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六つの運命と深淵の眼  作者: toritoma
第3章 古代遺跡と継承者
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第3章 その6

 夜が明け、朝露に濡れた森の奥深くを、六人の冒険者たちは息を潜めるように進んでいた。

 昨日までの獣道は跡形もなく消え、今では絡みつく木々の根と、ぬかるんだ地面が彼らの行く手を阻んでいる。鳥の声はとうに聞こえなくなり、辺りを支配するのは、まるで世界の呼吸が止まってしまったかのような、重苦しい静寂だけだった。


 「……妙だな。この辺り、一気に静かになりすぎじゃないか?」

 リアンが、いつもよりずっと低い声で呟いた。

 「ええ。動物の気配が全く感じられない。まるで、この森の生き物全てが、この先へ進むことを恐れているかのよう」

 フィアが、杖を握る手に力を込めながら応じる。


 空は青く晴れ渡っているはずなのに、鬱蒼と生い茂る木々の葉が陽光を遮り、森の中は薄暗い。風が吹くたびに、ざわざわと葉擦れの音が不気味に響いた。

 その時、先頭を歩いていたレンが、何かに気づいて足を止める。

 「おい、これ……見てみろよ」


 彼が指差した地面には、苔と土に半ば埋もれるようにして、石畳の痕跡が残されていた。長い年月の間にひび割れ、角は摩耗しているが、それが人の手によって敷かれた道であることは疑いようもなかった。

 「道……? こんな森の奥に?」

 エイリンがしゃがみ込み、その冷たい石の表面をそっと撫でる。

 「間違いないわ。古い時代のものね。……遺跡は、もう近いはずよ」

 ミアルヴィの言葉に、一行の間に緊張が走った。


 苔むした石畳の痕跡を頼りに、さらに深く森を分け入っていくと、突如として視界が開けた。

 そこは、まるで森が円形に切り取られたかのような、開けた広場だった。正面には巨大な崖がそそり立ち、その岩肌をくり抜くようにして、荘厳な石造りの建築物が、永い眠りについているかのように静かに佇んでいた。

 「……あれが、遺跡……」

 ルードが、呆然と呟く。


 建物の多くは崩れ落ち、蔦や苔に覆われているが、巨大なアーチ状の入り口だけは、今もなおその威容を保っている。風化した柱に刻まれた精緻な文様、その中央には、円環に囲まれた、どこか“目”を思わせる不思議な模様が、かろうじて見て取れた。

 「ここが、例の“開かずの扉”があるという古代遺跡か……」

 リアンがごくりと喉を鳴らす。

 周囲は不気味なほどに静まり返り、草木さえも遺跡を避けるように生えている。まるで、この一帯だけが時間の流れから取り残されてしまったかのようだ。


 「……いる。何か、とてつもなく強大なものが、この奥で眠っているわ」

 フィアが、蒼白な顔で入り口の闇を見つめたまま言った。

 「扉か、あるいはそれ以上の何かか……。どちらにせよ、とんでもないものが私たちを待っている。そんな気がする」

 「だとしても、行くしかないでしょ」

 エイリンが弓を握り直し、その瞳に強い光を宿す。

 「いい? ここから先は、本気でいくわよ。準備はできてる?」

 ミアルヴィの鋭い問いかけに、仲間たちは無言で、しかし力強く頷き返した。


 苔むした石の階段を一段、また一段と上る。入り口に近づくにつれて、まるで冥府から吹き上げるような冷たい空気が、一行の頬を撫でた。

 そして、六つの影は、遺跡の入り口が作る深い闇の中へと、静かに吸い込まれていった――。

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