第3話:要塞化するヨースケの部屋と、鉄壁のジウンバリア
ジウンの実家から大学までは、電車を乗り継いで片道1時間以上。往復2時間半のロスは、朝の弱いジウンには致命的だ。 バイク通学もするが、雨の日や飲み会の翌日、あるいは単に「めんどくさい」日は、必然的にこうなる。
「大学から徒歩圏内にある、親友ヨースケの家」への入り浸り。
ヨースケのワンルームマンションの洗面台は、すでに占領されていた。 高級なドライヤー、ヘアアイロン、ブランド物の化粧水に乳液、散乱するメイク道具……。一人暮らしの男子大学生の部屋には似つかわしくない「女子の生活臭」が充満している。 クロゼットにはジウンの着替えが常備され、もはや半同棲状態だ。
これこそが、ヨースケが「モテない」最大の理由だった。 ヨースケ自身は決して悪くない男だ。優しく、面倒見が良く、身長もそこそこある。 だが、周囲の女子はこう思うのだ。 『あんな美人の幼馴染が入り浸ってて、勝てるわけない』 『どう見ても出来てるでしょ、あれ』 ジウンという存在が強力な**「魔除け(女子除け)」**となり、ヨースケへのアプローチを自動的に遮断してしまう。結果、ヨースケの恋愛市場価値は「売り切れ」のまま凍結されている。
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一方、当のジウンはというと、天性の「人たらし」かつ「距離なし人間」だ。 学内でも、彼女は男子学生とすぐに仲良くなる。 ボディタッチ多めで話し、相手をその気にさせ、告白させる。 だが、そこからが彼女の真骨頂だ。
「え? ごめん、付き合うとかじゃないんだ」
あっさりと振る。 しかも恐ろしいことに、翌日には「おっすー!」と何事もなかったかのように話しかけ、また仲良くするのだ。 振られた男たちは情緒を破壊され、混乱しながらも、結局また彼女の引力に巻き込まれていく。
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そんな地獄絵図を一番近くで見ているのが、ヨースケだ。 彼は、そのサイクルを既に2周している猛者である。
(俺はまだ、諦めてないからな……)
ヨースケは、ジウンが脱ぎ散らかした服をハンガーにかけながら、心の中で呟く。 彼は悟ったのだ。下手に「彼氏」になろうとして砕け散り、気まずくなって疎遠になる他の男たちと同じ轍は踏まない。
今は、**「親友」**という名の特等席でいい。 合鍵を持ち、毎日顔を合わせ、風呂上がりのすっぴんを見られるこのポジション。 他の男が絶対に踏み込めないこの聖域を死守しながら、ヨースケは虎視眈々と「3度目の正直」を狙っている。 自分に言い聞かせるように、彼は今日もジウンのためにドライヤーのコンセントを挿して待つのだった。




