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18話。王子から力を貸して欲しいと懇願される

 レオンはゲームシナリオでは、絆を結んだ四聖女と共に魔王アンジェラを打倒する。

 だけど、今は勇者の力を受け継ぐ前、過度に警戒する必要は無いわね。


「ええっ、その通り。私こそ水の聖女アンジェラよ」


 私は余裕の笑みで応じた。


「お目にかかれて光栄です、アンジェラ様! 僕は伝説の勇者カイ・アステリアの末裔にして、この国の王子レオンと申します!」


 レオンは白馬から飛び降りると、私の前に跪いた。

 勇者が魔王に跪くなんて、なんとも不思議な光景だわ。


「今、我が聖王国は、『黒死病』の蔓延と、新たなる『魔王』の出現という、二つの大きな脅威に晒されております! どうか、苦しむ民のために、アンジェラ様のお力をお貸しいただけないでしょうか!?」


 熱い、正義感に満ちた瞳で、レオンは私を真っ直ぐに見つめた。


 ふっ、さすがは、私のライバルね。

 勇者にふさわしい善なる心の持ち主だわ。


 悪のカリスマを輝かせるのは、そのアンチテーゼである純粋なる正義よ。レオンに殺されるのは御免だけど、ここはライバルとして敬意を払おうじゃないの。


「お目にかかれて光栄……」


 そう思いつつ口を開いた時だった。


「アンジェラ様、先ほどの襲撃者どもですが、追跡の結果、ヘレナ商会の建物に逃げ込みましたぞ。どうやら、元【火の聖女】ヘレナの手の者で間違いなさそうですな」


 腰袋からワイズおじいちゃんの通信音声が響いた。

 おじいちゃんからは、コッチの状態はわからないのだけど、よ、よりによってこのタイミングで……!?


「はっ? い、今の声は……一体?」


 レオンと聖騎士たちが、怪訝な表情で私の腰のあたりを見つめてくる。


 こ、これはちょっと、ヤバいかも知れないわ。万が一にも、私が魔族と通信しているなんてバレたら!? 


 敵地のど真ん中で正体が露見するような羽目になったら、計画はパーどころか、袋叩き決定よ。


「い、い、今のは、ロイド商会の者よ! そ、そう! 私を襲った殺し屋どもを、密かに追跡させていたのよ!」


 内心、動揺しつつも必死に誤魔化す。

 ワイズおじちゃんは、私の正体がバレるようなことは言っていないし、大丈夫だわ。


「……ロ、ロイド商会? しかし、アンジェラ様。今のは、少々変わった声音のような……それに、元【火の聖女】ヘレナ殿が、あなた様の襲撃を企てたと?」


 レオンの顔が、険しくなる。


「もしそれが事実ならば、由々しき事態です! アンジェラ様を国賓としてお招きしておきながら、父上の愛人がその御命を狙うなど、断じて許されることではありません! その通信相手と直接会話をさせていただけませんか!? 状況を詳しくお聞きしたい!」


 だぁああああッ!?


 私は焦りまくった。

 狼獣人であるワイズの声は、口の構造上、人間とは明らかに異なる独特の響きがあるわ。


 直接話なんてさせたら獣人──魔族だってバレちゃうんじゃないの……!?


「レオン王子、これは一大事です! すぐにヘレナ商会を調査すべきかと!」

「幸いアンジェラ様は、襲撃者の1人を捕らえられたとか。その者を尋問し、背後関係を洗いざらい吐かせましょう!」


「よし、この僕、王太子レオンが命じる。まずはアンジェラ様の身の安全の確保が最優先! しかるのちに、ヘレナ商会を徹底的に調査だ!」

「はっ!」


「アンジェラ様が、もし殺害されるようなことがあれば、この国は暗闇に閉ざされてしまう……! これは重大な任務だぞ!」

「どうかご安心ください、アンジェラ様! 今後は我ら聖騎士団が24時間、一部の隙も無くあなた様をお守りいたします!」


「えっ、ちょっ、ちょと……!」


 レオンの号令の元、事態は私のコントロールを離れてヒートアップしていく。

 ま、まずい、マズすぎるわ!


 本来の計画では、王宮に入った後、深夜にでも隙を見て、【大地の聖女】ユリシアを拉致しようと考えていたのだけど……


 聖騎士団に四六時中、護衛につかれたら、そんなこと絶対に不可能じゃない!

 ど、どうすればいいの!? この窮地をどう切り抜ければ……!?


「では、アンジェラ様。まずは状況を詳しく知るためにも、通信を送ってきたロイド商会の者と話をさせてください」


 え、ええい、ままよ!

 とにかく、今は通信相手から話題を逸らすのが先決よ!


「……それよりも大事な話があるわ」


 私は聖女らしい威厳の籠もった態度で告げた。


「私がここにやって来たのは、他でもないわ。レオン王子、あなたと大地の聖女ユリシアを救いに来たのよ」

「え……っ?」

「あなたのお父上、勇者王ディルムッドは、あなたとユリシアの仲を引き裂こうとしているのでしょう?」


 虚を突かれたように、レオンは目を丸くした。

 よしっ! やっぱり、恋人のユリシアの名前を出せば、意識がそっちに引っ張られるわよね。

 私は畳み掛けるように続けた。


「私はユリシアを王宮から連れ出して身を隠すわ。あなたと、ここにいる聖騎士たちは、その手伝いをなさい!」

「なっ!? 下手をすれば父上──勇者王陛下への反逆に問われますが……!?」

「なぜ、【水の聖女】様がそのようなことを!?」


 レオンと聖騎士たちから、困惑と疑問の声が上がる。

 当然の反応だわね。でも、もう後には引けないわ!


「そ、それは……勇者王の愛人ヘレナが、私だけでなく、大地の聖女ユリシアまで亡き者にしようとしているからよ! 故に、一刻の猶予も無いわ。あなただって、ユリシアを失いたくは無いでしょう!?」


 私はヤケクソで叫んだ。

 こうなったら徹底的にヘレナを悪者に仕立てあげて、この場を乗り切るしかないわ。


 ヘレナがユリシアまで亡き者にしようとしているかは、正直、わからないけど、ここは勢いで押し切る!


「……そうか。やはり……そういうことでしたか……!」

「へ……っ?」


 しかし、レオンの反応は、私の予想とは全く違っていた。

 彼は驚くほど晴れやかな、まるで長年の疑問が氷解したかのような顔で、私を見つめた。


「ちょ、やはりって、どういうこと?」

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