麒鞠と碧羅の婚礼式1
静が動けば、シャラシャラと金色の王冠の飾りが揺れる。金地の婚礼服には碧緑の宝飾が施されており、静が動くたびに陽の光りを浴びて、きらめく。そこここで、静の装いに感嘆のためいきを漏らす声が聞こえた。
静は目元に孔雀色の化粧を施し、口元には猩々緋の紅を引いている。くっきりとした気の強そうな目に、艶やかな化粧が映えていた。
「美しいよ、静龍」
と隣からかかる声を、静はことごとく無視し続ける。これは責務でしかない、と静は思っていた。それでも、隣に並んだ寛麒は執拗なくらいに賛美の言葉を浴びせてくる。視線をあげれば、周りを囲むのは見知った顔ばかりだ。
麒鞠の本殿である中宮の庭園で、麒鞠と碧羅の婚礼式が執り行われていた。麒鞠と碧羅の二家のほか、紗紅那と白露、玄毬の三家の当主や細君、王子や姫が参列している。
碧羅家の管理下にある震宮や巽宮周辺の領主や家族、そして麒鞠家の治める中宮以下、坤宮、艮宮の領主やその家族たちも参列していた。
紗紅那、白露、玄毬の三家はそれぞれ家の象徴たる正装をしている。碧羅と麒鞠のみ、互いの象徴たる色を混ぜた婚礼衣装で装うのが慣例だ。
紗紅那家の面々が視界の端に見えたとき、静の心臓は跳ねあがった。当主である郭鳥をはじめとして、細君、飛鳥の兄・朱鳥や妹・連雀の姿も見える。正装に身を包んだ飛鳥の姿を見つけて、静は身体が熱くなるのを感じた。飛鳥の緋色の瞳は、静を真っすぐに見つめていた。
静は一度視線を合わせたあとで、すぐに逸らす。寛麒に感づかれては困る、と思った。
紗紅那家の場所を通り過ぎ、白露、玄毬家の並びを通り祭壇へと向かう。祭壇近くには碧羅家の母上や兄妹、麒鞠家の后や寛麒の弟妹がいた。寛麒の弟は朗麒、妹は楊麟というらしい。后は前回の運で婚姻した玄毬家出の后で、元の名を珠蛇という。
祭壇の前で向かい合い、欄干に立てかけられていた演舞用の長刀を手に取った。参列者の中から驚きと興奮がまじった声があがる。静が婚礼での演舞を希望したところ、寛麒も現王も快く受け入れてくれた。
静は覇気を放ちながら長刀を寛麒へと振るう。寛麒もまた、かわしながら静に長刀を振るうのだが、静の覇気には及ばない。戯れのような動きである。
このまま寛麒の首を討ち取ったらば、婚姻はなかったことになるのでは?とバカな考えばかりが頭を満たすが、これは理を乱すこととなり、荒廃を招くことになるだろうとも分かっていた。
かつて碧羅と麒鞠とが争った歴史があるという。碧羅は四家の中で唯一麒鞠の手綱を引ける関係だ。力を誇示し、麒鞠を滅ぼし五家の頂点に立とうとした歴史がある。
とはいえ、万物の巡りとして碧羅は母なる大地・峻厳たる山岳たる麒鞠がいなければ、樹木や果実を育てることが叶わない。
当時は田畑や大地は荒廃しつく、困った他三家の説得や取り計らいにより、和議を行ったようだった。
碧羅と麒鞠の争いの他にも、五家には諍いの種子が常にある。ときの君主や各家の当主たちの力量によって、家同士の力関係が変化するからだ。




