第九十四話 エドガーの兄が持つ最強のスキル
祝賀パーティの2日後。
「待ち合わせ場所が……教会?」
スマホに表示されたメッセージを見ながら、俺は少しだけ首を傾げた。
エドガーの兄に会う約束をしたものの、指定されたのは街外れの荘厳な教会。
(普通、カフェとかギルドのロビーとかじゃないのか?)
少し不思議に思いながらも、指定された教会に向かうことにした。
教会の大きな扉を押し開けると、静けさとともにステンドグラスを通して差し込む光が目に飛び込んできた。
空間全体が神聖な雰囲気に包まれている。
「天城蓮さんですね?」
声がして顔を上げると、神父服を纏った一人の男性が立っていた。
短く整えられた黒髪、穏やかでありながらどこか鋭い瞳。
そして、どことなくエドガーと似た雰囲気を感じる。
「え……あなたがエドガーのお兄さん……?」
その言葉に彼は微笑んだ。
「初めまして。私はレイモンド・エドウィン。エドガーの兄であり、この教会を預かる神父です」
「神父……!?」
その言葉に驚きを隠せなかった。
弟がストレンジャーだったのは知っているが、その兄が教会の神父とは思いもよらなかった。
二人で、教会に備え付けられた椅子に座り、会話を始める。
「弟のエドガーとは、いつも競い合っていました。ストレンジャーとしても、人間としても……」
レイモンドさんは、懐かしむように目を閉じた。
「彼は本当に優れた冒険者でした。そして、誰よりも正義感が強く、仲間を大切にする人間だった」
その言葉に、俺の胸が少し痛んだ。
「俺が見たエドガーさんも、そんな人でした」
「ありがとう」
彼は小さく頷き、静かに続けた。
「弟が亡くなった時、私はその現実を受け入れることができなかった。ストレンジャーとしての道を捨て、神の道に身を置くことで、ようやく自分を保つことができたんです」
「そうだったんですか……」
そういう人生もあるんだ、と俺は感銘を受けていた。
「天城くん」
レイモンドさんの声が一段低くなった。
「今のこの世界をどう思いますか? ダンジョンゲートに支配され、人々が恐怖と隣り合わせの生活を送る……そんな世界を」
その問いに、俺は言葉を詰まらせた。
「……俺も、怖いです」
だって、かけがえのない家族を、俺も殺されているのだから。
その答えに彼は頷く。
「私も同じです。弟が亡くなってから、私はダンジョンゲートによる被害がどれほど多くの人々を苦しめているかを目の当たりにしてきました」
彼はステンドグラスを見上げる。
「せめて人々の心の安寧のために、何かできないかと思い、神父としてこの道を選びました」
その言葉に、胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。
レイモンドさんは少し微笑みながら俺に向き直った。
「さて、君はどうですか? 何か困っていることや手助けが必要なことがあれば、遠慮なく言って欲しい」
「え……?」
「私は神父だ。だから、絶対に秘密は守る」
レイモンドさんの目は力強く、俺の方を見据えていた。
「力になれることがあるなら全力で支える。弟のことを教えてくれた君に、恩返しをしたいんだ」
その言葉に、俺は少し戸惑う。
どうする……。
『あのこと』を相談するか?
イザナからは、国家機密だと言われたが、レイモンドさんは神父だ。
口外してはいけないことは、本当に守ってくれるだろう。
なら……。
俺は迷いながらも頷いた。
「……実は、俺、今度、海外の未踏ダンジョンに挑む、世界ダンジョン討伐隊の一人に選ばれました」
その言葉に、レイモンドさんが目を見開いた。
「世界ダンジョン討伐隊……!?」
「はい。4つの古代ダンジョンを攻略し、スペシリアの大魔法を引き継ぐという任務です」
「それは……驚きました。君のような若者がそんな大任に選ばれるとは」
彼は少し沈黙した後、柔らかく微笑んだ。
「天城くん、君には本当に不思議な力があるようですね」
「いえそんな……。それで俺はもっと強くならなきゃいけないんですが、まだその自信を持つことができなくて……」
「なるほど、それが君の悩みなんですね」
レイモンドさんは、深く頷き、得心していた。
「はい」
「なら……君が本当に強くなりたいのなら、私が持つ最強のスキルを伝授しましょう」
「えっ……? レイモンドさんの!?」
その言葉に、驚きと期待が胸を駆け巡る。
「ええ。私がS級ストレンジャーであったときに、使用していた無敵のスキル」
「S級ストレンジャーの、スキル……!」
「ただし……」
彼の声が低く、鋭さを帯びる。
「私を倒すことができたら、です」
「!?」
その言葉に戸惑いを隠せない俺を尻目に、彼は教会の奥から一本のロングソードを取り出してきた。
その剣は光を反射し、神々しい輝きを放っている。
【武器情報】
名称:聖域の断罪剣(Sanctum Judicator)
ランク:S級武器
効果:光属性ダメージ+80%、追加範囲攻撃、自己回復スキル付与
「これが私の武器、『聖域の断罪剣』。かつてストレンジャーとして活動していた時に使用していたものです」
剣を構えた彼の姿は、まるで現役時代に戻ったかのように凛々しく、力強かった。
「私を倒せたら、最強のスキルを君に伝授しよう。それが条件です」
その言葉に、俺の中で決意が再び燃え上がる。
「分かりました!」




