38話。魔王、聖女になって欲しいと勇者に懇願される
「アンジェラ様! ご無事ですか!?」
その時、玉座の間の入り口に、四天王ゴルドに率いられたオーガたちも殺到してきた。だけど彼らは、輝く【聖印結界】に阻まれ、歯噛みして立ち尽くす。
「……ふん、多少、予定は狂ったが、援軍が勇者殿一人なら、なんということは無い」
グランド・マスターはゴルドたちを見て、小馬鹿にしたように笑った。
「ここには、足手まといにの聖女殿がおられるのだからな」
奴は先程よりさらに大きな火炎弾をユリシアに放った。
「ユリシアは僕が守る……!」
レオンが聖剣に【オーラ】をまとわせて、火炎弾を叩きって消滅させた。
この【オーラ】は先王ディルムッドの物とは、明らかに異なっていた。大地属性である琥珀色の魔力が編み込まれており、より強力になっていたわ。
「今の僕には、ユリシアの──【大地の聖女】の加護が付いている。この程度の魔法に負けはしない!」
「はい、わたくしが、いつまでも足手まといとは思わないでください。聖女は、勇者の【オーラ】を強化できます。そしてその力は、二人の絆が深ければ深いほど、強くなるのです!」
ユリシアは凛とグランド・マスターを睨みつけた。
「ふむっ、これは実に興味深い。素晴らしい強度の【琥珀のオーラ】ではないか。ではさっそく強度実験といこうか。火と風の合成魔法、その極致をぶつけれは、どうなるか?」
グランド・マスターは両手を合わせて、魔法の詠唱に入った。火と風、ふたつの異なる魔力が、反発し合いながらも、練り上げられていく。
放たれれば、私たちはおろか、背後のゴルドたちまで塵と化すであろう絶大な力を感じた。
「そうはさせない、あなたは私が倒すわ!」
私は【絶対零度剣】に全魔力を注ぎ込み、床を蹴った。
レオンがユリシアを守ってくれるなら、私は攻撃に専念できる。
「愚かな、【炎渦竜巻】!」
一歩早く、グランド・マスターの魔法が完成した。
出現した超高熱の竜巻が、私を消し炭にすべく唸りを上げて迫る。
「アンジェラ様!」
でも、その寸前、私はレオンより放たれた柔らかな光に包まれた。ユリシアの大地の力を得て、より強固になった【琥珀のオーラ】に。
「ありがとう、ふたりとも!」
「なに……!?」
グランド・マスターが目を剥く。奴の必殺魔法は、この【琥珀のオーラ】に阻まれ、私にまで届かなかった。
おかげで、防御に割くはずだった魔力の全てを、剣の切っ先の一点に集中できるわ!
「はぁあああああッ!」
私たち三人の想いを乗せた絶対零度の刃が届いた。グランド・マスターは魔法障壁でガードしたけど、その防御ごと、その身を刺し貫いた。
「これは予想以上の……!?」
グランド・マスターは断末魔と共に、消滅した。不条理を重ねて作られた人工聖女の肉体は、塵ひとつ残らなかった。
「お見事でございます、魔王様!」
「大勝利でございましたね!」
【聖印結界】が消え去り、ゴルドたちが大喜びで私の元に駆け付けてきた。
私はさっそく、威厳たっぷりの魔王ムーブをかます。
「静まりなさい。この場では勝利したけど、あれは敵の本体ではないわ」
「なっ、なんと……!?」
「奴とその組織、【薔薇十字団】は、『完璧なる聖女』を作り出そうとしている。これは、魔族にとって見過ごせない脅威よ」
私は跪く魔王軍を見下ろし、宣言した。
「よって、私は、【薔薇十字団】を壊滅するまで、勇者王レオンと手を結ぶことにしたわ。私が良いと言うまで、人間の国家群への侵攻は一時中断よ!」
「「「はっ、御意にございます!」」」
廃城を揺るがす賛同の声。反対意見は誰からも出なかった。
魔族は強者に従う。
私が勇者王ディルムッドとグランド・マスターを倒したのを見て、彼らは尊敬の念を強めたみたいね。
「アンジェラ様、ありがとうございます!」
「人間と魔族の平和の実現、その一歩をアンジェラ様から踏み出してくださるなんて……!」
レオンとユリシアが駆け寄って来た。私は照れ隠しに、腕を組んでそっぽを向く。
「ふ、ふん、奴を倒すため、あくまで一時的に手を結ぶだけよ」
魔族たちの手前もあり、【勇者と馴れ合うつもりは無い魔王ムーブ】を決めた。
ゴルドたちは「おおっ! 勇者すら目的のために利用する、偉大なお方!」と感嘆している。
まぁ、こんなことを言いつつ、結局、友情パワーに目覚めて主人公と仲良くしちゃうのが魔王の定番なのだけどね。
それはそれでカッコイイから、良しとしましょう。
「はい。この場では、そういうことにしておきましょうか」
なにやらわかっている口調のレオンが一歩前に出て、意外な提案を口にした。
「ですが、アンジェラ様が魔王だという事実は、人々に大きな混乱と動揺を招きかねません。これを公表するタイミングを誤れば、和平は台無しになります。勇者王として、一つお願いがあるのですが……これまで通り【水の聖女】としてお振る舞いただけないでしょうか?」
「え……っ?」
「それがよろしいかと存じますわ」
ユリシアも賛同してきた。
「【薔薇十字団】が息のかかった者を新たな聖女とし、魔族との和平を壊すべく、民を扇動する危険があります。それを防ぐためにも、『水の聖女は既に降臨している』とするのは、最高の牽制になりますわ」
「うむ。【薔薇十字団】の目的を挫く良い手段だと思いますぞ」
なんと、いつの間にかこの場に現れたワイズおじちゃんまで、そんなことを言ってきた。
「奴らは、『完璧なる聖女』を生み出すため、おそらくユリシア殿の命を狙ってくる筈です。刺客が聖女なら、防ぐのは困難となりましょうが、アンジェラ様がお近くにおられれば、安全です。勇者王殿が、アンジェラ様を【水の聖女】だと認めれば、誰も異を唱えることはできません。妙案かと思いますぞ」
「えっ、嫌よ。これ以上、聖女を演じるのは! 私は誇り高き悪のカリスマなのよ!?」
私は思わずワイズおじちゃんに喰ってかかった。
「大丈夫です。アンジェラ様は、演技などしなくても、誰よりも立派な聖女ですわ」
「僕もそう思います。どうか、これからも、【水の聖女】として人々を愛し、慈しみ、導いていっていただければと……!」
「いや、私がやりたいのは、人々を奴隷にして、魔王様に忠誠を近いますぅうう! と心の底から、崇拝されることなんだけど!? 人々を愛すなんて、まるで正反対! 私がそんか慈悲深い子に見える?」
「「「はいっ、見えます!」」」
なんと、この場の全員が即答した。
勇者と聖女と、魔王の四天王が、息ぴったりだったわ。
「ふふっ、では、これからも【水の聖女】として、よろしくお願いしますね、アンジェラ様。これで、ずっと一緒にいられますね」
ユリシアがニッコリ笑った。
うっ、その笑顔とセリフは反則でしょう。
気の合うユリシアと一緒にいられるのは、私にとってもうれしいことだし……
考えてみれば、漫画を世界に広めるためにも、【水の聖女】の名声は使えるわよね。
「し、仕方ないわね」
私は赤くなった頬を隠すように顔を背け、宣言した。
「それじゃ、これからも、【水の聖女】を続けるわ。ユリシアを守るためだものね!」
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