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六つの運命と深淵の眼  作者: toritoma
第3章 古代遺跡と継承者
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第3章 その8

 「リアンッ!!」

 エイリンの絶叫が木霊する中、スライムはずるりとその粘液の体を蠢かせ、リアンの全身を完全に呑み込んでしまった。半透明の緑色の塊の中で、もがく彼の人影がぼんやりと揺れている。


 「まだ生きてる! 諦めるな!」

 ルードが叫ぶ。

 「助けるわ!」

 ミアルヴィがリアンを呑み込んだスライムへと駆け出そうとするが、その行く手を阻むように、炎で傷ついたもう一体のスライムが立ちはだかった。

 「じゃま……!」

 ミアルヴィは鋭い舌打ちと共に、その場で素早くステップを踏むと、ショートソードを閃かせてスライムの核と思わしき部分へと突き立てた。度重なるダメージに耐えきれず、スライムは粘液を撒き散らしながら、どろりと床に溶けて崩れ落ちた。


 その直後、リアンを呑み込んだスライムの体内が、ごぽり、と大きく膨れ上がる。

 「……ぐ、ぅあ……!」

 粘液の中から、リアンの腕が突き出された。そして次の瞬間、全身をぬるぬるの粘液にまみれながらも、リアン自身がスライムの体を内側から突き破るようにして転がり出てきた。

 「……っぷは! げほっ、げほっ……! し、死ぬかと思った……!」

 「リアン! 無事か!?」

 ルードが駆け寄ろうとするが、リアンはそれを手で制した。

 「大丈夫だ……服はもうダメだけど! それより、まだ残ってるぞ!」


 彼の言葉通り、後方に残っていた二体のスライムが、同時に蠢動を始める。その一体へ向け、フィアが静かに、しかし燃えるような怒りを込めて杖を振りかざした。

 「仲間を傷つけたこと、後悔なさい! ――《ヴェル・イグナス・ラミナ 》!」

 灼熱の炎弾が、寸分の狂いもなくスライムに直撃する。ぼっ、と鈍い音を立てて粘液が爆ぜ、黒い焦げ跡だけを残して消滅した。

 「これで、三体目……! 残りは、あと一体!」


 「とどめだァッ!!」

 リアンの前に庇うように立ちはだかったレンが、最後の一体へと猛然と突進する。炎をまとったバスタードソードが、スライムの体を容赦なく叩き斬った。

 ぐしゃり、と鈍い音を立てて粘液が裂け、スライムが苦悶するように身をよじる。

 「今よ、エイリン!」

 フィアの叫びに応え、エイリンは弓を番え、全神経を集中させて矢を放った。

 「――貫け!」

 風を切り裂いて飛んだ矢は、狙い過たずスライムの中心核を撃ち抜き、その粘液の体を床に縫い付けた。巨体はびくん、と一度だけ大きく痙攣し、やがて動かなくなった。


 石造りの広間に、ようやく静寂が戻る。

 焼け焦げた粘液の異臭と、石の冷気だけが、戦いの激しさを物語っていた。

 「……はぁ……はぁ……終わった、のか……」

 レンが剣を杖代わりに床につき、荒い息を吐く。

 「ああ……生きてるのが奇跡だ……。俺の愛用の服は、もうお陀仏だがな……」

 リアンは地面にへたり込んだまま、粘液まみれの胸元を力なく見下ろした。

 「少し、休みましょう。この先、何があるか分かりません」

 ルードの静かな提案に、皆、こくりと頷いた。


 「しかし……」

 フィアが、警戒を解かずに周囲を見回しながら言った。

 「この遺跡、想像していた以上に危険な場所のようね。あのスライムたち、ただの魔物とは思えない」

 「ああ。あんなにしぶとくて、連携までしてくるなんて普通じゃない。まるで、何者かに操られているみたいだった」

 ミアルヴィの言葉に、仲間たちはごくりと息を呑む。彼女の黒い猫耳が、かすかな物音を捉えようと、ぴくりと動いていた。

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