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第10話 推しのきみへ





元の生活に戻れて嬉しいはずなのに、涙が止められず大学もバイトも数日休んだ。





元に戻ってすぐのタイミングで、ミョソンと戻れて良かったねとやりとりした。

その時に私はあることを伝えておいた。




【もし共演者で連絡をくれる人がいたら、その人良い人だから親切にしてね。】




共演者との交流を心底面倒臭そうにしていたミョソンだが、ジェヒョンさんを無視しては欲しくなかった。




……あーねえちょっと待った…。

これジェヒョンさんが私だと思ってミョソンにアプローチを続けたら、ミョソンと彼がそのままお付き合いすることになるのでは…?




そう思って「ううぅううううううええええ」とまた惨めに泣いてしまった。





いや、けどそれならそれで良いのだ。

だって彼が好きなのはキム・ミョソンで、本来の私「北村きたむら すばる」じゃない。


彼の幸せを願ったんだから、彼が幸せなら、それでいいじゃないか………ぅううううううう





推しの君へ。

どうか、どうか幸せに生きてくれ………。






**


***




結局2週間ほど自宅に立てこもり、やっと少し元気を取り戻したかなと大学に行くことにした。


しばらくぶりに会う私に、友人達が驚いた顔を見せる。



「あんたここんとこなんか変だと思ったのよね〜!絵のタッチもいつもと違うしなんか軽く塩対応な感じになってるしさ。そしたら急にしばらく休んだから心配してたけど、なんか今度は元気なくない?」



「いや〜ちょっとね〜はは…元気は元気だよ!もう全然平気!ちょっと体調崩してただけだから。」



そう言って笑う私に怪訝な眼差しが向けられながら、もう一人の友人が尋ねてくる。



「あ、そういえば『わたキャン』最終回見た?!?!まーーーじやばかったよね、号泣した〜〜〜〜〜」



「あーーー…まだ見れてないやぁ」



「「…………は?」」



驚いて顔を見合わせる二人。



「あんたやっぱなんか病んでんじゃないの?!」


「そーだよあんなに騒いでたじゃん!!!!!」



何か悩んでるなら話せと、事情聴取のような勢いになった二人を撒いてバイトに向かう。


…もう少ししたら大丈夫になるはずだから、その時には最終回を見てみようかな。






**


***




引きこもりの2週間を抜け出し、大学やバイトにちゃんと行くようになって数日が経った。


一人になると悲しい気持ちが蘇ってしまうので、帰宅後は課題に集中するか、とにかく早く寝るようにしていたらなんだか逆に健康的な生活になってきた。




よし!今日のバイトもモリモリ働くぞ!と意気込みつつも、いつも通りゆるやかなお客さんの波を捌いていく。



空いたテーブルの片付けをしながら、ちょこちょこお客さんが入っている店内を見渡して、ふと韓国でのカフェバイトを思い出した。




奥まった席に座って、コーヒーを飲んでいたジェヒョンさん。


真剣な眼差しでPCの画面を見つめて集中する姿を何度も盗み見たなぁ。




こうして思い出すジェヒョンさんの姿は全部眩しくて、本当は映画でも見ていたのではないかという気がしてくる。



……そうだ。映画の中の話だったと思えばいいんだ。


…良い映画だった。



けどもし映画だったら最後ハッピーエンドのはずなんだよなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜あ(泣)





と、感傷に浸っていると、座っていた女性のお客様が近づいて来た。



「…あの、すみません。」



「はい!あ、お水おかわりお持ちしますか?!」



「いえ、あの…少しお話いいですか?」



「はい?」





声をかけてきたのは、最近よくお店で見かけるようになった私より少し歳下っぽく見える可愛らしい雰囲気の女の子だ。


お店から出て店舗脇で話を聞こうと向かい合ったところで、どうやらものすごく緊張されている様子が伝わってきた。



「すみません、お時間いただいてしまって。ありがとうございます…」



「いえいえ!大丈夫ですよ!お話ってなんですか?」



「……あの、私、北村さんが好きです。」



「はい?」



「もし…、もし少しでも可能性があるなら、お友達からでもいいので、お付き合いをしていただけないでしょうか!」





んんんんんんんん?!?!?!?


突然の告白にびっくりして頭がフリーズする。


…そもそもなんでこの子は私の名前を知ってるんだろう???




「……む、無理でしょうか。」



「あ、いや、あの、すみません。急でびっくりしたもので…」



「すみません…!……もしかしたら私、勝手に勘違いして突っ走っちゃってましたかね……。」



「いやいや!あの、すみません、初めて女性の方に好意を持っていただいたものでなんとお答えしたら良いのか…」



「え、そうなんですか…」



「すみません、お気持ちは嬉しいんですけど、ごめんなさい。」



「そう…ですか…すみません…」



今にも泣いてしまいそうな彼女の姿に胸が痛くなる。


いったい私なんかのどこを好きになってくれたんだろうか。



「思わせぶりな言動をしちゃってたりしたらすみません。あの、傷つけるつもりとかはなくて、」



「いえいえ、北村さんは悪くありません!北村さんは私に親切にしてくださってただけなのに私が勝手に好きになっちゃっただけなので…。」



はて、この子に特別親切にしたことあったかな…?と一瞬疑問に思う。



「…あの、これ、もしご迷惑じゃなかったらもらってくれませんか?」



そう言って、彼女は小さな紙袋を渡してくれた。


中を見てみると、深い青色の毛糸でできたポーチが入っていた。



「北村さんが前に可愛いねって言ってくれたので、プレゼント用に編みました。色は北村さんが好きだっておっしゃってた青にしてみました…。もしご迷惑だったら捨てていただいて大丈夫です。」



「え…手編み…?すごいですね…」



「………北村さんに褒めてもらえたのが嬉しくて、ちょっと頑張っちゃいました。」



涙目になりながらくしゃっと笑う彼女がなんとも恋する女性という感じでめっちゃ可愛らしいなぁなんて思いながらわt、イヤ待て待て待て待てぃ!!!!!



…さっきから記憶にない話が出ている気がする。




「あの、すみません、お名前を教えていただけますか…?」



「え……?…木村…です………」



「あの、本当にすみません、まったく意味わからないと思うんですけど、木村さんがお店に来始めたのっていつ頃でしたっけ?」



「……?…1ヶ月半前、くらい…ですよね…たぶん」



「ついでに、恥を偲んで聞くんですけど、いつ何がきっかけで私のこと好きになりましたか?!」



グイグイ真剣に聞いてくる告白相手を前にして、木村さんが気圧されている表情でゆっくり口を開いた。





1ヶ月半ほど前、初めてうちのカフェにやってきた木村さんは、最近始めた編み物をするために入った適当なカフェなのに思いの外カフェラテが美味しかったので通うようになったそうだ。


何回か通ううちに「いつものですよね」と顔を覚えてくれた店員と、ちょくちょく言葉を交わすようになっていった。


カフェに行くたび少しずつ編んでいたポーチが完成して静かに喜んでいると、その店員が「できたんだ。可愛いね、それ。」と優しく微笑んでくれたのだとか…。



そう、その店員というのが私、いや、入れ替わったミョソンなのだ。



「北村さんと少しずつ話すようになった時に、私がたまたま読んでた本をきっかけに色々と趣味の話とかするようになって、北村さんも同じ作者が好きとか、他にも読む本が一緒だったりして、すごく嬉しくて。私たち名前もなんだか似てるねって笑ってくれた北村さんが忘れられなくて…。気がついたら目で追うようになってて、私は北村さんを好きなんだなってことを自覚していったんです。」



それ、北村は北村でも、ミョソンの方の北村なんです…。



切実な表情でミョソンへの思いを伝えてくれる木村さんに胸撃たれてしまう。



「…木村さん。今から話すこと、馬鹿みたいな話なんですけど聞いてくれませんか。」





私は木村さんにここ2ヶ月の出来事を話した。つまり私と、ミョソンという韓国人の女の子が実は入れ替わってしまっていたということを打ち明けたのだ。


始めは信じられない、というより、何言ってんだこの人、的な顔をしていた木村さんがだんだん真剣な表情になってきた。


全て伝えてから、木村さんはふーっと大きく深呼吸した。



「こないだ最後にお店で見かけたとき、少し考えこんでいるような様子だったので気になってはいたんです。それでその後、2週間くらいぱったり見なくなって、久しぶりにお店で会えたと思ったら、急に人が変わったような感じになっていて。私のことも気づいてないみたいで、少しおかしいなとは思ってたんです…。」



木村さんは目を閉じて少し考えるようにしてから言った。



「私、まだ信じられないような気持ちでいるんですけど、でも、もし少しでも可能性があるなら…彼女に会ってみたいです。」



「…!」



「もしかしたら北村さんは双子なのかなとか、揶揄うためにそう言ってるのかなとも一瞬思ったけど……私が知ってるあの人は、そんなことする人じゃないんですよね。」



そう言った木村さんがちょっと嬉しそうに微笑んだ。


ミョソンの連絡先を、私は彼女に教えてあげた。

……きっとミョソンなら怒らないだろう。(勝手にごめんミョソン。)



「前、北村さん絵描くの苦手って言ってたのに、ここ数日ペーパーカップに絵を描いてくれてたのも納得です。これ、可愛いですね。」





笑顔でお礼を言って帰っていく木村さんを見送ってから店内に戻った。



ああ………あの子はこんなおかしな話を聞いても、それでもミョソンに会いたいと思うのか…。


ミョソン、幸せ者だなぁ……!




ラジオの音だけが聞こえる静かな店内でドでかいため息を吐きながらカウンターに戻り、ちょうどお待ちだったお客様のご注文を急いで伺う。



「お待たせしてすみません、ご注文お伺いします。」


「ハンドドリップコーヒー1つ」


「承知いたしました。少々お待ちください。」



背後のカウンターで一杯分の豆を挽き、コーヒーを淹れる。


大きく息を吸うと、コーヒーの良い香りが胸一杯に広がる。




コーヒーを淹れている時は、注ぐお湯の先をじーっと見ていられるので何も考えずに済んで良いな。


頭が空っぽになってる間に、気がついたら美味しいコーヒーができるんだもん。



ジェヒョンさんに喜んでもらえたのが嬉しくて習慣になってしまったタカハシの絵を描いて提供する。


こちらでも、たまにサブカル好きの人が喜んでくれるのだ。




「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ。」


カウンター越しにコーヒーをお渡しして、横の流しでコーヒーかすをゴミ箱に入れる。


…あちゃ、しまった、ちょっと手についちゃった。



流しで手を軽く洗いながら、ふと店内が少しざわざわしていることに気づく。




「えっ」


「嘘でしょ…?!


「え、まじで?!」




なんだなんだ、誰かなんかこぼしたか…?とカウンターの中からフロアを見ようと思った瞬間、カウンター越しに先ほどのお客様の声がした。




「すみません」



やっぱなんかこぼしちゃったかな。

ダスター、いや雑巾か。確か背面カウンターの下の引き出し…と雑巾を探し当てて手にとる。



「はい、どうされまし——」









振り向いた私の目の前に、3Dの、いや4DXの推しが、立っている。





もう2度と会うことは無いはずの、


この世で一番眩しくて、


この世で一番大好きな、


あの、ジェヒョンさんが。








固まってしまった私に、ジェヒョンさんがゆっくりと口を開いた。




「すきなまんがは、なんですか?」






「……………『COBALT BLUE』と、『Dancing on air』……」





私の答えを聞いて、ジェヒョンさんがニコッと笑った。




마침내 만났습니다(やっと会えた)







찾을 수 있다고(見つけるって) 말했습니다(言ったでしょ)、僕の星」







まるで世界に私たち二人きりになったような感覚になり、ラジオの音だけが流れてくる。






—— 次の曲はこちら。ショーン・メンデスで、『Lost in Japan』








ーーーーーー





入れ替わりから元に戻った翌日、ミョソンの元にジェヒョンさんから連絡があったのだが、ミョソンは何の気なしに撮影でお世話になった感謝を伝えて電話を切ったのだそうだ。

その後も、仕事先ですれ違った時に挨拶だけしてとりあえずスルーしていたが、しばらく何度か電話が掛かってきて面倒だったので「何かあれば事務所へお願いします」と伝えるに留めていたらしい。


それもそのはず、ミョソンは男性に全く興味がなく、同僚と友達になる意思もなかったのだ。


そうやってあしらっていたミョソンだが、あまりにも連絡がくるので電話に出てみたところ、あのユン・ジェヒョンがどうやら自分を好きなのではという考えに至り、あることを伝えたのだとか。



【「先輩もしかして、ハンドドリップコーヒーを入れる天才で、魔法のツボ押しをする私のことが好きでしたか?」って聞いたら「そうだ」って言うから、信じられないだろうけど日本語勉強してこのカフェに行ってコーヒーを淹れてくれる店員に話しかけろって言ったの。感謝してね。】







……ちなみに、ソヨンさんとは再共演することになったそうで、本来のミョソンが演技しているのを見て「やればできるじゃない!素直に言うこと聞ける子なら、ソヨンファミリーに入れてあげる。」とやたら気に入られたそうだが、丁重にお断りしているらしい。



【うっとおしいのよねあの人。】






…あの後、私とジェヒョンさんに何が起きたかは言うまでもない。



大スターと完全一般人な学生の私。一筋縄ではいかない。



でも、私が願うのはたった一つだけ。




推しの幸せ。ただそれだけなのだ。







ここまでお読みいただきありがとうございました!

こちらで本編完結になります。


最後に二人が再会したところでラジオから流れたのはショーン・メンデスの『Lost in Japan』なのですが、実はこの作品を投稿し始めた頃にたまたま職場で流れていたラジオで聞いて知った曲です。

おしゃれな曲だなと思って調べたら、歌詞がジェヒョンの気持ちそのままで「星のきみへがドラマだったら絶対エンディングテーマじゃん…!」と鳥肌が立ち、無理やり捩じ込みました。


MVは、ソフィア・コッポラ監督の『Lost in transration』をオマージュしているのですが、楽曲自体はショーン・メンデスがある夜見た、日本で迷子になる夢を元にしています。


「日本から何百マイルも離れた場所にいて、君に会いに行けたらなと思った。だって君のことばかり考えている」というような歌詞で、とても素敵です。

せひ聞いてみてください。

https://youtu.be/ycy30LIbq4w?si=E1rgeQZFQYjKyv0D


(別途、もしどなたか韓国語に精通している方がいらっしゃいましたら韓国語部分の添削をしていただけるととても幸いです。Google翻訳に頼る形になったので、変な表記しておりましたらすみません。)


再会できたからといって、昴がホイホイ付いていくわけはなく、きっとジェヒョンは頑張っただろうなと思います。そこは描くのが大変そうなので、そのうちジェヒョンがなぜ昴を好きになったかというヒーロー視点だけは書けたらなと考えています。


もしまた投稿した際には、読んでいただけたら大変嬉しいです。


ぜひご意見・ご感想をいただけますと幸いです!ありがとうございました!


2025.4.11. 海野

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