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27 彼らの関係

「もののついでだ。次は俺らのことについて話してもいいか?あんたにゃ知っておいてほしい」

 腕を組みなおし、カナトがそんなことを言う。ユウリに異論はなかった。

 オウギやジグと比べればカナトは饒舌な方だが、こんな風に話しこむことはこれまでになかった。カナトは普段街で仕事をしていることが多いということだったので、医院からの帰りである今のほうが自然体で話せるのかもしれない。

「俺がこの仕事を始めたのは、殿下が五歳のころだった。俺の前にオウギが、その後にジグが入ったんだが、まぁほとんど同期みたいなもんだ」

 リトが五歳のときということは今から約十年前だ。三人の今の歳を考えれば成人して間もないころからこの仕事に就いていることになる。彼らが歳のころには似つかないほど達観して見えていたのは、若いころから積み上げてきた経験があったからなのかもしれない。

「あの二人がどう思ってるかは知らんけど、俺にとって殿下はなんか、歳の離れた弟みたいな感じだった。あ、今のは誰にも言うなよ?特にオウギには。あいつはそんな言い方は不敬だとか言いかねんから」

 顔をしかめつつ口に人差し指を当てる仕草をする。カナトたちの関係性が垣間見えた気がして微笑ましく思いながらユウリはうなずいた。

「幼い頃から、殿下は真面目な方だった。ずっと勉強詰めでも文句ひとつ言わねぇでさ。本当なら母親に甘えたいような年頃だろうに、その母親はこの国を統べる女帝だからそんなことは許されない。親や血のつながった家族じゃなくて俺たちみたいな他人の大人たちに囲まれて、それでもみんなの期待に応えられるように世継ぎとして真っ当に生きようとしておられた。まるでそうすることが当たり前みてぇに。そんな姿が俺は不憫に見えてたのかもしれん。……あるとき、オウギと大喧嘩になってな」

「……?」

 急に話の方向性が変わった気がしてユウリは首を傾げた。カナトは苦笑しつつ続ける。

「あいつは当時、殿下の護身術の指南役をしてたんだ。ユウリちゃんも経験したからわかるだろうけど、あいつは手加減ってもんを知らんだろ?特にあのころは殿下はまだ子どもで、まだまだこれから身体が成長していく過渡期だった。それなのにあいつは否応なしに殿下を追い詰めるから、俺がやりすぎだって注意したんだ。だがあいつは退かなかった。命あっての物種なんだと言って。そりゃそうだが、もうちょっとやり方を考えろって言い返して、それで言葉の応酬になって……最後に俺らを止めに入ったのは、ジグだった。こんなことで内輪揉めして、殿下の今までの努力を無駄にする気かって。冷や水を浴びせられた気分だった。確かに、なにやってんだろうって思った」

 普段は無口なジグだが、言わなければいけないことはちゃんと言う。その態度にはユウリも憶えがあった。ユウリが歴史の勉強中に寝こけてしまったときに、適切な書物を選び直してくれたときだ。静かに観察している分、的確な指摘ができるのかもしれない。

「まぁそれ以来、オウギと俺はあんな感じだ。あいつが突っ走りそうなときは俺が止める、みたいな。ジグは職分が同じな分すれ違うことが多いが、俺とはまた違った視点でものを見てるからたまに意見を聞くと冷静になれる。俺らは結局のところ殿下の利になるように動くのが役目だってことを、前提条件を思い出させてくれる」

 この三人はお互いに足りないところを補い合いながら、リトを支えてきたのだろう。それは確かな信頼関係がなければできないことだ。でもだからこそ最側近として彼らが頼みにされていることにも納得できる。

 カナトは視線を落とした。声もいくらか低くなる。

「殿下が病に伏せてからは、まるで地獄みたいな日々だった。陛下も精神的に不安定になられちまって、廷医が何度も入れ替わるような事態になった。だが政を止めるわけにはいかねぇから、高官たちはずっと浮足立ってて。混乱と、焦燥と……。俺ら若輩にはなにもできなくて、流されていくだけみてぇな感じでさ。この国は、殿下は、俺らはどうなっちまうんだろうってずっと不安だった。……だから、殿下が快復してくれた今は、すげぇほっとしてるんだ。これはたぶん俺だけじゃなくて、あいつらも一緒だと思う」

 国の中央の混乱を、ユウリは知らずにアヌカで暮らしていた。国というものがどう動いているのかも、こうして直接関わることになるまで知ることはなかった。もしかしたら当時自分が無知であったことも、ユナを喪う悲劇につながった原因のひとつだったのかもしれない。

 悲しみと罪悪感はいまだにユウリの心の奥にしこりとして残っている。だがそれに囚われていてはいけないのだと、前を向くしかないのだと、ようやく納得できるような気がした。両親とどう向き合っていくべきなのかはまだわからないが、今はそれよりも目の前のことに集中するべきなのだと。

 なにより今は、ユウリはこのカナトたちとともにリトを支える一員として頼みにされているのだから。

「話してくれて、ありがとう」

 ユウリはできるだけ表情を緩めた。

「これで私も、みんなの仲間に入れたかな」

 それを聞くとカナトは片眉をあげた。

「俺は最初からそのつもりだが?でなきゃこんなことまで話さねぇよ」

 それもそうかと思ってカナトを見たら、呆れたように笑っている。ユウリもまた力が抜けたように緩く笑った。

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