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33話。城下町の火災を鎮火する

 勇者王となったレオンは、集まってきた大臣たちにいくつもの指示を出した。

 突然の王の代替わりと、前王の追放に王宮はてんやわんやとなったわ。


「【水の聖女】様、先ほどの狼獣人の咆哮が聞こえたようですが……魔族が現れたのでしょうか?」

「勇者王陛下を、レオン様と共に倒されたのですか!? それは、つまりレオン様こそ勇者王にふさわしいと!?」


 私も質問責めにされたけど、魔王だっていうことは秘密にしたまま乗り切ったわ。

 さすがに今ここで、レオン以外に話が広がると、ぶっ殺されかねないしね。


 でも、まっ、いずれはレオンの口から、真相が人々に伝わるでしょうし、これで【水の聖女】様扱いは、もう終わりになるでしょうね。


 ……でも、ワイズおじちゃんに相談もせずに、勇者王レオンと同盟を結んだのは、ちょっとマズかったかしら?


 ワイズやゴルドは、私の真の目的が人間との共存だと思っているから、大丈夫かも知れないけど。


 そんなことを考えていると、飛び猫のミィナが、クッキーを運んで来てくれた。


「あっ、ミィナ! 今回はあなたがレオンを呼んで来てくれて、助かったわ!」

「みゃっふ~ん!」 


 頭を優しく撫でると、ミィナは満足そうに鳴いた。

 そのもふもふの手触りと、クッキーの甘みが、私の心を解きほぐしてくれる。


「お待たせしましたアンジェラ様、ひとまず落ち着きました。さっそくユリシアの元に参りましょうか?」


 臣下たちとのやり取りを終えたレオンが、促してくる。


「……ぐっ、そ、そうよね」


 とたんに、胃がきゅっと縮む思いがした。

 ユリシアに、私の正体と目的を話す約束をしていた。


 レオンは魔王である私を受け入れてくれたけど、ユリシアからはどういう反応が返ってくるか、正直、わからないわ。


「どうか、なさいましたか?」

「いや、ちょっと。昔、人と仲良くしようとして、秘密がバレてはぶられたトラウマが……」


 私は前世の暗黒の中学時代を思い出して、うつむく。

 あれと同じことが、また起きるんじゃないかという不安が、胸の奥に燻っていた。


「や、やっぱりアンジェラ様は……! 人間と仲良くしようとして、その気持ちを踏みにじらた悲しい過去がお有りなのですね!?」


 なぜか、レオンがパッと顔を明るくした。


「はぁ? ま、まぁ、そんなところだけど……?」

「大丈夫です! ユリシアは魔王とも話し合いによる和平を結びたいと語っていました。きっと受け入れてくれる筈です!」


 レオンは何か勘違いしたらしく、なにやら熱く拳を握りしめる。


「魔族側にも、人間と絆を結びたいと思う者がいたなんて……! 僕は、今まで、とんでもない偏見を持っていたんだ!」


 うん……? そんな奇特な魔族は、レアだと思うけど?


 魔族にとって、人間はお金儲けのために自分たちを狩ろうとしてくる邪悪な生き物だしね。

 私やワイズ、ゴルドが説得しても和平に反対する魔族は大勢出てくる筈よ。


「まあ、人間が魔族を襲わないと約束するなら、和平は実現できると思うわ。それは……難しいでしょうけどね」


 魔族を殺すと手に入る魔石は、通信魔導具などの便利なアイテムや武具の素材に使われている。

 この便利さを人間が簡単に手放すとは、思えない。


 前世の私に、ネットを手放せと言ったら、絶対に嫌だと答えたと思うけど、それと同じことよ。


「承知しています。ですが、僕は勇者王として、その困難な道にこそ挑みたいと考えています。アンジェラ様、あなたがお力を貸してくださるなら、きっと実現できる筈です!」


 レオンは決意を込めた真剣な眼差しで、私を見つめた。

 それは魔王討伐より、はるかに難しいこと。もし実現できれば、歴代のどの勇者も成し遂げられなかった、真の偉業になると思う。


「……わかったわ。じゃ、ユリシアの元に行きましょうか」


 私は朗らかな気持ちになって微笑んだ。

 その時だった。


 突如、耳をつんざく轟音と共に、大地が激震した。城の窓ガラスが一斉に爆ぜ割れて、天井からはパラパラと破片が落ちてくる。


「何事だ!?」

「レオン様、ま、街が……!」


 聖騎士の1人が外を指し示す。

 なんと、街の区画の一部が、爆発したかのように吹き飛んでいた。そこから天を焦がす紅蓮の炎が伸びる。人々の阿鼻叫喚が、ここまで聞こえてきそうな惨状が広がっていた。


「一体、これは!?」

「詳細は不明ですが、魔力計測器に大規模反応が! 炎魔法による攻撃かと!」

「馬鹿な! あれほどの威力を持つ魔法など、存在するのか!?」


 王宮はパニックに陥った。

 悲鳴と怒号が飛び交い、誰もがこの非常事態に冷静さを失う。だだ1人を除いては。


「被害状況の確認を急げ! 消火隊と回復術師を総動員して、民の救助と避難を急がせろ!」


 勇者王レオンが、矢継ぎ早に指示を飛ばした。


「敵対勢力による破壊工作の可能性が高い! 聖騎士団は現場へ急行し、犯人の特定と捕縛に全力を挙げるんだ! これ以上の被害の拡大を断じて許すな!」

「はっ!」

 

 聖騎士たちが、さっそく行動を開始する。

 レオンの勇姿は、この混乱の中で実に頼もしかった。


「私も行くわ!」

「アンジェラ様!?」

「私の氷魔法なら、あの程度の炎、すぐに鎮火できるわ! ついでに犯人もぶっ飛ばして捕まえてやるんだから!」


 叫びながら、私は窓枠を蹴って空に飛び出した。そのまま飛行魔法で爆発的に加速し、炎上する区画へと一直線に向かう。


 あの区画の近くには、ロイド商会の店舗があった。


 万が一にもユリシアやロイドたちが被害に遭ったら……そう思うと、全身が泡立つような焦りを覚えた。

 一刻も早く、私がなんとかしなくては。


【氷結陣】フリージング・フィールド!」


 業火の上空に到達した私は、広範囲を凍結させる魔法を、これでもかと連射した。

 人間に浴びせてしまったとしても、命までは奪わず、カチンコチンの氷漬けにする魔法よ。


 火勢はすぐに収まり、代わりに大地は真っ白な氷に覆われた。


 仕上げに、闇の回復魔法【ダーク・ヒール】を降り注ぐ。これで氷漬けになった人々や怪我人の治療もバッチリね。


 これで、よし! 

 ぐぅっ……ちょっと、今日は、【絶対零度剣】(アブソリュートゼロ)まで使っちゃったから、魔力の消耗が激しくて、キツイけど……

 私は胸を押さえて荒い息を吐く。


「おおっ! 【水の聖女】様だ!」

「アンジェラ様が、我らを助けに来てくださったぞ!」

 

 地上から、人々の大喝采が上がった。

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