第8話:クライマックス「崩落寸前、補修の奇跡」
最大の危機を前に、双子は再び力を合わせる──。
揺らぐ心を乗り越え、“地味チート”が織りなす奇跡の瞬間を目撃してください。
早朝の市民会館大ホール。
長年の風雪に晒された木造の梁が、静かにその役目を終えようとしていた。
窓から差し込む淡い光が埃混じりの空気を揺らし、舞台上には霧のような粒子が漂っていた。
ミナとレンは、今日という日に賭けていた。
双子としての絆、そして“地味チート”と揶揄された掃除補修魔法の真価が、今まさに問われていた。
【緊迫の一瞬】
ミナは最初のターゲットである舞台裏の梁へと向かう。
木材に指先を当て、魔素を集中させた瞬間、空気が変わるのを感じた。
「清掃から……」
彼女の掌から放たれた光が、梁にこびりついた長年の埃とカビをはらい、その細部を浮かび上がらせる。
木材の模様が静かに現れ、微細な亀裂がくっきりと浮かんだ。
普段の作業なら、これで充分だった。
しかし、今回の舞台は格が違う。
長年使用されてきた歴史ある建造物の中でも、特に負荷が集中している部位。
レンも工具を手に取り、鋭い視線で梁の様子を確認する。
「準備OK。補修は僕の番だ」
だが、その言葉が終わる前に、
パキ……ッという音が静寂の中を裂いた。
「えっ……?」
ミナの視線が梁の中央へ。
一本では収まりきらない、大きな縦割れが中心部を起点にして横へ、斜めへと崩れるように広がっていく。
まるで巨大な樹木が倒れる前のような、深く、暗い割れ目。
その場の空気が、一気に冷たくなった。
【魔力暴走】
胸の鼓動が早鐘のように鳴る中、ミナの呼吸が乱れた。
「……だめ、ごめん……!」
プレッシャーと焦燥が入り混じり、ミナの魔力制御が崩れる。
抑えきれなかった魔素が奔流となり、掌からあふれ出した光が暴走を始めた。
梁全体を包み込むように光が拡がり、木材の表面に火花のような魔素の波が走る。
——バチッッッ!!
粉塵が激しく舞い、梁の一部が砕け散る。
舞台の床には太く深い亀裂が走り、足場すら危うい状況になった。
「ミナ、下がって!!」
レンの叫びが飛ぶ。
【限界突破の補修】
レンはすぐさま前に出て、全身から魔力を解き放つ。
手に持っていた工具が空中で解体され、魔力の導線へと姿を変えて梁へと向かって飛ぶ。
「絶対に……崩れさせない!」
光の筋が梁のひび割れに沿って走り、木と木を縫うように補修を試みる。
しかし、中心部はもはや限界を超えていた。
梁全体が、骨のように内部から崩れかけていたのだ。
「っ……持て……!」
レンの体から迸る光は、今や彼自身をも蝕むほど強烈だった。
額に汗が滲み、目の焦点すら揺らぐ。
——崩れる。
そう確信した刹那、レンの中で何かが弾けた。
「うおおおおおお!!!」
叫びと共に、限界を超えた魔力が爆発的に解放され、梁に最後の補修魔法が突き刺さる。
——パキィィィィン!
まるで割れたガラスが逆再生するかのように、亀裂が閉じ、粉塵がゆっくりと舞い落ちていく。
梁は完全に修復された。
静寂。
ホールには、先ほどまでの混乱が嘘のように、静けさだけが残った。
【暴走後の静寂】
ミナはその場に膝をついた。
肩が震え、息が浅くなる。
自分のせいで、また取り返しのつかないことが起きると思った——。
だが、崩落は起きなかった。
そして、すべてを繋ぎ止めたのは、兄の魔法だった。
舞台の床に残った裂け目を避けながら、ミナはゆっくりとレンに歩み寄った。
光が舞台に差し込み、埃が金色に輝く。
【赦しの対話】
レンは倒れそうになりながらも、立っていた。
その顔は疲れ切っていたが、瞳には微かな笑みが宿っている。
「……大丈夫?」
ミナは俯きながらも、震える声で頷いた。
「怖かった……また、暴走しちゃった……」
レンは一歩近づき、彼女の手を取る。
「気にしなくていい。
君の魔力は、まだ安定してないけど、確かに力がある。
僕は……それを、信じてる」
その言葉に、ミナの瞳が潤む。
「……ありがとう、レン。いつも支えてくれて」
二人の手が、強く結ばれる。
【新たな光の予感】
やがて、舞台上に静かな風が吹くように空気が変わった。
梁は傷ひとつないほどに甦り、むしろ以前よりも光を宿して見えた。
レンがそっとミナの肩に手を置く。
「さあ、仕上げだ。僕らの仕事を……完璧に終わらせよう」
ミナは深く息を吸い、掌に再び光を集める。
だが今度は、それは暴走ではなく、確かな技術と覚悟の産物だった。
「うん。これが、私たちの魔法だよ」
光が舞い、梁全体を覆い尽くした。
それは“掃除”というよりも、ひとつの祈りのような魔法だった。
観客がいないはずのホールの空間が、どこかで静かに拍手しているように感じられた。
ミナとレンの地味チート掃除術は、名もなき大舞台で、確かに“奇跡”を成し遂げたのだった。
大亀裂を修復した補修の奇跡は、双子の絆と技術の証です。
次回【第9話:結末&エピローグ「新たな光をともして」】では、歴史的建造物復興とその後の日常を描き、物語は温かな余韻を残して幕を閉じます。どうぞお楽しみに!