第6章 その9
翌日、陽の傾き始めた頃。
リアンたちは、石造りの政庁の正面に立っていた。
高くそびえる白い玄関門。
その前で身分札と紹介状を預け、武器は外の保管箱へ。
神官であるルードのみが、神殿印の刻まれた斧を携行することを許された。
受付の書記は形式的な笑みを浮かべて言う。
「本日の面会は、前室での予備審査です。提出物は写しを二部。原本はお持ち帰りください」
案内されたのは、装飾の少ない石造りの部屋だった。
窓は高く、光は淡く差し込む。
中央の丸卓には、すでに三人の審査役が控えていた。
ひとりは王政の侍従長補佐、
もうひとりはリーダン神殿の記録官、
そして、治安を預かる治安局の書記。
アレイナの書状も、レオニスの口添えも、すでに彼らの手元に届いているようだった。
「まずは、件名を」と侍従長補佐が言う。
ルードが一礼して口を開いた。
「『各地で確認される“目の紋章”に関する治安情報の一次報告』――です」
記録官が頷きながら応じる。
「宗教的な解釈は含まれませんね?」
リアンがすぐに補足する。
「はい。事実の列挙を優先し、宗教的な記述と治安的な記録は、文書を分けて提出しています」
束ねた資料の最上部には、目次・索引・代表例の三件――
郊外の廃屋、交易路での襲撃、儀式跡――が添えられていた。
「犯人像は?」と治安局書記が問う。
フィアが静かに答える。
「名指しはしません。ただし、共通点があります。“印の向き”、“描線の癖”、“痕跡に冷却剤が使われている点”。作法に一致が見られます」
「組織の有無は?」
「断定は避けますが、点が線になりつつあるのは確かです。少なくとも、“印を用いた意図的な行動”が複数箇所で確認されています」
記録官は資料をめくりながら言った。
「仮分類として“宗教”ではなく“治安”とする。“不特定危険印”として、一次記録に編入。報告は神殿経由で日次提出。当面は七日間。閲覧範囲は限定し、文庫と地図庫の該当棚のみとする」
リアンたちはそれぞれ頷いた。
侍従長補佐が視線を上げる。
「見返りとして、何を希望しますか?」
ルードが一歩進み、答える。
「現場への通行証、照会先の窓口の一本化、そして――過剰な検問による活動停止を避けること」
治安局書記が口を挟む。
「通行証は発行しよう。ただし、武力行使は禁止。拘束が必要な場面では、衛兵を呼ぶこと」
エイリンがすっと手を上げた。
「了解。私たちは護衛の範囲内で動き、危険時は即時撤退します」
短い沈黙ののち、侍従長補佐が一枚の書式を差し出した。
「仮受理とします。七日後に進捗会を開き、内容に応じて本会議での付議を検討します」
リアンは束を整え直し、深く一礼を送った。
「ありがとうございます。確実に、結果をお持ちします」




