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第5話 無課金イベント?



今日の終日バイトもほのぼのと終えられそうな雰囲気の中で、携帯に通知が来た。お客さんも全然いないので確認してみると、先に帰宅したらしいミョソンからのメッセージだった。




【スバルはコーヒーを淹れるのがすごく上手いらしいね。どうやったら上手く淹れられるの?アルバイトの時に不思議に思われちゃった。】




そっか、ミョソンはエスプレッソ系の飲み物たくさん作ってたからハンドドリップ慣れてないんだな…店長になんか面倒なこと言われちゃったかな…。



と心配しながら、先日ジェヒョンさんと交わした会話を思い出す。



コーヒー豆を生き物に例えるという、我ながら少し的外れなことを言った気がするが、ジェヒョンさんは興味深そうに話しを聞いてくれたな。



あとでミョソンにもそう伝えてみよう。参考になるかは分からないけど。





カランカラン、とドアについている小さなベルの音がして、お客さんが入ってきた。




「いらっしゃいませ」と声を出してお客さんの方を見ると、マスクを下げながらにっこり笑うジェヒョンさんだった。




「お疲れ、ミョソン」



「ジェヒョンさん!お疲れ様です!またいらしてくださったんですね。」



「うん。コーヒーめちゃくちゃ美味しいし、店内の感じも落ち着くから作業するのにぴったりで。」



「それは良かったです。今日もハンドドリップにされますか?」



「うん、お願い。あ、そうだ」



何かフードなどのご要望があるのかなと思い、注文入力用のタッチパネルに向けていた視線をあげてジェヒョンさんの顔を見上げる。



「はい」



「バイト終わり何時?飯行かない?」



「はい?」



「ご飯まだでしょ?作業したいことあるからちょうど終わるまで待てると思うから」



「いやいやいやいや、滅相もございませんですそんな、ジェヒョンさんの貴重な退勤後のお時間を」



「あのさ、僕が知ってる辛いものの中で一番上手いもの食いに行かない?ドラマの中でジェヒョンとユラも食べに行ってるよ〜…?」



「ぐ……!!!!!!!!!!」



わたキャンの設定を出されると、私利私欲に勝てない私の愚かさよッッッ!!!!!!





**




チュクミサムギョプサル〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!

食べてみたかった〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!

おいし〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!




辛い味付けがほどこされているイイダコ(チュクミ)と、厚切りの豚バラ肉(サムギョプサル)を同じ鉄板で一緒くたに焼き、葉野菜や薬味と一緒に食べるのだが、ドラマでみた時にタコと豚合うのか?と疑問に思っていた私に教えてあげたい。


タコと豚、出会ってくれてありがとう〜〜〜〜〜〜〜!!!!!

最高のバディだよお前ら〜〜〜〜〜!!!!!!




「ほんと美味そうに食うね。」



初めて食べてみて、あまりの美味しさに感動した私は急いで次の一口を食べる。


が、焼きたてのサムギョプサルは相当に熱いことを失念していた。



「あふっ!はッ!ふぁっ…」



「あはは、焦って食べるとやけどしちゃうよ、大丈夫?」



手元のコーン茶で口内の温度を下げる。



「…っはぁ!危なかった!すみません、お行儀悪くて…気をつけます…」



「いやいや、美味そうに食うの見てて気持ちいいよ。来てくれてありがとね。」



「そんな!私の方こそ連れてきていただいてありがとうございます!こういうことするの初めてなんですけど、好きな作品の中のものを味わうのって良いですね。まるでその世界に入ったような気になれて…。しかも、私はラッキーなことに目の前にジュンソのお顔があって…!」



「ジュンソにはまだ飲めない酒を飲んでるのに?目の前にいるのおじさんなの分かってる?」



ジェヒョンさんが冗談ぽく言って、二人で笑う。


なんだか本当に、ジュンソと高校時代からの友達として食事している気持ちになる。




サムギョプサルをお皿にとって、巻く用の葉野菜をとる。


結構大きなサニーレタスだったので、上手く巻けずに少し手こずってしまう。



「あのね、こうやって千切って巻くといいよ。」と、ジェヒョンさんが手を伸ばして私のお皿からサムギョプサルの乗ったレタスを取っていく。


器用にレタスを半分にちぎり、ネギやナムルを一緒に巻いてくれる。



「はい、どうぞ」



「あ、ありがとうございます!すいません」と、お皿を差し出す。




「くち」




「はい、」



「くち、開けて?」




にこっと微笑みながらそう言うジェヒョンさんにつられて口を開ける。


口の中に美味しい味が広がって、もぐもぐする。





こ…これは…いわゆる…「あーん」では…?


え………無課金で?





「美味い?」



「…はい、すごい美味い…れす」



まだもぐもぐと噛み続ける口元を隠すため手を当てたが、本当は今すぐ顔を全部隠したい。

多分絶対赤くなってしまっている!!!!!!!



ファンの皆さん、課金もせずごめんなさい!!!!!!!!!


頑張ってどうにか徳を積みますので!!!!!!!!!!


出世払いにさせてください!!!!!





目の前の美味しいご飯と、お酒の力もあってジェヒョンさんとの会話が楽しく進む。



「そういえばミョソンは時田透作品で他にも読んだりしたのある?」



時田ときた とおるとは、『COBALT BLUE』を描いた漫画家だ。



「はい!『COBALT BLUE』を読んでから他にもちょこちょこ読みました!『Dancing on air』とか!」



「ほんと!あれいいよね!前に一度アニメ版のリバイバル上映を劇場で見たんだけど、もう一回見たいんだよな〜」





『Dancing on air』とは、時田透作品の中でもめずらしい、アニメ映画化された作品だ。

何気ない日常に不満を抱えつつも、持ち前の妄想力で毎日をやり過ごしている女の子の物語である。

アニメ版はテレビなどでは滅多に放映されず、たまにミニシアターなどでリバイバル上映されていることがあるそうだ。





「私読んだのが最近なので映画版見れてないんですよね。見てみたいです〜〜」



「そうだよね。いやあれは是非見てほしいな。音楽も全部良いんだ。」



「たしかFixie Bikeが主題歌やってるんですよね。2000年代のバンドでしたっけ?」



「そうそう。Fixie Bikeの『エリンジウム』がさ、最後流れてくるタイミングが絶妙なんだよな〜!」



楽しそうに話すジェヒョンさんを見て、こちらまで嬉しくなってくる。

この人は本当に、創作物を愛しているんだな。なんだかいつか、演者じゃなくて制作側として活躍しそうな気がする。




「…そういえば、ジェヒョンさんはなんで俳優を目指されたんですか?」



「ああ、えっとね、高校生の時にたまたまスカウトしてもらったんだよね。」



「すごいですね!!いやそりゃそうですよね!!私が業界人だったら絶対逃すはずありません!!」



「いやそんな、全然普通の高校生だったんだけどね。…昔から漫画とか映画とか好きだったからずっと見てた側だったんだけど、誘われてみて “ 創る側として関われるのかも ”って興味が湧いてこの世界に入ったんだ。実際やってみたら、自分で表現することとか、少しでも自分の中にあるものが形になるのが面白くて今もやれてる感じ。」



「そうなんですね…!…分かります。自分の中にあるものを表現できるのって、自分自身をより素晴らしくさせてくれる気がします…」



私自身、亡くなった祖母の影響で絵が好きになって、絵の道に進んだ。

両親は反対していたけど、祖母が言ってくれた「せっかく今の時代に生まれたんだから、自分の心がより良いと信じられる方向に進みなさい」という言葉に後押ししてもらい、チャレンジできて今がある。



「そうだね。僕も本当に、あの時誘ってもらえたおかげで、素晴らしい経験をさせてもらえてて、ありがたいよ。」






ジェヒョンさんと他にもたくさん話しをして、お腹も、胸もいっぱいになった。

入れ替わりという信じられない現象で頭がどうにかなりそうなはずなのに、暖かい気持ちになってばかりなのが、本当に感謝してもしきれないな。





自宅に着いてから、ミョソンにコーヒーの話と一緒に「共演者の人とたまたまご飯に行ってこんな話しができたよ」と連絡をした。




【私も分かる気がする。絵をやってみて分かったけど、私は自己表現するのが好きなんだと思う。それに、スバルのフリをしてみて、演技の中だと「何者にでもなれる」面白さがあったことを思い出したよ。私はやっぱり演技することが好きみたい。】




面倒をかけてしまっている部分があるけど、そう思ってくれて良かったな。

私も、演技の面白さみたいなのが少しだけ分かった気がしたから、ミョソンも同じ気持ちでいてくれて嬉しい。


けどやっぱり、私も本当に好きなのは絵を描くことなので、ミョソンも私も、本来の方法で自己表現がしたいよね、と伝える。



それに、親とか友達にこのまま会えないのは寂しすぎる。


そう思って、少しでもヒントがあればと思い、入れ替わり前日の行動を二人で確認してみた。


ミョソンは1日オフだったらしく、家でゴロゴロして過ごしていたらしい。


私は授業とバイトといういつも通りの日で、今のところ二人の共通点は特に見当たらなかった。




【もう少し考えてみる必要がありそうだね。今日はとりあえず疲れたからそろそろ寝るよ。】




いくら面白さを感じる部分があっても、やっぱり他人のふりは疲れるだろう。

そう思って私はあることを伝える。




「【魔法のツボを教えてあげるよ。昔おばあちゃんがやってくれてたんだ。】」





“ モチモチ、おもち、元気になぁれ ”





まだ私が小さかった頃、祖母がよくやってくれた、おまじないのようなツボ押し。

「手のひらを出して」と言うと、両手で包み込むようにしながら、親指の付け根のふくらんでいる部分をぎゅっぎゅっと押してくれた。



「【ぎゅっぎゅって押しながら、“ おもち ”の時にぐるっと円を描くように押すんだよ。】」



子どもだましのようではあるけど、当時は祖母がおまじないをかけてくれているみたいで、悲しいときでも元気になったのを思い出す。





【ありがとう。素敵なおばあちゃんだね。スバルもゆっくり休んでね。また明日。】




ミョソンが楽しみながら元気に過ごせるといいな、と思いながらベットに入る。


明日の撮影も、頑張ろう、と目を瞑る。







ここまで読んでいただきありがとうございます!


サムギョプサルは食べたことあるんですが、チュクミサムギョプサルは未知の味なので憧れです。


続きも読んでいただけるとすごく嬉しいです。


2025.4.6. 海野

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