表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六つの運命と深淵の眼  作者: toritoma
第4章 追跡者との死闘
32/94

第4章 その4

 オストヴァルの喧騒を背に街道を歩き始めて、二日目の昼下がり。土の道は雨上がりの湿り気を帯び、一行のブーツに心地よい感触を伝えていた。

 「ふぅ……しかし、新しい武器ってのはいいもんだな。なんだか体まで軽くなった気がするぜ」

 レンが背負ったバスタードソードの柄を撫でながら、満足げに言う。

 「それは、あんたの腕が上がった証拠よ。同じ重さでも、軽く感じるようになった。そういうものよ」

 エイリンが、姉のように穏やかに微笑む。


 そんな他愛ない会話が流れる中、先頭を歩いていたフィアが、ふと足を止めた。懐から取り出した羊皮紙の地図と、目の前の景色を慎重に見比べる。

 「……おかしいわね。この辺りに、街道の分岐を示す標識があるはずなんだけど」

 「だいぶ古い地図みたいだしな。杭が朽ちて、土に埋まっちまったのかもな」

 レンがフィアの手元を覗き込む。

 フィアは小さく頷くと、今度は地図から顔を上げ、じっと周囲の自然を観察し始めた。草のなびき方、獣が通った跡、そして、遠くの山の稜線。

 「……こっちね。荷馬車が通った、微かな轍の跡がある。この道で間違いないわ」

 まるで森と対話するかのように、淀みなく進むべき道を示すフィアの姿に、ルードが感嘆の声を漏らす。

 その隣で、リアンがうっとりと目を細めた。

 「標なき道を、星を頼りに進む賢者……ああ、まるで古の詩の一節のようだ」

 「……そんな風に言われたのは、初めて」

 フィアが、少し照れたように顔をそむける。すかさず、後方からミアルヴィの茶化すような声が飛んだ。

 「賢者っていうより、森の奥の書庫に住んでる本の虫って感じだけどね、あんたは」

 「う……それは、否定できないかも……」


 仲間たちの笑い声が、午後の穏やかな陽光の中に溶けていく。力自慢のレン、皆をまとめるエイリン、博識のフィア、癒し手のルード、そして、ムードメーカーのリアンと、鋭い感覚で危険を察知するミアルヴィ。役割は違えど、彼らはすでに、一つの家族のような温かい絆で結ばれ始めていた。


 日が傾き始め、一行が野営の準備を始めた、その時だった。

 薪を集めていたミアルヴィが、ぴたり、と動きを止めた。ピンと張られた猫の耳が、風の音とは明らかに違う、微かな異音を捉えていた。

 「……誰か、いる」

 その一言で、その場の空気が一瞬にして張り詰める。

 「敵か……!?」

 レンが即座に剣の柄に手をかける。

 「静かに」

 フィアの低い声が響き、全員が息を殺して周囲を窺う。

 風が木々の葉を揺らす音。その中に混じる、意図的に隠された、しかし確かな気配。


 そして――。

 森の深い影の中から、あの聞き覚えのある、静かで冷たい声が響いた。

 「――やはり、来ましたか」

 ゆっくりと姿を現したのは、あの忌まわしき仮面の男だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ