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第7話 推しの囁き




晴天に恵まれたのもあって、自然の中で吸う綺麗な空気がとても気持ち良い。


今日から一泊かけてのロケ撮影ではあるが、日本とはまた違った雰囲気のある田舎の風景にちょっとした旅行気分になっている。


私の台詞シーンはほぼほぼこのロケ中に撮り終わるも同然なので、あと少し、気を引き締めて頑張らねば!




そろそろ出番なので、待機場所で他の出演者さんたちと同じように台本を見直していると、後ろから声がかけられる。



「おはよう、ミョソン」



「あ、おはようございますジェヒョンさん!」



「昨日はありがとね!すごく楽しかった。ミョソンは結構泣いてたから、目元が腫れないか心配だったけど大丈夫みたいだね。安心した。」



周りにいる人の視線を感じて小声で返事をする。

ジェヒョンさんと二人で映画に行ったなんて、きっと広まっては良くない。



「あの、あんまりその話はしない方が…!」


「なんで?もしかして泣いてたの恥ずかしい?」


「いや、あの、ジェヒョンさんはスターなので…!」


「なにそれ笑」



にこにこ笑うジェヒョンさんには、こちらの配慮が伝わってないっぽいことが分かる。



困ったな…と思っていたところに、ソヨンさんがカメラを持ったスタッフさんを引き連れてやってきた。


どうやらビハインド撮影のようなので、そろそろと映らない位置に移動する。




「ジェヒョン先輩を発見しました!お疲れ様ですぅ〜〜〜、今日は楽しみにしてたロケですね♪」



「お疲れ!そうだね、晴れて良かったね。」



「今日はなんといっても、あれがあるんですよね〜〜〜?♪」



「あれ?あれってなんだっけ?」



「キスシーンですよぉ!今日はユラとジュンソの感動シーンなんです!私なんて今からドキドキしてます♪」





仲睦まじく話す二人の様子を離れて見守りながらぼーっとしてしまう。



そうか、ついに二人が結ばれるあのシーンが来るのか…!


入れ替わり前はその回を何度も見返して、何度泣いたことか…。



俄然ワクワクしてきた。

だって、あの大好きなシーンを目の前で見れるんだもん。ワクワクしてるんだ、私は。



ぼーっとしちゃうのはそのせいに違いない。








自然に囲まれたシーンを、実際に田舎で演じるのでさえ大変なのに、合成などで演技をする役者さんの脳内はどうなってるんだ?と感心を覚えながら撮影が進む。



いくつかのシーンを撮り終えてご飯を食べ終え、食休みにセット裏を散策しているとジェヒョンさんに出くわした。



「ジェヒョンさんお疲れ様です!」



「お疲れ。もうご飯食べれた?」



「はい!今日も美味しくいただきました。ジェヒョンさんは食べれました?」



「いや、まだなんだ。このあとキスシーンなんだよね。」



「ですよね!あのシーンほんとに尊くて…楽しみにしてます!」



「ありがと。…ミョソンはキスシーン撮影経験とかあるの?」



「いやいや無いです無いです!」



顔の前で大きく手を振る。絵に描いたような一般人なのでもちろん無い。


するとジェヒョンさんが悪戯っぽく微笑んで、少し小声になった。



「キスシーンはね、実はコツがあるんだよ。」



「…え!どんなですか?」



「作品としては確かに大事なシーンなんだけど、見せ場としても重要だからね。より気持ちが入っているように見せるために、あるものを想像すると早いんだよ」



尊敬するジェヒョンさんの仕事の極意的なものが聞けるなんて!と思わず笑顔になってしまう。



「そうなんですね!何を想像するんですか!?」




ふいに、ジェヒョンさんが屈み、顔が私の耳元に近づいた。






「好きな人」





ジェヒョンさんの小声は吐息が混じったように霞んでいて、聞こえたそばから私の耳に溶けていく。



姿勢を直してにこっと微笑んだジェヒョンさんが、撮影場所に向かって去って行くのが見える。




固まったまま動けなくなってしまった私は、右耳が熱いのを、右手で触れて確かめてから、今あったことを脳内で巻き戻して再生する…






ひぃえええぇええええええええええかっけぇええええええええうわぁああああぁっああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!



心のアルバムに!!!!!!!!

保存!!!!!!!!!!!!!






推しの供給量(質・量ともに)の多さにバグってしまった脳みそをなんとか落ち着けて、撮影の見学に向かう。







『あぁもうっ!!!だから!!あんたのことが好きなの!!!』



ユラがそう言って、ジュンソの顔を引き寄せてキスをする。



ずっとジュンソからのアプローチを意地になってつっぱねていたユラが、初めて素直になり二人が結ばれるシーンだ。




本当に良かったね、ユラ、ジュンソ……

君たちは本当に、お似合いのカップルだよ……


と思いながら、ため息が出るほど美しいキスシーンを前にして、ふと別の考えが頭に浮かぶ。





すごく遠い。遠い世界だ…。


トップスターの二人の周りだけがキラキラと輝いて見える。

当たり前だけど、私とは生きている世界が違うんだ、と再認識させられる。


…大好きなシーンを見ているのにこんなこと考えてしまうなんて、私は相当参っているのかもしれない。





「カット!はいOKーーー!」




ぼーっとしてしまってたことに気づいて目線を上げると、ふとジェヒョンさんがこちらを見た。



と、思ったらジェヒョンさんが微笑んでくる。



…ん?

なんでそんなにこっちを見てくるんだ…?


…これ、目合ってるよね????なに????なんで?????



心臓の音がうるさくなってはっとして目を逸らす。


そそくさとその場を離れて、一目散に休憩スペースへ向かう。




…いやいやいやいや!!!

「これがプロだぜ!」の微笑みだったと思う!

そうだそうだ、あぶねーーーーーーーーーフーーーーーーお茶飲もう、お茶飲んで落ち着こうそうしよう。




自動販売機のボタンを押そうとしたところで、背中にあたたかい気配を感じた。


と同時に耳元にささやき声が響く。





「誰のこと想像したと思う?」





びっっくりして思わずバッと振り向くと、目の前にジェヒョンさんの顔があって心臓が飛び出しそうになる。





「わ…分かりません…」





顔が熱い。今すぐどこかに隠れたい。背後の自動販売機のせいで逃げ場がない!



そんな私の焦りをよそに、ジェヒョンさんがにこっと微笑む。




スタッフさんがジェヒョンさんを呼ぶ声がする。




「また、あとでね。」




ジェヒョンさんがいなくなって、私はへなへなと座り込んでしまう。


鳴り止まない心臓の落ち着け方って、調べたら出てくるのだろうか。









夜の撮影も終え、無事ロケ初日が終了した。


宿泊場所に戻ろうとしたところでジェヒョンさんに散歩しようと声をかけてもらった。



「星がすごく綺麗なんだって。」



そう言ったジェヒョンさんもびっくりするくらい、街灯の少ない暗がりの中で、夜空が綺麗に広がっている。


こんな素敵な夜に、ジェヒョンさんの隣を歩いていることがなぜだか恥ずかしくて、緊張してしまい、ドギマギしながら話題を振る。




「…いや〜〜〜〜プロってやっぱすんごいですね!!キスシーン尊すぎてキュンキュンしました!!」



「はは、良かった。キュンキュンしてくれてたんだ」



「いやもうはいしっかりと!!」



あははえへへとヘラヘラ笑う私の顔を覗き込むようにしてジェヒョンさんが尋ねてくる。



「それで、答え分かった?」



「え、何のですか?」



「誰のこと想像したと思う?って聞いたでしょ。」



「あ、いや、えーっと」





「君だよ。」



「は…?」






「僕は、君のことが好きなんだよ。」








ど、









どぇえええぁぇぇえええぇああええええええええええええ????!!!!!!!!!!!?!!!?!!?!?!?!?!?

?????!!!!?!!?!?!????!?!??!?!









「な…??!?!?!な…?!?!?!?!??!」




フリーズしてしまった私を見てふふ、と笑い、ジェヒョンさんが空を見上げる。




「…今日は本当に星が綺麗に見えるね。良かった。」






ホ…ホシ……星…綺麗……星…………ん…?星!?!?!?!?!?!











固まっていた私の頭の中に、瞬時に “ あの日 ” のことが広がる。





私、あの日確か流星群を見たんだ。




ーーーーーー



あの日はいつものように大学で友人に「わたキャン」の魅力を語ったところ、私自身の浮いた話の無さに辛口のダメ出しをされてしまい、バイト先でも恋人いないイジリをされ、田舎の両親から「フラフラするのもほどほどにして将来や結婚のことを考えなさい」とお説教をくらうという凹みフルコンボを達成し、耐えられなくなったバイト帰りに自転車で爆走しながら夜空に叫んだのだ。




「どうすりゃいいっていうのよーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




その日は流星群が観測されると予想されていた日で、実際綺麗な流れ星をいくつか見ることができた。


そんなことにはお構いなしだった私の叫びは、夜空の星と一緒に消えて行ったはずだった。



そしてその夜を境に私とミョソンは入れ替わり、時間が遡ってしまっていた。



ミョソンに今すぐ、確認しないと!!!!



ーーーーーー







「すみません本当に嬉しいんですけど頭が混乱してしまう野暮用の用事ができてしまいましたすみませんお先に失礼します!!!!!!!!!!!!!!!!!」





そう言ってお辞儀もそこそこに、すったかたーと宿舎に向かう。


一瞬後ろの方でジェヒョンさんがぼそっと何かを言った気もするけど、ごめんなさいそれどころじゃない!!!!!









部屋についてすぐミョソンに連絡してみると、なんと彼女も同じように流星群を見ていたことが分かった。



『私たちのキャンバス』撮影後、次回作が決まらない中で先行きの不安に嫌気がさしてしまい、窓を開けて空を見ながら、「どうやって生きればいいっていうの」と涙を流してしまったらしい。



……私の状況とは違ってなんだか美しいシーンなのは置いておこう。



とにかく、私たちの行き着いた結論は、「流星群の日に元に戻るのではないか」ということだ。




この、いつまで続くか分からない入れ替わり生活にも、もしかすると目処がつくのかもしれないと思い二人で安堵する。




【とりあえず、流星群の日までは、お互いに今まで通り頑張ろうね。】




…そうだ。残り少し、頑張ろう。


流星群を見たのはちょうどクランクアップの日だ。

つまりありがたいことに「わたキャン」の撮影は最後まで見届けることができるということだ。



私の参加する撮影もあと残すところ明日と、クランクアップ当日だけだ……なんだか少し寂しいな…。




と、思ったところでふと気がついた。









あれちょっと待って私告白されてなかった??!?!?!?!?









ここまで読んでいただきありがとうございます。


二人の配置や姿勢を文章で表現するのがすごく難しいです…。頑張ります!

(またしれっと修正をしてしまうと思います、すみません)


続きもお読みいただけると大変嬉しいです!


2025.4.7. 海野

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