12話。四天王ゴルドから偉大な魔王だと認められる
通信網によって、冒険者の集団が侵入してきたことを知った私は、すぐさま現場──オーガ族の村に急行したわ。
ただ登場するだけでは芸が無いので、戦いの場に飛び込む際には、輝くダイヤモンドダストを身に纏った。
お父様──大魔王ベルフェゴールの登場シーンは、迫力があって格好良かったものね。少しでもあの感じに近づける工夫ね。
これで、美しくも強大で恐ろしい魔王を演出できる筈……さぁ、どうよ?
「魔王だと? ハッタリだ!」
「お前みたいな小娘が、魔王なものか!」
「ちょおっ!?」
思わず、ズッコケそうになる。
敵を薙ぎ倒し、ゴルドたちを回復魔法で救って
て見せたというのに、冒険者たちのこの反応はなんなのよ?
う~ん、どうもこの世界の人間にとって私は、小柄で弱そうに見えるみたいね。
そんな私が魔王を名乗っても、もしかして説得力が無い……?
「だが、相当な魔法の使い手だぞ、油断するな!」
冒険者たちは警戒して身構える。
それで、一応、私の面目は保たれた。
配下たちの前でバカにされたら、魔王としての威厳が台無しよ。
「魔王様、なぜ、こちらへ?」
ゴルドは呆然としていた。
「もちろんあなた達、オーガ族を助けに来たのよ。水晶玉通信網は、そのために用意したのだしね」
魔石を狙って人間が【魔の森】に侵入してくるなんて、魔王が侮られている証拠だわ。
きっちりお返しして、新たなる魔王であるこの私の恐怖伝説を広めるのよ。
そうすれば、今回みたいにバカにされることは無くなる筈!
私はぐっと拳を握りしめた。
「この通信網は、我らを御自ら救援するための物……!」
ゴルドは何やら声を震わせていた。
「おい、小娘! 口を閉じて一言もしゃべるな! こいつらの命が惜しいならな!」
「ま、魔王様!」
冒険者たちは人質にしたオーガたちの喉元に、短剣を突きつけた。オーガたちは悲痛な声を上げる。
ふん。しゃべるなですって……
魔法の発動にはトリガーとなる呪文が必要。それで、私の魔法を封じようという魂胆でしょうけど。
残念。オーガたちなら、もう助けたわよ。
パチンと指を鳴らすと、冒険者たちの足元から極寒の冷気が噴き上がる。彼らの半数近くを人質ごとカチンコチンの冷凍状態にした。
「……なにッ!?」
その場の全員たちから、どよめきが上がった。
「ふっふん! 登場と同時に、時間差で発動する氷魔法を仕込んでおいたのよ!」
「人質ごと攻撃するとは!? な、何を考えておられるのだ!?」
ゴルドが私に怒りをぶつけてきた。
「これしか方法が無かったのはわかるが、き、貴様ぁ……ッ!」
「問題無いわ。凍らせただけで、命に別状は無いから。魔法を解けば、みんな元通りになるわよ」
「はっ? なっ、なんだと……?」
ゴルドは私の言葉をすぐに理解できなかったようで、意外そうに目を瞬いた。
「ふっ、あなたもこの魔王アンジェラの四天王の1人なら悪の美学について、ちゃんと理解しなさい」
私は声高く叫んだ。
「悪のカリスマたる者、配下は決して見捨てない! 何があろうと守り抜くのよ!」
きっ、決まったぁあああッ!
大勢の冒険者たちの前で、この大見得を切ってみたかったのよね。やっぱり、決め台詞は敵の前で行ってこそよ。
また一つ夢が叶って、私は内心、喜びに打ち震えた。
最近は、【水の聖女】とか不本意な名声が広まって、あまり魔王ムーブができていなかったから、喜びはひとしおよ。
「魔王様……!」
回復したオーガ族たちが、感動に身を震わせていた。
配下たちからの尊敬の視線は気分が良いわ。
「あ、あなたというお方は……!」
ゴルドも、輝く瞳で私を見つめている。
「はっ、調子に乗るな! この程度の状態異常なんざ!」
ヒーラーが、自信満々で氷漬けになった仲間に回復魔法を浴びせたけれど、なんの変化も無かった。
「か、回復魔法が通じない!?」
「ただの【凍結】状態じゃないのか!?」
彼らはそれがよっぽど意外だったようで、動揺している。
「当然よ。これは魔王である私が生み出した永久に溶けない呪いの氷だもの。【水の聖女】の力でもなければ、回復は不可能よ!」
「まさか本当に魔王……!?」
「殺せ! コイツを殺せば魔法は解ける!」
魔法使いたちが、私に向かって火炎弾を発射してきた。
同時に、剣士たちが裂帛の気合いと共に突っ込んで来る。
「【氷盾】!」
私は火炎弾を氷の盾を生み出して弾き返した。
この盾には、魔法を反射する効果があるわ。
「ひぁああッ!?」
自らが放った炎に焼かれた魔法使いたちは、地面を転がる。
私は剣士たちの斬撃を躱しながら、彼ら全員に拳を叩き込んだ。
剣士たちは、うめき声を上げて、その場にうずくまる。
「ふん! あなたたちごとき、【絶対零度剣】を使うまでもないわ」
私は鼻を鳴らして、魔王の決め台詞その2を放った。
「この強さ、なっ、なんなんだお前は……?」
ズタボロになった冒険者たちが、私を見上げた。
あっー! その目、その目よ! 絶対悪にして絶対強者として、恐怖の眼差しで見られるのって、最高だわ!
「だから言ったでしょ。この私こそ、新たなる魔王アンジェラだって!」
私は胸を反らして、ドヤった。
「あなたたちは、全員、奴隷にして死ぬまでこき使ってあげるわ!」
「……なんだとッ!?」
冒険者たちは、絶望と驚愕に大きく目を見開く。
逃げようとしていた者もいたけど、私が足を凍りつかせて妨害した。
「この私から、逃げられるとでも思ったの?」
「あっ、う、うぉ……!」
魔王からは逃げられないのがお約束だと、知らなかったのかしら?
冒険者たちは、恐ろしさに声を上擦らせた。
「私の大事な配下を殺しに来たのだから、当然よね? 命があるだけ、感謝しなさい!」
私は闇の回復魔法【ダークヒール】を、腰を抜かした少女冒険者に放つ。
傷を癒やされた彼女は、意味がわからない様子で、キョトンとしていた。
「だけど、か弱い女の子だけは帰してあげるわ! 街に戻って他の者に伝えなさい。魔族を狩ろうと魔の森に踏み込む者は、誰であろうと、この私が許さないってね!」
「ひぃ、やぁああああ……!」
行きなさいと顎をしゃくると、少女は脇目も振らずに逃げ出した。
「ふふっ。これで私の恐怖伝説が、聖王国中に──いえ、やがて世界中に広がるわね」
よしよしと、私は頷く。
悪のカリスマである私が侮られるなんて、決してあってははならないことだわ。
いずれ、この私の名前を聞くだけで、誰もが震え上がるような状況を作ってやるのよ。
そう決意を新たにした時だった。
「魔王アンジェラ様……」
ゴルドがなにやら厳かな様子で、その場に片膝をついて――。
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