか?」

「静龍そなたには、交遊や交際をお願いしたい」

「交遊や交際とは、どのような?」


「淫らなものから、そうでないものまで、広く付き合いを広げて欲しい。中宮や麒鞠の領地内である必要はない。宮政から、市井まで広く見聞きし、それを私に伝えて欲しいのだ」

「少し、気になる言葉がありましたが。つまり、諜報の仕事をせよとのことですね」


「そうだ、私は領地外に出ることは中々難しい。静龍には、私の耳目となって欲しいのだ」

「それは、各当主を通さずに知りたいことがおありだと、暗におっしゃっているように聞こえますね」


 当主から見聞きすれば、領地の情報は入って来るだろう。市井まで見聞を広げよということは、当主の発言の裏付けを必要とする、と暗に言っているのだ。


「ハハハその通りだ。主観や利害で歪んでいない視座が必要だと思っている。そなたは、武門の者ゆえに、利に偏るまい。そして、良き者と絆を結んでいるようだ。まあ、敵に回せば恐ろしいだろうが、紗紅那のあの男はたやすい色や利に揺れる者ではないだろう。静龍。麒鞠、そして五家の平安を守るために、協力して欲しい」


 寛麒はそうして、頭を下げた。次期王が頭を下げるとは思わず、静はすっかり驚いてしまう。白露の噂では、麒鞠には高慢な者しかいないと聞いていたのに。


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