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第九十八話 クリティカルヒット

(くそっ……どうする? このまま逃げ続けても、いずれ追い詰められる)


全身に疲労が蓄積し、心臓の鼓動が耳に響く。


だが――。


(……いや、ここで逃げてどうする)


頭の中に、これまでの自分の戦いが蘇る。


スキルを鍛え、装備を進化させ、ここまで戦ってきた。


だが、振り返れば、俺はアイテムの力に頼るばかりだった。


(でも……俺だって、成長してきたじゃないか)


ランクBに上がり、ステータスも向上している。


それに、ここまで戦い抜いてきた経験がある。


(今こそ、自分を信じる時だ)


全身に力を込め、深呼吸をした。


そして、マジックバッグを取り出し、一つのアイテムを取り出す。


手に取ったのは、学校で使用していた《練習用スタッフ》だった。


【アイテム情報】

名称:練習用スタッフ

ランク:F

効果:+5%魔法ダメージ補正

説明:学校での演習に使用される初心者用スタッフ。威力は期待できない。


「全てF−ランクに落とされるなら……最初からFランクの武器で行く!」


この杖は学校で演習に使っていたもの。


威力は期待できないが、今の俺にはこれしかなかった。


俺は杖を握りしめ、疾風のポーションを取り出した。


使い捨てのこのアイテムを二重に重ねがけし、スピードを補う。


【アイテム情報】

名称:疾風のポーション

効果:短時間、移動速度を大幅に向上


「うおおおおお!!」


ポーションの効果で体が軽くなった瞬間、俺はレイモンドさんに向かって突進した。


「愚かな! 自らやられに来ますか!」


彼のロングソードが再び眩い光を放つ。


その光の波動が俺に降り注いだ。


「ぐっ……!」


装備しているアクセサリー、盾、靴――全てが光に触れるたびにF―ランクへとレベルダウンしていく。


装備が劣化するたびに体が重くなるが、それでも足を止めなかった。


(ここで怯んでどうする……!)


「何!?」


レイモンドさんの目が驚きに見開かれる。


「この最強スキルを受けて、戦意喪失せずに、向かってくるだと!?」


俺は杖を握りしめ、スピードを活かして彼の懐に飛び込んだ。


「いっけえええええ!!」


杖を振り上げ、全力で彼に叩きつけた。


その瞬間、杖の先がレイモンドさんの肩を捉え、光の波動が揺らぐ。


「ぐっ……がはっ!」


よろめきながら後退する彼。


その姿を見て、胸の中に確信が生まれる。


(いける……まだ俺にもチャンスがある!)


杖を振り上げ、さらに追撃の一撃を放った。


次の瞬間――


クリティカルヒット!!


Fランクの杖の一撃が、レイモンドさんのロングソードを弾き飛ばし、彼を膝つかせる。


「この動き……!」


レイモンドさんが驚きの表情を浮かべる。


「エドガーと同じ……!」


俺の動きが彼の記憶に刻まれた弟の動きと重なった。その言葉が俺の胸を締め付ける。


(そうだ……俺は、エドガーさんの記憶を辿り、彼の動きを追体験した)


その経験が、今の俺を支えている。


そして、それだけじゃない。


(俺がステータスボーナスを運に偏らせていた効果……これがここで生きた!)


その運が、このクリティカルヒットを導いた。


「はああああっ!!」


全身の力を込めて杖を振り下ろす。


その一撃がレイモンドさんの胸元に直撃し、衝撃が広がった。


「がはっ……!」


彼の体が地面に崩れ落ちる。


息を整えながら立ち尽くす俺の前で、彼が微かに笑みを浮かべた。


「見事です……天城くん……」


俺の手に残ったFランクの杖。


その軽い感触を握りしめながら、俺は彼の言葉を胸に刻んだ。



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