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19話。計算尽くで、勇者王を倒そうと計画していたと魔族たちに勘違いされる

「ヘレナ殿は父上の寵愛を盾に、王宮で権勢を振るっています。それ故、近々、妃として迎え入れられるユリシアに対し、目に余る嫌がらせを繰り返しているのです。それに……」


 レオンは何かを言い淀むように、一瞬だけ言葉を切った。


「実は2年前、【風の聖女】様が王宮に招かれましたが、不審死を遂げています。【風の聖女】様も、ヘレナ殿と折り合いが悪かったのです。もしや、ヘレナ殿による暗殺ではないか……? そのような噂がまことしやかに囁かれましたが、父上が強く否定されたため、いつしか誰も口にしなくなったのです」

「それは……」


 私はゲームシナリオの記憶を必死に手繰り寄せた。

 確か【風の聖女】は、圧政を敷く勇者王とヘレナを非難したため、2人によって殺されたんじゃ、なかったけ?


 勇者王を討った際に、レオンは父からそのことを聞かされていたわ。

 聖王家の歴史は、血塗られた歴史とかね。


「その事件については、もう一度、詳しく調べてみた方が良いかもね」

「はっ!」


 レオンは素直に頷いた。


「レ、レオン王子……! お聞きくだされ!」


 その時、広場で晒し刑にされていた財務大臣が声を張り上げた。


「【風の聖女】様を殺したのは、ディルムッド陛下とあの女狐ですぞ! 間違いございません!」

「……そ、それは本当か!?」

「はっ! このワシめが証人です! あのふたりは、自分たちにとって都合の悪い聖女様を、これまでふたりも秘密裏に葬ってきたのです! ワシはそれに気づきながら、見て見ぬ振りをして参りました!」


 財務大臣は力を振り絞って懺悔を口にする。

 ま、まさか、こんなところに証人がいるなんて、ビックリだわ。


「このままでは聖王国は、あの暴君らによって滅ぼされてしまいます! 新たなる魔王が出現したこの危機に際し、一刻も早くレオン王子に王位を継承していただかねばなりません!」

「……レオン王子! こ、この話が事実ならば、謀反も辞さぬ覚悟が必要やもしれませぬぞ!」


 聖騎士たちから、思いつめたような声が上がる。


「聖女様を次々に亡き者にするなど……ディルムッド陛下にもはや勇者としての資格など、ございません!」

「そうだ! 聖女様と手を取り合うどころか、その身を害して、魔王に勝てる筈がなかろう!」


「ディルムッド陛下とあの女狐めの横暴なる振る舞い、もはや断じて許し難し!」

「レオン王子こそ勇者王にふさわしい!」


 聖騎士たちが騒ぎ出し、広場の空気が一気に緊迫する。

 ほっ、とりあえず話題を逸らすことには、成功したみたいね。


 話が白熱してきているけど、レオンが勇者王ディルムッドを打倒するのは、ゲームシナリオ通りだし……うん、多分、問題無い筈よ。


 私はゲームシナリオを思い出す。

 確かゲームでは、レオンは寝込みを襲って父王を暗殺していたわよね。


 それで、レオンは苦悩するんだったわ。

 民のため、愛する者のために悪を成した自分は正しいのかと。勇者などと、胸を張って言えるのかと。


 そんな悪い父親に苦しめられたレオンに、私も共感したなぁ。


 レオンは、父親を手に掛けたことをずっと後悔し、その心の傷をメインヒロインの聖女ユリシアに癒してもらうのよね。


「……水の聖女アンジェラ様」


 レオンは決然とした表情で私に向き直った。

 物思いにふけっていた私は、ハッとする。


「ユリシアを助け出すというご提案、願ってもないことです。謹んでお受けいたします。その上で……誠に僭越ながら、もう一つお願いがございます」

「なにかしら?」


「我々と共に、父上を打倒するのをお手伝いいただけないでしょうか? おそらく、どんなに罪の証拠を突きつけようとも、父上が玉座を明け渡すことは無いと思います。しかし、救世主と名高い【水の聖女】様が、僕の側に付いたとなれば、聖騎士団の大半を寝返らせることができます!」


 私は耳を疑った。

 この私に、共に勇者王ディルムッドを討てですって……?


 さすがに、今回、そこまでするつもりはなかったんだけど?


 勇者王を討つのは、実に魔王らしい邪悪な行いで、燃えるし、かっこいいと思うけど。


 もう予備のカラコンが無いわ。万が一、氷のカラコンが溶けて、私が魔族だとバレるようなことになったら、誤魔化す手段も無く、全員が敵に回ってフルボッコよ。


「おおっ! それなら、我らの勝利は間違いありませんな!」


 私の返事を待たずに、聖騎士たちが大盛りあがりになる。


 ……ぐっ、さ、さすがに、この流れの中でノーとは言い辛いわ。

 そもそも大地の聖女ユリシアを王宮から連れ出した時点で、勇者王とは敵対することになる訳だしね。


「……わ、わかったわ。囚われの聖女ユリシアを、全力で助け出しましょう!」


 私は混乱する頭で、なんとかそれだけを答え、レオン王子に右手を差し出した。


 私の目的はあくまで【大地の聖女】の確保よ。

 それさえ達成できれば、OK! そのために、レオンたちを利用する! ここはシンプルに考えましょう。


「ありがとうございます、アンジェラ様! 歴代最高の聖女と名高きあなた様の協力があれば、この国はきっと、生まれ変わることができます!」


 レオン王子は、希望に満ちた力強い手で、私の手を握りしめた。


 ……いや、私は聖女じゃなくて、魔王なんですけどね。魔王に世直しの協力を求める勇者って何よ?

 心の中でそうツッコミを入れながら、私は引きつった笑顔を浮かべるしかなかった。


 その後、聖騎士団に護衛された馬車の中で、ワイズおじいちゃんに相談すると、大絶賛された。


「なっ、なんと大胆な! 聖騎士団とレオン王子を味方に付けて、勇者王ディルムッドを打ち倒す計画とは!」

「……えっ!? いや、別にそういう訳じゃなかったんだけど?」


「ご謙遜を! その混乱に乗じれば、【大地の聖女】を手に入れるのもたやすいこと! すべてアンジェラ様の手の平の上ということですな!? 一体、何手先を見越して、手を打っておられることやら!」

「はい! アンジェラ様はこのために、あの村で聖騎士たちに忠誠を誓わせたのですね!」


 ヴェロニカの興奮気味な声が水晶玉から響く。


「うぉおおおおッ! アンジェラ様が凄すぎるぞ! 皆の者、祝宴だぁ!」

「我らが偉大な魔王様に乾杯!」

「勇者王、打倒の日は近い!」


 さらに喝采を叫ぶゴルドの声と、魔族たちのドンチャン騒ぎが聴こえてきた。


 うっ、配下から崇拝される悪のカリスマを目指す私としては、「違う! これは予想外なのよ!」とは強く言い出せない雰囲気になってしまったわ。


 くっ、こ、こうなったら……


「そう、その通りよ! レオン王子と聖騎士団を利用して、私が勇者王ディルムッドを倒して見せるわ!」

「「うぉおおおおッ!」」


 そう、悪のカリスマたる者、この程度のピンチを切り抜けられなくてどうするのよ?


 それに良く考えてみたら、これは、この私──魔王アンジェラの偉大さを知らしめるイベントとしては、最高じゃないかしら?


 ……そう考えれば、ふふっ、楽しくなって来たわ!


 問題は私の兵力が足りないことだけど、あの凄腕の殺し屋たちを奴隷にすれば、なんとかなる筈よ。


 よし、がんばるわよ! すべては、悪のカリスマとしての道を極めるために!

 私は拳を握り締めて気合を入れるのだった。

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