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第2話 現実の推し



【私とあなたはおそらく入れ替わっていると思います】…?





…入れ替わってるって……え…?…んん…?




「えっと、どうしよう……【つまり私とあなたは、今現実に、入れ替わってしまっているってこと?これは夢じゃなくて?】」



送信してみたぞ…。

ドキドキしながら待っていると、数分経ってまた返信がきた。





【申し訳ありませんが、韓国語がわからないので正しく理解していないかもしれませんが、おそらくそうだと思います。】





韓国語が分からない…?

あ、そうか私今韓国語が読めるから韓国語で送ってたんだった…。


…さっきの電話、私の声で…、もしかして、日本語で話してた…?



じゃあまさか本当に、私が今なっているモブ女優の子が、私の体に入って、私と同じような状況になってるってこと…?!



「…【まだ少し信じられないですけど、あなたも同じ状況だとするなら、現実なのかもって気がします。】」


と、打ってから、日本語に翻訳して送信する。




まさか自分が唯一理解できた母国語を調べることになるとは…どうなってるのこれ(涙)





そこから翻訳アプリを駆使してやりとりをした。


入れ替わったのは同い年の女優さんで、名前は「キム・ミョソン」。

どうやら私たちは入れ替わっている上に、約2ヶ月ほど時間を遡ってしまっているらしい。



彼女は女優さんということもあって、向こうで私のフリをしてくれているみたい。



【演じるというよりは、なりすましている感じですがとても興味深いです。】と言ってくれた。



色々やりとりできたけど、結局元に戻る方法は全く分からないので、とりあえずこの状況を上手くやっていこう、ということになった。

文面からしか分からないけど、入れ替わった相手が良い人そうで本当に良かった…。



【周囲の出演者とはそこまで仲良くなろうとせずに大丈夫。もし元の体に戻ったら、その後交流するのが面倒だから。】



とのことなので、少し肩の荷が下りた気分だ。

女優さんだというからには、「人脈いのち!!!!!」みたいな感じかと思ったけど、案外そうじゃないみたい。

それなら、私はただただ、わたキャンの世界を満喫してればいいんだな〜〜〜…



…あれ…ちょっと待って…

これ夢じゃなくて現実ってことは…




あの推しは本物ってこと…?!?!?!?!?!




いやいやいやいやいや、え??!!

私の創造の産物じゃないの??!!


私の背中に推しの残留物があるってこと?!?!?!?!



だめだ受け止めきれない!!!!!





………落ち着こう。


現実って決まったわけじゃないもんね。

一回寝て起きたら、自分の部屋で「なぁ〜〜〜んだ、やっぱ夢じゃぁん♪」てこともありえるよ。ありえるよ!!そうだそうだ。




よし、一旦寝てみよう。

推しの姿形と音声は脳に刻み込んで、寝るぞ…!







**


***






「いや、戻ってないんかい…」




キラキラと日差しが爽やかな朝ではあるが、起きてまだ昨日の部屋にいる自分に落胆しながら、なんとか体を起こし、


これは本当に現実の中で入れ替わっているのか…はたまた、長編気味の夢なのか…などと考えながらベットから抜け出す。



昨日ミョソンから教えてもらったカレンダーアプリの中の撮影スケジュールによれば、今日もまた撮影がある。

つまり!考えようによっては、今日も推しドラの世界が拝めるってことだ。



分からないことを考え込んでも仕方ないか!と気持ちを切り替えて、撮影所に向かうことにした。







やっぱり推しドラの撮影が見れるのは嬉しいもので、入れ替わりのことなんて頭から抜けてしまう。

飲み物やちょっとしたお菓子があるセット裏でお茶を飲みながら、私は撮影風景の見守りを満喫している。



っはあ〜〜!!ヒロイン今日も可愛いなぁ〜〜〜〜〜〜!



と思いながら、デカめのため息を吐いていると後ろから声をかけられた。




「あ、お疲れ様」




声だけで誰か分かり、思わずバッと振り返ったが、声の主に目を丸くしてしまう。




ジェヒョン!!!!!

これは本物の!!!!!

ジェヒョンなんだ!!!!

ビジュアルの破壊力すごすぎる!!!!!!





「お、お疲れ様です」



「今日はクラスシーン撮影だよね、よろしくね。」



「はい、がんばります!!」



と緊張でハキハキ答えてしまったが、実際には今日も私はセリフがないので、わたキャンの世界を満喫するだけなのです…。

しかも、裏で話しかけてもらえるなんて、おつりがすごいんですけど!!!




「そういえば昨日、日本食好きって言ってたよね。他にも日本のものとか好きなの?」



「あ…そうですね…(というか、日本のものしか知らないのだけど)」



「漫画とか好き?」



「はい、漫画好きですね。あ!あの、最近だと『COBALT BLUE』が好きなんです!」



「え、そうなの!」



「はい!実は『私たちのキャンバス』をきっかけに知って、どんな漫画なんだろうと思って調べてみたら恥ずかしながらネタバレ解説に行きついてしまったんですけど、その記事見たらより読みたくなって、たまたま大学の友達が持ってたから借りて読んだらすごい良かったんです!」



「そうなんだ、すごいね!それ台本には確か書いてなくてジュンソの部屋の小物としてしか出てないんだよね。セット行った時とかに見たの?」





やばい!

そうだ、確かジュンソの部屋のシーンで一瞬だけ映ってて、気になって一時停止してめっちゃ見たんだった…。




「…はい!セットでたまたま見かけて、何かなって思って…あはは…」



「そっか。細かいところまで気づいてくれて嬉しいよ。あれ実はここだけの話、僕の私物なんだ。」



「えっ!!!!そうなんですか!!!」



「うん。元々好きで持ってたんだけど、セットとして必要だったから持ってきたんだ。」



「そうなんですか!!!!!!

あの、私『COBALT BLUE』を読んでから、さらにジュンソが好きになったんです!!」






『私たちのキャンバス』のジュンソは、学校一のイケメンで、王子様。

勉強もできて、運動もできる。しかも、絵が上手でコンクールでほぼ毎回受賞している。


けど彼が絵を描いているのは、産まれて間もない自分を置いて出て行った、顔も分からない母親に自分の名前が見つかるようにするためだった。自分を捨てたことを後悔すればいいという思いで。

復讐のようなその行為のためだけにやっている「絵を描く」という行動を、彼は全くもって評価していない。むしろ、「描きたくて描いてるわけじゃない、描かなくても済む人生ならどんなに良かったか」と、卑下しているのだ。


そんな彼の部屋にあるのが、1995年に発行された日本の漫画『COBALT BLUE』。

青色の絵の具だけを使う画家の話で、絵の具に含まれる毒の影響を受けながらも創作活動と向き合い続けるというストーリーのカルト的名作だ。


誰にでも優しくて、みんなから慕われている。でも本当は誰にも、自分にさえも興味が無い。

自分というのは、ただ復讐心が突き動かしているだけのくだらない存在だと思っている。

そんなジュンソが、この漫画を大切にしていると分かった時、彼の心の奥に触れられた気がしたのだ。


そして、彼のそんな心の奥に触れて、そのままのジュンソを包み込んであげるヒロイン・ユラとの出会いがより素晴らしいものに思えたのを思い出した。






「ジュンソは、ドラマの中で語られている以上に、心の奥にたくさんのものを抱えている子なんだなって気付かされたんです!!自分も絵が好きだから、くだらない理由のためだけに絵を描いてるというジュンソが『COBALT BLUE』を好きだってことに、言い表せない気持ちになって…!」



「…」



「もちろん、『COBALT BLUE』自体がめちゃくちゃ面白いんですけどね!なので私は1度読んだだけで2回分泣いた感じです!!!」



と、早口で語っていると、ジェヒョンさんがふふ、と息を吐いて微笑んだ。




「…よかった。実はジュンソが『COBALT BLUE』を好きだっていう設定、脚本家さんと相談して一緒に決めたんだよね。やっぱり、そこにもジュンソの良さがあるよね。」




「そ、そうなんですね…!」




「うん。…そうやって分かってくれて、すごく嬉しい。」





…推し、そのご尊顔で作品をぶち上げるだけじゃなく、クリエイティビティを発揮して細部の演出までできるなんて…。

なんて才能に溢れた人なの…?神の最高作品か…?




なんて思いながら推しの笑顔に見惚れていると、嬉しいことにもう一人の推しキャラがやってきた。




「ジェヒョンせんぱぁ〜い!なに話してるんですかぁ?」


「お疲れ、ソヨン。いや、ちょっとね。」


「え〜〜〜私も仲間に入れてほしかったなぁ〜〜!」



そう、「わたキャン」ヒロインのユラを演じるソヨンさんだ。

もう本当に可愛すぎる!肌透き通ってる!細い!儚い!可愛い!美しい!!!

ぱっちりお目目に吸い込まれたい!!!!




「あ、そうだ先輩!あっちでビハインドシーン撮るって!行きましょ!」


「え、あ、分かった。じゃあまたね」




そう言って、ジェヒョンさんはユラさんに手を引かれて行った。




推しカップルの撮影裏まで見れちゃうなんて……

たまんないよぉおおおお尊いですありがとうございます、すみません最高です(涙)


作中ではヒロインのユラがジュンソに対して結構ズバズバ、サバサバしてて、それをジュンソがどうにか振り向いてもらおうとするのだけど、ビハインドシーンだとあんな風に、可愛い後輩ちゃんが先輩お兄ちゃんを慕う感じなんだな〜〜〜可愛い〜〜〜〜〜っ…!



そんなふうに今日の頂き物を糧に、撮影は順調に進み、無事に行程が終わった。



よし、帰ってミョソンに連絡しよー!なんて思いながら撮影所を出たところで、携帯に電話がかかってきた。


発信者には【 事務所 】と表示されている。




「…はい、もしもし?」



ー あぁミョソン?撮影終わっただろー、どうだったー?



おじさんの気だるげな声が聞こえてきた。

…多分だけど、マネージャー的な感じの人なんじゃなかろうか。



「あ、えっと良い感じでした!問題ないです!(と思います!)」



ー あっそぉ〜。まあそうだよな〜、今回もセリフ1、2個で前半で撮影終わりだし。そりゃ問題ないだろうよ。



「はい!」



ー ただなあ…お前女優でやっていきたいならもっと頑張った方がいいぞ〜。このままじゃ次回作なんかいつまでも決まんねえからな。



「は、はい…」



ー 顔がな〜。もうちょっと華やかだったらなぁ〜。こないだも言ったかもしんないけどさ〜、ヒロインとかやりたいんだったらそろそろ整形も考えような。じゃ、引き続きよろしくー。



プツッ………





な…なんなんだ今のは…

こんな…こんなに軽く整形を勧めてくるなんて!!!!

しかも、「こないだも言ったかもしんないけどさ〜」って…そんなセンシティブなことは絶対覚えとけよ!!!!忘れるな!!!!


私はぜっっっっっったいに忘れないからな…!!!!!!!!



……「そのままを受け入れる」という、わたキャンの世界から感じたメッセージに反して、現実とは、変わることを強要してくるものなのか。悲しいなぁ…。







怒りと悲しみに身を任せて帰路に付き、少し気持ちを落ち着けてからミョソンに今日もなんとか上手くいったということを連絡した。



彼女からもすぐ返事が来た。



【良かった。私は今日大学で初めて絵を描いたけどとても難しかった。いつも何を考えて描くの?】




…そっか、私が通ってる美大の授業に私のフリして出席してくれてるのか、申し訳ないな。

せめてなんにも気にせず、楽しんでもらえたらいいよな…。




「【絵はね、何をどう描いてもいいんだよ。どう描いたらいいのか分からない、って気持ちも、悩みも、他の気持ちでもなんでも!だから何も考えずに楽しんで。】」




【そうなんだ、絵って面白いんだね。楽しんでみるよ。あなたも楽しんで。次の作品は決まっていなくて、女優を続けるかどうか考えていたところだったから。何をしてもいいよ。】




何をしてもいい、か…。

正直演技のことは分からないから私にできることって何も無いに等しいんだけど、せっかく推しドラの世界に関わるんだから、私にできることがあれば、精一杯頑張ってみよう。



よし。



そうと決まれば明日の初・推しとの台詞シーンに備えて、もう寝ようっと。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

おそらく、またしれっと細部を改稿してしまうかもしれませんがご容赦いただけますと幸いです。


次項は、昴が行き着いたというサブカル漫画『COBALT BLUE』のネタバレ記事を掲載します。

が、読み飛ばしていただいても大丈夫です!


また続きを読んでもらえたらとても嬉しいです。


2025.4.2 海野

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