第2話:距離感のバグと、相棒の定義
通学方法は日によって違う。
ジウンの実家がある泉佐野から大学のある北摂エリアまではかなりの距離がある。電車だと乗り換えが多くて「だるい」遠距離通学も、愛車**Kawasaki ZX-6R(2020年式 KRTエディション)**に跨れば、阪神高速を駆け抜ける爽快なツーリングへと変わる。
エンジンの熱を感じながら大学の駐輪場に滑り込むと、腹に響く重低音と共に一台の青い影が現れた。
機械工学科の3回生であり、ジウンの姉、ソヨンだ。
彼女の愛車はYAMAHA YZF-R1(2024年式 ディープパープリッシュブルーメタリック)。クロスプレーンエンジンの独特な不等間隔燃焼サウンドを響かせ、ジウンの隣に手慣れた様子で停車する。
「お、ジウンちゃん。今日はバイクなん?」
ヘルメットを脱ぎ、ふわりと髪をほどきながらソヨンが穏やかな北摂弁で笑いかけた。
対するジウンは、K-POPアイドルのような美貌から、コテコテの泉州弁を放つ。
「お、オ姉やん。せやねん、電車乗り換えんのほんまメンドくてなぁ。一気に走ったほうがラクやし」
「ふふ、相変わらず運転好きやねえ。気ぃつけて乗りや」
「オ姉も実験?」
「うん、今日は長引きそうやから。帰りの足確保しとかんとね」
排気量もメーカーも違うが、並んだ2台のスーパースポーツと、ヘルメットを抱えたK-POP系美女姉妹の姿は、無機質な駐輪場でも一際目を引く。
***
場所を移して、学食のカフェテリア。
ソヨンと向かい合ってランチとお茶を楽しんでいると、トレーを持った男子学生が、さも「ここが俺の指定席」と言わんばかりにジウンの隣に座った。
「よう、ジウン。……お前、また俺のパーカー着てきたんか」
「あ、ヨースケ! 昨日の夜、アンタの家で借りパクしたままやったわ。ええやろ、これ気に入ってんねん」
「ええけどさぁ……。俺も今、ジウンのそのシャツ着てるし。まあ、おあいこか」
ヨースケはバイクには乗らない。ごく普通の男子学生だ。しかし、ジウンにとっては**「一番の親友」であり、代わりのいない「相棒」だ。
二人の身長はほぼ同じ170cm。そのため、こうして服を貸し借り(主にジウンによる徴収)することも日常茶飯事だった。
ジウンの実家は遠いため、大学近くのヨースケの部屋は事実上の「ジウンの別荘」**と化しているのだ。
「ほら、口開けろ。新作のプリン、食いたい言うてたやろ?」
ヨースケが自分のデザートをスプーンですくい、自然な動作でジウンの口元へ差し出す。
「え、マジ!? さすがヨースケ、仕事早いやんけ! あーん」
パクり。ジウンは何の躊躇もなくそれを口に含み、とろけるように頬を緩める。
「んんーっ、バリうま! ヨースケ、天才ちゃうか!」
「はいはい、買うてきたん俺やけど作ったんはコンビニやからな」
端から見れば、完全に**「同棲中のラブラブなバカップル」**そのものだ。
ソヨンは呆れたようにコーヒーを啜る。周囲の学生たちも「はいはい、またやってるよ」という生温かい目で見ている。
だが、現実は小説よりも奇なり。
実はこの物語が始まる前、ヨースケはジウンに過去2回告白し、そして2回ともきっぱりと振られているのだ。
「ごめん、ヨースケは友達として最高やねん!」
その言葉で撃沈しつつも、ヨースケは気まずくなるどころか、こうして「一番の親友ポジション」という名の**「執事兼保護者」**に居座り続けている。
ジウンのために親のアルファードを出して買い物の運転手をし、部屋を貸し、飯を作り、誰よりも近くにいる。
恋人未満、親友以上。いや、親友という名の何か別のカテゴリー。
「……ほんと、あんたたちのその距離感、バグってるわ」
ソヨンの上品なツッコミは、二人の楽しげな笑い声にかき消された。




