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六つの運命と深淵の眼  作者: toritoma
第5章 灰色の街と悪夢の儀式
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第5章 その8

 塔の内部は、静かに朽ち果てていた。だが、床に積もるべき埃は綺麗に払われ、誰かが定期的に通ったであろう踏み跡だけが残されている──それが逆に、言いようのない不気味さを醸し出していた。


 「埃が……ない?」

 レンが壁をそっと撫でる。


 「いや、違う。これは“払われている”。間違いなく、誰かが定期的にここを出入りしている証拠」

 ミアルヴィの猫の目が、暗闇の中で鋭く光った。



 地下へと続く螺旋階段は、降りるにつれて空気が湿り気を帯び、金属の錆びた匂いと、何か生き物が腐り果てたような甘い腐臭が混じり合っていく。


 そして、その回廊の壁には、おぞましい壁画がびっしりと刻まれていた。

 黒い瞳を持つ、異形の鳥。

 ありえないほど長い手足を持つ、蜘蛛のような女。

 歪んだ骨格のまま、踊り狂う骸骨。

 そして──祭壇に横たえられ、“目”の紋章に命を捧げられようとしている、無数の人々の姿。


 「ここは……“生贄の道”」

 フィアが、か細い声で呟いた。


 やがて一行の前方に、巨大な扉がその姿を現した。

 黒曜石を削り出したかのようなその扉には、無数の苦悶の爪跡と、おびただしい量の血の染みが、禍々しい模様となって刻みつけられている。


 その扉を目前にして、ルードがぴたりと足を止めた。


 「……来ます。何かが、我々の存在に気づきました」



 次の瞬間──


 闇の奥から、不協和音の羽音が響き渡った。


 コゥ──コゥ……ギャアアアアア……!


 三つの喉が、それぞれ全く異なる音色で、同時に鳴く。


 そして、闇の中から現れたのは──三つの首を持つ、漆黒の巨鳥。

 それはおよそこの世の生き物とは思えぬ咆哮を上げ、分厚い石畳をその鉤爪で引き裂きながら、一行の前に着地した。


 「……ン・ア=ラカ=トゥル、スル=ナベリウス……」

 低く、冒涜的な響きを持つ古代語が、空間そのものを震わせた。


 フィアの顔が、恐怖にこわばる。


 「……“招かれざる鼠どもが、祭壇に紛れ込んだ”と、そう言ってる……!」



 巨鳥ナベリウスの背後から、もう一つ、ゆらりとした女の影が現れる。

 肌が透けるほどの薄衣をまとい、唇には艶めいた笑みを浮かべている。

 その足取りはまるで幽霊のように音もなく、濡れたような黒髪は、床に触れるほど長く伸びていた。


 「ウフフ……迷い込んでしまったのね。小さくて、とっても勇敢な……ネズミさんたち」

 「悪夢の果てへ、ようこそ」


 女の指先が、くるりと優雅に空をなぞる。すると、床に描かれていた魔法陣が、まるで血を吸ったかのように赤黒く発光した。

 そして、その光の中から這い出るように、ぶよぶよに肉が膨れたゾンビと、眼窩に紅玉を嵌め込んだスケルトンが、次々と姿を現した。



 「……これ以上、儀式を進めさせるわけにはいかない。ここで、全ての不浄を祓う!」

 ルードが掲げた聖印が、まばゆい光を放った。


 「全員、構えて! こいつらを突破しない限り、先には進めない!」

 エイリンが鋭く叫び、矢筒から矢を引き抜く。


 「おうよ……! 派手に大暴れしてやろうじゃねえか!」

 レンが長剣を構え、フィアの指先が魔力の光を帯びる。


 「影に潜む亡者どもは、あたしの獲物だ」

 ミアルヴィが獣のように低く身構え、腰から音もなく剣を抜き取った。

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