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六つの運命と深淵の眼  作者: toritoma
第6章 王都の陰謀とヴェルト家の兄妹
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第6章 その11

 午後の静かな時間帯。


 政庁の中にある小会議室――長方形の卓を囲むようにして、再び審査官たちが姿を見せていた。

 前室の三人に加えて、今日はさらに二人が席についていた。

 一人は若い文官見習い、もう一人は、目元の鋭い衛兵隊の副長。

 その腕は太く、机の上で無言のまま組まれている。


 侍従長補佐が軽くうなずき、口を開いた。

 「では、第一報を。代表三件から」


 リアンが席を立ち、準備してきた資料束を前に進み出る。

 「はい。まず、郊外の廃屋の事例から――」


 彼は落ち着いた声で語り始めた。

 「ある夜、子供が“吸い寄せられるように”立ち入った廃屋。扉の内側に“目の印”が刻まれていました。こちらが拓本です」


 リアンの合図で、フィアが資料を差し出す。

 「描線の順序は共通しています。外円、上線、下線、中央の点――この流れは他の事例と一致。さらに、現場には冷却剤の痕跡が残っていました」


 治安局書記が手を止め、目を細める。

 「動機は?」


 ルードが代わって答える。

 「現時点で明確な意図は特定できませんが、共通するのは“場所への誘導”です。目的地に人を集めるような働きかけがなされています」


 リアンは次の資料を掲げた。

 「次に、交易路での襲撃。犯人の持ち物に、後から付けられた“目の印”がありました。金品の奪取は中途半端で、むしろ“印を見せること”が主目的だった可能性が高いです」


 その言葉に、衛兵副長が腕を組んだまま口を開く。

 「つまり、脅しだと?」


 エイリンが一歩前に出て、きっぱりと言った。

 「はい。戦利品を持ち帰るような動きが薄く、見せつけて逃げる傾向があります」


 「三件目は、未遂の儀式跡。魔術的な円が描かれていたものの、途中で失敗したと見られます。

 床に残された粉痕は、冷却反応により凝固しており、回収された痕跡も残っていました」


 記録官が報告書をめくりながら頷く。

 「分類は“治安案件”として妥当。宗教施設への立ち入りが必要な場合、神殿の立会いを必須とする」


 副長が目を細めたまま言う。

 「民間人が勝手に捜索されても困る。現場に入るときは、隊に連絡しろ」


 ルードは神官証を掲げながら、柔らかな声で応じた。

 「通行証に“衛兵への即時通報義務”を追加していただければ、我々は拘束や実力行使は一切行いません」


 侍従長補佐が静かに口を挟む。

 「それでよろしい。通行証を発行する。照会窓口はこの前室とし、日次報告は八刻までに」


 副長が渋い顔で紙に目を通し、しぶしぶと頷いた。

 「……俺の隊は手が足りてない。無駄な出動は勘弁してくれよ」


 リアンは礼をして応える。

 「通報の基準は文書に明記しています。閾値を超えない限り、記録だけに留めます」


 侍従長補佐が静かに書類を重ねて閉じた。


 「本日はここまで。七日後に、進捗会を開く」


 リアンは深く一礼し、束ねた資料を胸に抱えた。


 この扉は、確かに開かれた――

 だが、次に進むには“結果”が必要だった。


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