第九十三話 朱音とリンの想い
※ ※ ※
「今日はお疲れ様。ゆっくり休んでね。また学校で」
ベッドの上に腰を下ろしながら、スマホにメッセージを打ち込む。
送信ボタンを押して、天城くんに送ったメッセージを確認する。
私――月宮朱音は、既読がつかないことを見て、小さくため息をついた。
「今は忙しいのかな。無理もないよね……」
呟きながらスマホをテーブルに置いた。
学校では見せない真剣な顔で戦う天城くん。あの姿が頭から離れない。
「学校じゃないところで会う天城くんも……かっこよかったな」
思わず声に出してしまう。その瞬間、自分の顔が熱くなるのがわかった。
「……やばい、これじゃ私、本当に病気かも……」
ベッドに倒れ込みそうになるのを振り切って、シャワーを浴びることにした。
服を脱いで、バスルームの鏡を見つめる。
鏡の中には、シャンプーの匂いが漂いそうな長い髪と、柔らかなラインを描く体が映っている。
「う……ちょっと太っちゃったかな?」
鏡越しに自分を見つめながら、身体をぷにぷにとつまんでみる。
「お腹の辺りが気になる……お尻もちょっと大きくなっちゃったかも……」
そういって、気になる部位を自分の手で触って確かめる朱音。
「ダイエットしなきゃ……天城くんに笑われちゃう」
そういうと、軽く髪を束ねて、シャワーを浴び始める。
暖かいお湯が全身を包み込み、疲れが少しずつ和らいでいく。
「……私、四六時中、天城くんのこと考えちゃってる……」
声に出してみて、ますます自分がどうかしているような気がした。
「……天城くんって、どんな女の子が好きなんだろ」
ボディソープを手に取り、肩から腕、背中へと泡を伸ばしていく。
柔らかな指が肌を滑るたびに、気持ちが少しだけ落ち着く。
「私じゃ……ダメなのかな……」
トリートメントで髪を整えながら、ため息をつく。
「これでも、結構可愛い部類に入ると思うんだけどな! 学校でも、1ヶ月に一回は男子から告白されてるし……」
湯船に浸かり、少しイライラしながら声を上げる。
「それを全部断ってるのも、天城くんを待ってるからなんだからね! もう!!」
湯船の中でバシャバシャと暴れてしまう。
「……あんた、何暴れてるのよ」
浴室のドアが少しだけ開き、母親が覗き込んでくる。
「な、なんでもないよ!!」
慌てて顔を赤くしながら返事をする。
「まったく……」
母親が呆れたように去っていくのを見送りながら、朱音は湯船の中で膝を抱えた。
「……明日も、天城くんに会えるかな」
※ ※ ※
私、松陰寺リンは、後衛僧侶タイプのストレンジャーだ。
だから、よく攻撃職のストレンジャーとペアを組む。
今まで、いろんな前衛を見てきたけど……、あの人は別格だった。
あの、S級ボスを討伐する時の後ろ姿……。一生忘れることはないだろう。
祝賀パーティが終わり、家に帰る。
荷物を置いてスマホを見ると、天城さんからメッセージが届いていた。
『天城です。今日はありがとう。またギルドで会ったら、よろしくお願いします』
画面を見ながら、自然と笑みがこぼれる。
「ほんと、天城さんって……」
次に表示されたメッセージを読み、少しだけ呆れてしまった。
『お礼の返事、家に帰って爆睡してて遅くなってしまいました。月宮さんとリナにもこれから急いで返したいと思ってる!』
「……天然だよね、ほんと」
頬が緩むのを感じながら、少しだけ頷く。
「ちゃんと私にお礼をくれたのは嬉しいけど、余計なこと言わなくてもいいのに……」
スマホをテーブルに置いて、冒険者服の襟元を触りながら、立ち上がる。
汗をかいた体が少しだけ気になる。今日はたくさん動いたし、シャワーを浴びる前に着替えよう。
部屋のタンスを開けて、パジャマを取り出す。
冒険者服を脱ぎ、下着姿になったところでふと鏡に映る自分の姿を見つめた。
「……あれ?」
ブラジャーのストラップが少し食い込む感覚に気づく。
胸のあたりがきついような……?
「もしかして……私、成長してる!?」
思わず声に出してしまう。
鏡越しに自分の胸元を軽く触れると、ほんの少しだけふっくらしたような気がする。
「やった!」
嬉しさに小さくガッツポーズをしてしまう。
「……大人っぽい女性になれば、天城さんも夢中になってくれるかな」
そう考えると、自然と頬が熱くなるのを感じた。
着替えを終えてベッドに腰掛ける。
ふかふかの布団に手を滑らせながら、小さく呟いた。
「また一緒に冒険したいな……」
天城さんと過ごした時間を思い出すと、胸がドキドキしてくる。
戦場で見せた彼の真剣な表情や、仲間たちを支える姿が鮮明に蘇る。
「天城さんって、本当にすごい人だよね」
そんなことを考えているうちに、体がじんわりと熱くなる。
「……なんだろう、これ……」
自分の手で頬を軽く押さえると、体温が上がっているような気がする。
天城さんのことを考えれば考えるほど、身体が熱くなっちゃう……なんだろう、これ……。
思わず、ベッドの奥深くに潜り込む。
自分で自分をぎゅっと抱きしめ、火照った身体をどうにか抑え付けようとする。
「だめ……絶対、だめ……」
言葉とは裏腹に、リンの手は、ゆっくりとリンの大切なところに伸びていく。
「私、僧侶タイプなんだから……絶対、やっちゃいけないんだから……」
あの人のことを想いながら、リンは自分で自分の身体を慰める。
「天城さん……好き……」
S級ボスに挑む、あの勇敢な後ろ姿を想像しながら、リンは楽園へと旅立つ。
「あっあっ……ああっ!」
夢心地で頂点に達した後、
はぁ……と恍惚な表情を浮かべる。
「うう……」
気づけば、罪悪感が彼女の身体を支配していた。
胸の鼓動は速くなったままで、後悔の念が募る。
「もう、絶対やらないもん……」
小さく呟いて布団で丸くなる。
「天城さんと、また冒険したいな……」
ふわふわの布団に包まれると、不思議と安心感が広がった。
リンは、瞳を閉じた。




