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六つの運命と深淵の眼  作者: toritoma
第9章 呪いのペンダントと歪んだ願い
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第9章 その4

 アーバンクの街は、鉛色の空の下、いつもと変わらぬ無機質な喧騒に満ちていた。

 しかし、その雑踏の中を、一行は焦燥感を胸に駆け抜けていた。

 時間は刻一刻と過ぎていく。

 エイリンが一人で敵の拠点に乗り込むなど、無謀という言葉ですら生ぬるい。


「いたぞ! 東の門だ!」

 リアンの声が響く。城門の衛兵に聞き込みをしていたルードが、彼らを大きく手招きしていた。

「今朝早く、狩人の娘が一人で街を出ていった、と。森で薬草を摘むと言っていたそうですが、その目は虚ろで、まるで何かに取り憑かれているようだった、と」

 衛兵の証言は決定的だった。

 東。その方角には、あの忌まわしい噂の立つ古い鉱山がある。


 街に残っていたミアルヴィも、すぐに合流した。

 彼女は猫のように鋭い嗅覚で、雑踏の中に残されたかすかなエイリンの匂いを追っていた。

「間違いない。こっちの匂いだ。焦りと……それから、妙な昂揚感が混じった匂い。あのペンダントに完全に当てられちゃってる」

 その言葉に、フィアは唇を強く噛んだ。

 友が、得体のしれない力によって心を歪められ、破滅へと突き進んでいく様を想像し、胸が張り裂けそうになる。


 レンとフィアも、宿で残された地図の写しとエイリンの乱れた筆跡を照らし合わせ、彼女が向かうであろう最短経路を割り出していた。

 全ての情報が、一つの場所を示していた。

 首都アーバンクから山道を半日ほど離れた、今はもう使われていない古い鉱山跡。そこは、かつて良質な魔鉱石を産出したが、落盤事故が相次いだために放棄され、今では誰も近づかない不吉な場所として知られていた。


「急ぐぞ! あそこは地形が複雑だ。日が暮れる前に追いつかないと、捜索は絶望的になる」

レンが先頭に立ち、一行は東門を抜けて山道へと駆け出した。街の喧騒が急速に遠ざかり、代わりに風の音と、自分たちの荒い息遣い、そして焦燥に駆られる心臓の鼓動だけが耳に届く。


 道中、リアンが悔しそうに呟いた。

「なぜ、もっと早く気づいてやれなかったんだ……。彼女が一人で抱え込んでいることに。吟遊詩人なんて名乗っておきながら、一番近くにいる仲間の心の歌さえ、聞き取れなかったなんてな」

「自分を責めるな、リアン」

 レンが、走りながら振り返りもせずに言った。

「俺だってそうだ。あいつとは付き合いが短くないと思ってたのに、何も分かってやれてなかった。だが、今は前を向くしかねえ。あいつを助け出すことだけを考えるんだ」

 その言葉に、一行は再び顔を上げた。

 後悔の念は、友を救い出した後、いくらでも噛み締めればいい。今はただ、前へ。


 山道は険しく、ぬかるんだ地面が容赦なく体力を奪う。

 それでも、彼らは足を止めなかった。

 ミアルヴィが地面に残された僅かな足跡を見つけ出し、エイリンがまだそれほど先行していないことを突き止める。

 わずかな希望を胸に、彼らは心臓破りの坂道を駆け上がった。


 やがて、一行の眼前に、山の斜面にぽっかりと口を開けた巨大な洞穴が現れた。

 古い鉱山の入り口だ。

 周囲には錆びついたトロッコの残骸や、朽ち果てた木材が墓標のように散乱している。

 洞穴からは、ひんやりとした不気味な風が、まるで死者の溜息のように吹き付けていた。

「ここだ……」

 ミアルヴィが入り口の岩肌を指差す。

 そこには、真新しい傷跡がいくつも残っていた。

 エイリンが、閉ざされていた入り口を無理やりこじ開けて進んだ跡だ。

「まだ新しい。中に入ってから、そう時間は経っていないはずだ」

 ルードが冷静に分析する。

 一行は覚悟を決め、互いの顔を見合わせた。

 この先に何が待ち受けていようと、もはや引き返すという選択肢はない。

「行くぞ」

レンが短く言うと、一行は静かに頷き、暗く湿った坑道へと足を踏み入れた。洞窟の闇が、彼らの姿を静かに飲み込んでいった。


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