第九十九話 託された想い
「……完敗です」
レイモンドさんが地面に腰を下ろし、肩で息をしている。
その顔には、清々しささえ漂っていた。
俺も杖を握りしめたまま、膝をつくように座り込む。
全身に広がる疲労感の中、レイモンドさんの言葉が耳に届いた。
「あんな反撃方法を選ぶのは、君くらいです」
「え……?」
「今まで戦ってきたどんなストレンジャーも、自分の装備やステータスが落ちるのを怖がって、向かってくることはなかった」
そう言いながら、レイモンドさんは俺の方を向き、
「君はその恐怖を超えた。その勇気に敬意を表したい」
「……ありがとうございます」
その言葉に、胸の中が少し温かくなるのを感じた。
俺は自分の手元に目を落とした。
握りしめているのは、全てFランクに戻ってしまった装備と、もう一つの武器、練習用スタッフだった。
「……Fランクに戻ってしまって、落ち込んでいますか?」
レイモンドさんが尋ねてくる。
「いいえ」
俺は首を横に振った。
「もともとずっとそうでしたし、気になりません。これからまた頑張ればいいことですから」
その言葉に、レイモンドさんが小さく笑った。
「そういうあなたのような誠実なストレンジャーにこそ、このスキルが相応しい」
彼が手元のウィンドウを操作すると、目の前に青白いウィンドウが浮かび上がった。
【スキル伝授】
名称:光刃剥奪
効果:光の波動で敵を切り付けることで、敵の装備や能力をレベルダウンさせる。
制限:効果は一定時間に限られる。
「あなたに、私の最強スキルを伝授します」
「……!」
その言葉に目を見開き、ウィンドウの内容を確認する。
「あ……」
スキルの説明文に目を通していると、一つの文言が目に入った。
「効果は一定時間に限られる……」
「そうです」
レイモンドさんが頷きながら説明を続ける。
「あなたの武器もステータスも、じきに前のランクまで戻ります。ご安心ください」
「そうだったんですか……」
ホッと胸を撫で下ろすと同時に、彼の言葉がさらに続いた。
「しかし、それは逆に、このスキルのウィークポイントでもある」
「ウィークポイント……?」
「敵や敵の装備品をレベルダウンさせられるのは、一定時間だけです。相手とのランク差が大きければ大きいほど、その効果時間は短くなる」
「なるほど……」
「それを踏まえ、戦いの戦略を練るのが重要です。気をつけなさい」
「……わかりました!」
その忠告を胸に刻み、力強く頷いた。
レイモンドさんが立ち上がり、手を差し伸べてくる。
その手を握り返して、俺も立ち上がった。
「さあ、あとは頼みますよ」
「え?」
「このスキルを持って、世界をダンジョンゲートの脅威から救ってください。エドガーのためにも」
「……ありがとうございました、レイモンドさん」
深く頭を下げると、彼は微笑みながら頷いた。
「君ならできると信じています。天城蓮」




