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11話。ゴルドとオーガ族のピンチを助ける

【城砕きのゴルド視点】


「ふんッ! ふんッ!」


 オーガ族の村で、俺は一心不乱に剣の素振りをしていた。

 心に迷いが生じた時は、俺はいつも鍛錬に没頭する。俺を悩ますのは、あの魔王アンジェラだ。


 奴を侮って負けた俺であったが、アンジェラは俺の力を評価し、四天王の座と【城砕き】の二つ名を与えてくれた。


 敗れたからには、反逆者として処刑されてもおかしくなかったが……おかげで俺のオーガ族族長としての面目は保たれ、他の魔族たちからの評価も上がっている状態だ。


 自分と敵対した者に情けをかけるばかりか、このように厚遇するとは、なぜだ……? 奴は一体、何を考えている?


 あの小娘が、単なるバカであれば良かったのだが……恐ろしいことに奴は稀代の策士であった。


 人間どもに自らを【水の聖女】だと信じ込ませ、聖王国内で盤石の地位を確立してしまったのだ。


 なんと、勇者王ディルムッドがロイド商会に認可を与えたどころか、水の聖女アンジェラを王宮に招きたいと躍起になっている程だという。


「……つまりは、労せずして敵の本丸に侵入できるようになってしまったということだな」


 人間社会で金儲けをするとアンジェラが言った時は、鼻で笑ったものだが。予想を遥かに上回る驚異的な成果を、奴は短期間で出してしまった。

 

 おがげで四聖女を手に入れ、先代魔王様を復活させるという計画が……あの小娘が提唱する夢想のごとき【人類奴隷化計画】が、急速に現実味を帯びてきていた。


「……魔王アンジェラ。もしかすると本当に、勇者王に勝つ存在になるやも知れんな」

「お主も、ようやくあのお方の偉大さが理解できるようになったかの?」


 その時、近くに置いておいた通信魔導具の水晶玉から、四天王の1人【賢狼】ワイズの声が響いてきた。


 この通信魔導具は、アンジェラによって、情報を瞬時に魔族たちに伝えるべく、各村に一つずつ設置することが義務付けられたものだ。


『スマホもネットも無いなんて、あり得ないわ! あなたたち、どうやって連絡を取り合っているの!?』


 と、あの小娘が喚き散らし、奴がロイド商会で儲けた金を注ぎ込んで、すぐさまこの通信網が整備された。


 正直、アンジェラの言っていることは、まるで理解できぬが……


「これは長老殿……それは確かに認めぬ訳には参りません」

「しかりじゃ。この通信ネットワークは、人間どもが開発した通信魔導具を利用した革新的なもの。人間と共存し、その叡智を取り込もうとするあのお方の理想の現れであるな」

「……ッ! 人間との共存。それだけは、絶対に容認できぬことではありますが……!」


 俺は歯噛みした。

 アンジェラは奴隷にした人間も自分の大切な配下だと主張し、魔族と同じように遇している。


 なんだかんだ言って、あの小娘が、人間との平和的な共存を望んでいるのは火を見るより明らかだった。


 許せぬことだが、同時に、奴が魔族社会をより豊かにしていること。聖王国軍を弱体化させ、魔王軍を強化していることは事実だった。


 いざ勇者王率いる聖王国軍と戦争となれば、ずっと安価に提供していた【エリクサー】の供給を止め、魔王軍内で使えば良い。

 これだけで、聖王国は大混乱、逆に我が軍は、死を恐れず戦うことができる。


 それにこの通信網も素晴らしい。

 刻々と状況の変わる戦場において、即座に命令や連絡を送り合えることの利点は計り知れない。

 日常生活においても、それはしかりだ。


「この通信網によって、わざわざ獣人の領域まで出向かなくても長老殿のお知恵を拝借できるのには、非常に助かっております」


 獣人である賢狼ワイズは、わずかな空気の変化に敏感であり、これまで蓄積した知識と照らし合わせて、次の日の天気をピタリと言い当てた。


 今では、通信網を通じて、ワイズの天気予報が、魔の森全体に毎朝、流れている。


『うぉほん! 四天王のワイズであるぞ。みなの者、明日の天気は晴れ! 絶好の狩り日和となるでろう!』

『みんな! お天気お姉さんのアンジェラよ! 獣人領は、今日は午後から雨になる可能性があるから、外出は早めに切り上げて、家で小説でも読んで過ごすと良いわ!』

 

 なぜか、あの小娘まで出演して、各地域の天気について、細かい解説までする始末だ。

 この天気予報によって、悪天候の日を避けて狩猟採集ができるようになった。


 それにしても、本を読めとは……アンジェラは長老殿のおっしゃる通り、人間の叡智を魔族に広め、より良い社会を実現しようとしているのであろうな。

 魔族の識字率の低さについても、奴隷にした人間どもを使って、対策を始めているらしかった。


 まさに大革新。これによって、アンジェラのことを歴代最高の名君と呼ぶ者も増えてきている。


「くくっ、人間と力を合わせれば、より大きなことが成し遂げられる。アンジェラ様の理想の大きさには、この老骨も圧倒されるわい。他の魔族たちの賛同を得るため、人間を奴隷にすると称しておるところも、また心憎いの」

「……衣食住を保証し、給金と休日まで与えていたら、それはもう奴隷などではありませんぬ。そのようにして、なし崩し的に人間との共存を進めるなど、俺は決して認められぬ!」


 俺は怒声を上げた。正直、反吐が出る理想だった。


「青いのうゴルド。それで我ら魔族が、平和で豊かに暮らせるのであれば、それで良いではないか?」

「長老殿! 人間は魔族を殺して魔石を奪おうとする凶悪な種族ですぞ! 人間との共存など、本気でお考えか!?」


 俺の父は、人間に殺されたのだ。

 そんな人間と共存するなど、決してできぬ。許せぬ。

 例え、魔王の命令だとしてもな。


「おぬしの気持ちはわかる。だが、もう神話の時代から、魔族と人間は争ってきた。実を言えばワシは戦いを厭おっておるのだ。ちょうど先代魔王様がそうであったようにな……故に、ワシはアンジェラ様に期待しておる。この永遠に続く憎しみの連鎖を終わらせてくれるのではないかとな」


「戦いを厭うとは、何たる軟弱ですか! これが、数百年も人間と戦ってきたもっとも古い魔族とは嘆かわしいですぞ、長老殿!」

「勘違いするでない。無論、それは勇者王を倒し、アンジェラ様がすべてを支配するという形でしか実現できぬと考えておる。あのお方は、それを成せるお方だということだ」


 その時、荒々しい鬨の声が、村中にこだました。 


「……何事だ!?」


 同時に、無数の火矢が家屋に撃ち込まれ、瞬く間に、村が火に包まれた。


「ギャハハハッ! こいつはすげぇ、大量のオーガがいるぜぇ!」

「子供も魔石をドロップするぞ!」

「殺せ! 皆殺しだ!」


 我らを狩ろうとする人間どもが、村になだれ込んで来たのだ。

 村を駆け回っていた子供たちの笑い声が悲鳴に変わり、女たちが逃げ惑った。


 敵は少なく見積っても30名以上の冒険者の集団だった。


「おのれ、人間どもが! みなの者、武器を手に取れ!」

「おう! ゴルド様に続け!」


 俺は大剣を手に激を飛ばす。

 村の男たちが呼応して、反撃に出た。

 俺は先頭に立って敵集団に突っ込もうとして、愕然とする。


「おっと! ここのボスモンスターか? 俺たちを攻撃したら、この女の命はねぇぜ!」

「あっ、あんたぁ……!?」

「お前!?」


 なんと、奴らは俺の女房を──森に狩りに出た数名の仲間たちを縄で縛って前に押し出し、盾にしていたのだ。

 皆、手足を折られて、抵抗を封じられていた。


「お、おのれ! 卑怯な! 貴様ら、それでも戦士か!?」


 誇り高きオーガ族は、戦いにこのような卑怯な手は決して使わない。

 俺の怒りは一瞬で、頂点に達した。


「俺はオーガ族の族長。【城砕き】のゴルドだ! お前らの頭に、正々堂々の一騎討を申し込む!」

「ヒャハハハハッ! 噂通りだ! オーガは、仲間を盾にされると、攻撃を躊躇するようだな!?」

「こいつは傑作だ! なんで、お前らの決闘ごっこに、俺らが付き合わなければならねんだよ!」


 人間どもは爆笑し、俺に無数の矢を放ってきた。

 俺は剣を風車のように高速回転させて、それらを弾き返す。


 だが、俺の配下たちは、攻撃を防ぎきれずに、地面に倒れた。


「お前たち……!?」


 さらに、人間どもが、盾にした人質の後ろから一斉に長槍を突き込んで来た。


「ぐぉっ!?」

 

 俺はそれを必死に弾き返した。

 その気になれば、こいつらを一撃で薙ぎ倒すことは簡単だが……


 女房と仲間を人質に取られた俺は、防戦一方となる。

 防ぎ切れなかった長槍が、俺の身のアチコチを抉った。


「あんた! こいつらを叩き斬っておくれ!」

「ゴルド族長! 戦ってくだせぇ!」


 囚われた女房と仲間たちが悲痛な声で叫ぶ。

 だが、そんなことは決してできぬ。


 父を人間に殺されて以来、俺は二度と家族や仲間を奪われぬように、剣の腕を磨いてきたのだ。


「ホントにバカだぜ! お前を殺したら、次はこいつらの番だってのによ!」

「お前のブサイクな女房は、余興で思い切りいたぶって殺してやら!」

「き、貴様ら……!」


 笑いながら魔法使いたちが炎の魔法を放ち、俺の全身が火に包まれた。


「ぐぉおおおおッ!?」


 そこに、剣士たちが攻撃を仕掛けてくる。

 万事休すか。


【氷結陣】フリージング・フィールド!」


 その時、俺の頭上から、きらめく冷気が浴びせられた。


 俺の身を焼いていた火炎が掻き消され、俺に斬り掛かってきた剣士たちが、全員、氷漬けにされる。


「な、なに……?」


 しかし、俺自身には、何のダメージも無かった。しかも続けてかけられた【ダーク・ヒール】によって、俺と地面に倒れた配下たちの傷が癒えていく。

 すさまじい魔法の腕前だ。こんな芸当ができるのは……


「あなたたち……よくもこの私の大切な配下を傷つけてくれたわね。この魔王アンジェラが相手になるわ!」


 俺の前に飛び降りてきたのは、あの小娘──魔王アンジェラだった。

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