表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六つの運命と深淵の眼  作者: toritoma
第4章 追跡者との死闘
33/94

第4章 その5

 森の深い影から、あの静かで冷たい声が響いた。

 「――やはり、来ましたか」

 ゆっくりと姿を現したのは、あの忌まわしき仮面の男。その純白の仮面には、以前はなかったはずの、まるで血の涙を流しているかのような、禍々しい赤い模様が描き加えられていた。


 そして、彼の背後には、二つの新たな影が控えている。

 一人は、全身を黒鉄の鎧で固めた、巨人と見紛うばかりの大男。その顔は兜で窺い知れず、ただ背負った身の丈ほどもある大剣だけが、無言の圧力を放っている。

 もう一人は、白と黒の法衣をまとった神官風の男。しかし、その目元に刻まれた刺青のような紋様と、唇に浮かべた昏い笑みは、彼が光に仕える者ではないことを雄弁に物語っていた。


 「お久しぶりですね」

 仮面の男は、まるで旧知の友に語りかけるかのように、穏やかな口調で言った。

 「我々、“深き目の徒”は、あなた方の探求を歓迎しません。その石板も魔具も、あなた方のような、何も知らぬ者が持つべきものではないのです。……さあ、それをこちらへ」

 「ずいぶんと、勝手な言い分だな」

 エイリンが、いつでも矢を放てるよう、静かに弓を構える。


 その時、ルードが一歩前に進み出た。彼は仮面の男ではなく、その後ろに立つ神官風の男を、まっすぐに見据えていた。

 「……失礼ながら、お見受けするに、あなたも神に仕える御方。ならば、話が通じるはずだ」

 彼は自身の胸元で輝く、ルーシード神の聖印を指でなぞる。

 「我々は、教会の正式な命を受けて、この任に就いています。無益な争いは、神の御心にも背くはず。どうか、武器を収めてはいただけないだろうか」

 ルードの真摯な言葉に、しかし、神官風の男は、ふ、と鼻で笑った。それは、心の底から相手を侮蔑しきった、冷酷な嘲笑だった。

 「……ルーシード、だと? ああ、あの猫と戯れることしか能のない、腑抜けた神か」

 「なっ……!」

 ルードの顔から、血の気が引く。

 「我が身に宿るは、偉大なる“禍ツ神”。貴様のような光の信徒の戯言など、聞くに値せんわ」

 「禍ツ神……古の災厄を司る、邪神……!」

 フィアが、絶句したように呟いた。


 「……交渉の余地は、なさそうだな」

 レンが、ギリ、と奥歯を噛みしめ、剣の柄を握る。

 仮面の男は、その様子を満足げに眺めると、ゆっくりと手を掲げた。

 「話が早い。……では、力づくで返していただきましょう」


 その言葉が合図だった。

 黒鉄の騎士が、まるで小枝でも振り回すかのように、軽々と大剣を地面に叩きつける。轟音と共に地面が揺れ、凄まじい殺気が、嵐のように一行に襲いかかった。

 「総員、構えて! 来るよ!」

 エイリンの声が、夕暮れの森に木霊した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ