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六つの運命と深淵の眼  作者: toritoma
第6章 王都の陰謀とヴェルト家の兄妹
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第6章 その15

 宿の一室。

 窓の外では風が静かに木々を揺らしていたが、室内には紙と金属の重みがひしひしと積もっていた。

 机の上には、これまでに集めた“目の印”の拓本と、刻印された木片の破片、そして金属製の刻印の切れ端。

 そのすべてを、フィアが淡々と整理していた。

 描線の順序、筆圧、線の向き。

 ごく僅かな差異も見逃さず、彼女は一つずつを分類し、比較していく。

 「描線の順序は、どの印も共通しているわ。外円から始まり、上線、下線、最後に中央の点」


 フィアは一枚の紙を指先で押さえ、ルードとリアンに見せた。

 「ただ、一箇所だけ違いがある。右下の短い線――この部分に、毎回“切れ”があるの」


 リアンが身を乗り出し、視線を落とした。

 「……筆の抜きが早すぎて、線が割れてる」

 「左利きが描くと、筆を引くときにこうなるの。あの刻印の切れ端にも、同じ“切れ”がある」


 ルードが頷きながら、まとめるように言った。

 「サロの証言、刻印師の話、それにこの描線。全部が線になって、ひとつに繋がった」


 リアンは深く息をつき、資料を束ねる。

 「動機は“兄妹の分断”、そして“見せるための脅し”……それから、“場所への誘導”。」


 風が一度、紙をめくった。



 政庁の前室――再び、あの静かな石造りの部屋に、リアンたちは姿を現した。

 今回は、前回の三人に加え、新たにもう一人、地図庫の司書が出席している。

 机の上には、更新されたアレイナの書状とレオニスの口添え、さらに温室での合意文の写しも添えられていた。


 侍従長補佐が資料を手に取り、視線を落とす。

 「七日間の進捗報告を」


 リアンが立ち、代表として報告を始めた。

 「代表三件は、初回報告と変更ありません。今回追加で提出するのは以下の四点です」


 資料を広げながら、順に指差していく。

 「一、偽印の制作過程――刻印師の証言と切れ端の提出」

 「二、搬入経路の確認――港倉三番から裏門への経路図」

 「三、実行役サロ・ミーンの証言記録――印の順序、渡された指示」

 「四、描線の癖――“右下の切れ”、左利き特有の抜き癖の一致」


 フィアが詳細な図表を配布し、ルードがそれにあわせて要旨を読み上げる。

 治安局の書記が資料に目を通しながら問いかける。

 「組織名は、出ないのか?」


 ルードは静かに答える。

 「現時点では出しません。憶測で動くには、危うさが大きすぎます。誤射を避けるためです」


 地図庫の司書が、数枚の地図を広げて言った。

 「印が確認された地点は、川沿いに偏っている。橋の下、倉庫の裏、厩の裏門。共通しているのは――“水”」


 副長が腕を組んだまま口を開いた。

 「つまり、下水に抜け道があると?」


 エイリンが頷いて応える。

 「あります。見取り図上では塞がっているはずの場所に、実際には通れる区画が残っています」


 レンが図面を示しながら言った。

 「俺達が現地を見てきます。危険があれば、即時撤退する」


 侍従長補佐が資料を閉じ、静かに宣言した。

 「小委員会を設ける。これは本会議の前段階とする」

 「地図庫に仮の作業机を設け、衛兵と神殿の連絡線を一本化する。通行証は拡張し、下水、倉庫、厩の裏門への立入を許可する。ただし、拘束は衛兵のみとする」


 リアンは深く礼をしながら言葉を添えた。

 「感謝します。次回報告では、地下の“抜け道”を調査し、実地図を提出します」


 記録官が軽く頷き、言葉を添える。

 「期限は五日。数字と図面を添えるように」



 外に出ると、空は白くかすみ、光が柔らかく町に降りていた。

 レンが肩を回しながら呟いた。

 「地図があっても、実物は違う。……気をつけような」


 ミアルヴィが隣で尻尾を揺らしながら言う。

 「足音が響かない靴に替えとく。」


 フィアは新たな紙束を抱えながら、静かに言った。

 「次は地下。……ここからが、正念場」


 小さく息を合わせるように、彼らはそれぞれの方向へと散っていった。

 新たな戦場――地下の調査が、静かに始まろうとしていた。


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