第6話:企業サブプロット「効率VS職人の狭間で」
効率重視の大手企業。
そこに風穴を開けるのは、人の温もりを信じる職人と、純粋に技術を愛する者たちの物語。
オフィスビルの一角にある「グランドクリーン社」本社。無機質な白い壁とガラス張りの受付は、最新設備を誇る象徴だ。会議室の壁一面には、効率化プロジェクトの進捗グラフが並び、秒単位で業務時間短縮を競う社風が滲み出ている。
【エレナの葛藤】
入社五年目、若手幹部のエレナ(28歳)はこの社風の中心にいた。大学時代、経営学を専攻し、“データドリブン”経営に情熱を燃やした彼女は、プロジェクトリーダーとして次々と改善策を提案してきた。
しかし最近、社内のある現場でミスマッチに悩まされるようになっていた。
「効率第一……でも、これじゃ温かみがない」
デスクのモニターに映る資料を前に、エレナは眉を寄せる。最新型の清掃ロボット導入計画はコスト削減につながるが、利用者からは“冷たい印象”という声も上がっていた。業績が優先される現実と、自分が何のために働くのかという問いが、彼女の心を揺さぶる。
【カイルの視点と独白】
一方、現場のベテラン職人カイル(35歳)は、グランドクリーン社が推し進める効率化の波に異を唱える。
「機械が全部やってくれる時代かもしれないけど……手仕事の温もりには敵わないんだよ」
彼は現場の廊下で独り言ちると、大きな倉庫へ向かった。そこには古いリフォーム道具が並び、かつて自らの手で修復した歴史的建造物の写真が飾られている。
「昔はな、人の手が入った場所にこそ魂が宿るって言われたもんだ」
カイルは手袋を外し、木材の削りかすを指先で撫でる。機械製のパネルは完璧だが、どこか無機質だ。彼の仕事は、隙間を埋めるだけでなく、使う人の記憶に触れること――その想いこそが本来のリフォームの目的だ。
【社内改革案の衝突】
その日の午後、会議室で効率化提案のプレゼンテーションが始まった。エレナは資料を手に立ち上がり、ロボット導入のメリットを説明する。
「導入コストはすぐに回収可能で、年間30%の作業時間削減が見込めます。人員リソースを他部署へ再配置し、利益率向上を図りましょう」
対照的に、後方の席でカイルは唇を嚙みしめる。予想通り、会場には拍手が起こり、社長の頷きもあった。
だが、その直後、エレナのスマートフォンが震えた。
――双子の最新動画がSNSでバズっている。
画面を見たエレナは、ふと胸に去来する何かを感じた。
「彼らの技術……確かに、人の手がかかるからこその感動がある」
【心の揺らぎと決意】
プレゼン後、廊下に出たエレナは、カイルと顔を合わせた。
「あなたの言うことも、一理あるわね……」
カイルは驚いた表情で彼女を見つめる。
「エレナさん?」
「ええ。完璧さだけじゃ、人は動かせない。情熱と温かみがあってこそ、心を動かす――双子を迎える新部署、私も協力したい」
その言葉に、カイルの瞳が輝きを取り戻した。
「ありがとう。二人の力を借りられる日が来るなんてな」
【新たな風の兆し】
数日後、エレナは社内提案書に双子プロジェクトを追加し、カイルと共に上層部へプレゼンテーションを行った。効率化だけでなく、“職人技重視”の部署設立案は、波紋を呼び、若手社員からも賛同を得る。
会議室を出た二人は、窓越しにセントクリーン市の街並みを見下ろした。
「これで、少しは人の温もりを残せるかもしれませんね」
「おう。だけど、この部署が本当に機能するかは、双子次第だ」
エレナの決意とカイルの信念が交差し、新たな風がグランドクリーン社を駆け抜けようとしていた。
完璧な効率だけでは満たせない何かが、この先の改革には必要です。
次回【第7話:転機前夜「大口依頼、静かな嵐」】では、双子に迫る大規模依頼と、その緊張の一夜を描きます。どうぞお楽しみに!