第9章 その7
次なる標的は、最前線で剣を振るうレンだった。
操られたエイリンは、機械的な動作で矢をつがえると、レンの巨体めがけて矢を放つ。
矢は正確にレンの胸を捉えたが、頑丈な鎧に阻まれ、甲高い音を立てて弾かれた。
ほとんどダメージはない。
しかし、仲間から放たれた矢を受けたという事実は、レンの心に無視できない深い傷を残した。
「エイリン……!」
歯を食いしばるレンの背後で、リアンの歌声が続く。
その鎮魂歌は、レギオンたちの魂をわずかずつ、しかし確実に削り取っていく。
もはやそれは、ただの詩ではない。友を取り戻そうとする、彼の魂そのものの叫びだった。
ルードは、自らの傷を顧みず、レンの持つバスタードソードに神聖な祝福をかけた。
剣身がまばゆい光を帯び、その刃に聖なる力が宿る。
「レン、その剣で迷いを断ち切りなさい!」
その直後、一体のレギオンが疲労の見えるルードに襲いかかった。
鋭い爪によるひっかき攻撃。
しかし、瘴気による疲労はルードの動きを鈍らせてはいても、その信仰篤き心までは蝕んでいなかった。
彼は最小限の動きで攻撃をかわし、懐に潜り込むと、護身用のノーマルアクスを敵の脇腹に深々と叩き込んだ。
手応えは十分。
レギオンは苦悶の声を上げ、大きく体勢を崩した。
その隙を、闇に潜む狩人が見逃すはずはなかった。
「――そこ!」
ミアルヴィが影の中から稲妻のように飛び出し、体勢を崩したレギオンの急所にショートソードを突き立てる。致命傷を受けたレギオンは、断末魔の叫びを上げる間もなく崩れ落ち、塵と化した。
休む間もなく、フィアの魔力が炸裂する。
彼女が放った純粋な魔弾が、別の一体のレギオンを正確に撃ち抜いた。
怯む怪物たち。
しかし、レギオンたちは再び忌まわしきポイズンブレスを吐き出した。
緑色の瘴気が洞窟を満たし、リアン、フィア、そしてルードが毒に蝕まれる。
三人の顔に濃い疲労の色が浮かんだ。
「こいつら……!」
レンが、祝福を受けて輝くバスタードソードを構え直す。
仲間たちが毒に苦しむ中、自分が前線を支えなければならない。
彼は咆哮と共に一体のレギオンに斬りかかり、皮膚を切り裂いた。
ボロボロになったレギオンがよろめく。
だが、一行の奮闘をあざ笑うかのように、祭壇の黒水晶がまたしても脈動し、倒されたミアルヴィの一撃で消えたはずの闇から、新たなレギオンが一体、その姿を現した。
敵の数は減らない。終わりの見えない戦いに、一行は徐々に、しかし確実に疲弊していく。




