第三話 プロイセンの寮
プロイセンに着いた後、ノアとアルトは駐屯地へ回された。
国境で登録して、紙に名前を書かされて、番号札を渡されて——流れ作業みたいに進む。
案内されたのは、軍の敷地の奥にある少年寮だった。
入口で下士官が名簿をめくりながら言う。
「部屋は“型”で分ける。戦闘型と非戦闘型だ」
「暴れるのをまとめない。事故が増えるだけだ」
部屋は三人部屋。
扉を開けた瞬間、声が飛んできた。
「おっ、新入り!」
同室の少年が、最初から距離ゼロで来た。
見るからにうるさそうだ。けど、嫌いじゃない。
「俺はユリウスってんだ。お前、名前は?」
「アルトだ」
「アルトか! よろしくな!!」
「おう、よろしくなユリウス」
部屋を見渡すと、ベッドが三つあることに気づく。
「ベッド三つあるけど、他に誰かいんのか?」
「あぁ、いるぞ。アイゼンってやつだ。気難しいぞ。ほとんど喋らない」
ユリウスの言い方だと大げさに聞こえるが、性格上仕方ない。
アルトは苦笑いをした。
結局アイゼンは部屋に戻ってこなかった。
今日はもう遅いということで、眠りにつくことになる。
「なぁアルト、起きてる?」
「あぁ起きてるぞ。どうした?」
ユリウスは小声のつもりで、全然小声じゃない。
その夜、ユリウスのせいではなかなか眠れなかった。
⸻
角笛が鳴る。
起床の合図だ。
ユリウスはイビキをかいて爆睡している。
「おいユリウス、起きろ」
アルトはユリウスの頬を軽く叩いた。
「んぁ? お、もう朝か……なんか眠り浅かったわ」
「いやおめぇのせいだろ!」
朝は整列、点呼、体操、清掃、朝食の順だ。
「やっと朝食だぜぇ」
ユリウスが息を切らしながら、アルトと食堂に向かっている。
「はぁ……ユリウス、お前、清掃に力入れすぎだろ」
アルトも息を切らしながらユリウスに指摘する。
そう、この2人は同類なのである。
そこへ、銀髪で眼鏡をかけた少年が現れた。
二人を見るなり、露骨に嫌そうな顔をする。
「おい……マジか。まさかとは思ったが、面倒くさそうなやつが同部屋になったな」
「おぉ! アイゼンじゃねぇか! お前昨日また帰ってこなかったなコノヤロウ!」
「頼むから朝は静かにしてくれ」
呆れ気味にユリウスに返すと、そのままアルトに目を向ける。
「俺はアルトだ。よろしくな、アイゼン」
「お前はコイツよりマシなようだな。よろしく頼む」
何か言われるかと思ったが、案外普通に返答されて少し驚く。
そのまま三人で食堂に向かった。
⸻
食堂は広い。
列ができて、配給が配られて、全員が同じ方向を向いて食べる。
アルトがトレーを持って座ろうとしたとき、向こうの列から見慣れた黒髪が見えた。
ノア。
背筋が勝手に伸びる。
あいつは別の棟に回されたはずだ。
「ノア!」
アルトが手を上げると、ノアは一瞬だけ目を細めた。
「……声でかい」
アルトが隣に座ると、ユリウスが目を輝かせて割り込んできた。
「え、誰!? アルトの友達!?」
「俺とノアは血は繋がってねぇけど、兄弟みたいなもんだ」
「そうなのか! アルトと兄弟ってんなら、俺も似たようなもんだな! よろしくな!」
ユリウスはアルトの時と同じように、距離ゼロでノアに詰め寄る。
ノアは一拍置いてから、口元だけ僅かに緩めた。
「……似たもの同士だな。お似合いだ」
「だってよ! 俺も初めて会ったときから同じ空気感じてたんだよ!」
アルトは思わずノアを見る。
「え、俺ってこんなんなのか?」
ノアは淡々と返す。
「あぁ、こんなんだ」
「おい! 俺の扱い酷くねぇか!!」
三人が言い合っていると、食堂の外から号令が飛んだ。
「訓練場へ移動! 整列!」
ユリウスが顔を青くする。
「え、もう!? 朝食したばっかだろ!」
アイゼンが冷たく言った。
「文句言う前に並べ。置いていかれるぞ」
アルトはトレーを置きながら思う。
——プロイセンでの生活が、ここから始まる。
読んで頂きありがとうございます。




