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第8話:京都の悲劇、あるいは学習しない女


これは、バリキャリ外資系コンサルタントでありながら、男運が壊滅しているシノさんの、涙なしでは語れない過去の物語である。


File.1:パチプロのケンちゃん(ハン姉妹と出会う前)

それは、まだシノさんがハン姉妹と出会う前。

仕事でストレスを抱えていたシノさんの心の隙間に入り込んだのが、ケンちゃんだった。

彼は「自称パチプロ」。働いてはいないが、独自の「攻略理論」を持っていると語る、口のうまい男だった。

「ええか、シノちゃん。この台はな、電圧の波が来てるんや。今ここで投資すれば、倍になって返ってくる。それは俺らの結婚資金になるんやで」

狭いアパートの一室。ケンちゃんは熱っぽく夢を語った。

シノさんは、その「夢」という言葉に弱かった。

「……ほんまに? ケンちゃんがそう言うなら……」

「おう、任しとき! 俺の読みは絶対や。ただ、今ちょっと手持ちの種銭が足りんくてな……」

シノさんは、カバンから封筒を取り出した。

昨日支給されたばかりの、夏季賞与ボーナス全額が入った封筒を。

「これ、使って。二人の未来のためやもんね」

「おお! シノちゃんは女神や! ほな、倍にして戻ってくるから待っててな!」

ケンちゃんは風のように部屋を出て行った。

そして、二度と戻ってくることはなかった。

後日、彼の部屋に残されていたのは、大量のパチンコ雑誌と、「探さないでください」という書き置きだけだった。


File.2:バンドマンのタクヤ(ハン姉妹との出会い)

傷ついたシノさんが次にハマったのは、売れないビジュアル系バンドマンのタクヤだった。

この頃にはすでにハン姉妹と知り合っており、シノさんはカフェテリアで二人にのろけまくっていた。

「今度の彼の新曲な、『月明かりの堕天使』っていうねんけど、私のことを想って書いた歌詞らしいのえ。才能あるわぁ、あの子」

うっとりと語るシノさんに、ジウンとソヨンは顔を見合わせた。

「シノさん、その人……ちゃんと仕事とかしてんの?」

ジウンが心配そうに泉州弁で尋ねる。

「ううん、音楽に専念したいから言うて、家賃も生活費もウチが出してる。私が支えたげんと、あの才能が潰れてしまうやろ?」

「……典型的なヒモやん」

「投資やなくて、浪費にならんかったらええけど……」

ソヨンの北摂弁の懸念も、恋に盲目なシノさんには届かない。

しかし、結末は唐突に訪れた。

ある日、シノさんが家に帰ると、タクヤのギターと荷物が消えていた。

テーブルには一枚のメモ。

『ごめん。ファンの子(JK)とマジで愛し合うことになった。探さないでくれ』

「女子高生て……! 才能に惚れた言うてたのに、結局若さが一番なんかえ……!」

シノさんは北摂大学のキャンパスの片隅で、ジウンとソヨンに慰められながら一晩中泣き明かしたという。


File.3:戦場医のジェームズ(マッチングアプリの罠)

そして最近の話。

懲りないシノさんは、マッチングアプリに手を出した。

相手はジェームズ。プロフィール写真は、ハリウッド俳優のような彫りの深いイケメンで、医師のスクラブ(白衣)を着ている。

「見て見て、この人。紛争地帯で医療活動してるアメリカ軍のドクターやて。毎日命がけで怪我人を治してるらしいの。立派なお人やわぁ」

スマホの画面を見せられたハン姉妹の目が、一瞬でスナイパーのように鋭くなった。

「シノさん、それ……チャットの日本語、なんか変ちゃいます?」

ジウンが指摘する。

James:『私の愛するシノ。今日の爆撃は激しかった。しかしあなたの笑顔を思うと心が平和です。ところで、私の荷物が税関で止まっています。解除手数料として50万が必要です。愛の証として助けてくれますか?』

「……これ、翻訳ソフト丸出しやんけ。『私の愛する』とか言うてる場合か」

「シノさん、ちょっと待って」

ソヨンが無言でスマホを取り出し、ジェームズの顔写真を画像検索にかける。

数秒後。

「出ました。これ、アメリカの一般人がSNSに上げてる写真の無断転載やね。あと『国際ロマンス詐欺 軍医』で検索したら、同じ手口が山ほど出てくる」

ソヨンが冷静にスマホの画面をシノさんに見せる。

「え……? 嘘……え? ジェームズは? 私の愛は?」

「全部AIか詐欺師のオッサンですよ! 目ぇ覚ましてください!」

「お金振り込む前でよかったわ、ほんまに!」

ジウンに肩を揺さぶられ、ソヨンに証拠を突きつけられ、シノさんはようやく夢から覚めた。

危うくまたボーナスを失うところだった。


***


「……ちゅうことがあってな。ウチ、もう男なんて信じひんて決めたんえ」

そう語るシノさんには今、新しい彼氏がいる。

タツヤ(仮)。自称起業家で、職業不詳。

「でもな、タツヤ君は違うの。今度こそ本物やと思うわ」

ジウンとソヨンは同時に心の中で叫んだ。

((いや、絶対あかんやつや!!))

シノさんの受難は、まだまだ続く。


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