第八十九話 三人の美少女の鉢合わせ
ギルドの広大なホールで開かれた祝賀パーティ。
煌びやかなシャンデリアが輝き、テーブルには豪華な料理が並んでいる。
冒険者たちの笑い声や乾杯の音が会場中に響いていた。
「天城くん、やっと来たな!」
イザナが俺を見つけ、軽く手を挙げて迎えてくれる。
その横には、アカツキブレイドの幹部たちが揃っていた。
「天城くん、本当にありがとう!」
「S級ダンジョンをクリアしたのはもちろん、我々のギルドの名誉を救ってくれた!」
幹部の一人が感慨深そうに言葉を続ける。
「シンジ・ハザマのPK事件があって、アカツキ・ブレイドの信頼は地に落ちた。それをお前が見事に挽回してくれたんだ!」
「いえ、俺一人では何も……」
謙遜する俺に、カイ副支部長が真剣な表情で頭を下げる。
「いや、本当にありがとう。天城くんがいなければ、ギルドの信頼は回復しなかった。心から感謝している」
「ありがとうございます……」
感謝の言葉を受けながら、少しだけ背筋が伸びた気がした。
イザナやカイと話していると、S級ダンジョン討伐隊のメンバーたちが集まってきた。
その顔ぶれを見るだけで、あの過酷な戦場が脳裏に蘇る。
「天城! やっと来たな!」
防御班だったメンバーが声をかけてくれる。
「本当にすごかったぞ、あのドラゴンスレイヤーの一撃。俺、今でもあの光景が夢に出てくるんだよ!」
「ありがとうございます。でも……皆さんが必死に守ってくれたからこそです」
そう答えると、イザナが俺の肩を叩いてきた。
「お前は本当に謙虚だな。だが、もっと胸を張っていい。お前の成長には、正直驚かされてばかりだ」
「俺なんて、まだまだです」
「討伐を報告して以来、君のことを『高級アイテムを重課金で手に入れて、無双しているだけのボンボンストレンジャー』なんていうやつがいるが……」
防御班のメンバーの言葉を、イザナが引き受ける。
「まったくの誤解であることは、この私、イザナ=カグラが証明する。日本最大の巨大ギルド『暁の刃』のギルドリーダーの名にかけて、君のあらぬ誤解は払拭するつもりだ!」
「あ、ありがとうございます」
『重課金のボンボンストレンジャー』……そう俺のことを揶揄する風潮があることは知っていた。
リナの配信を見たリスナーたちの中にも、いい人たちばかりではなく、やっかみや嫉妬まがいに無根拠に『活躍しそうなストレンジャー』を攻撃したり、いいがかりをつけて蹴落とそうとする勢力があるのだ。
俺はまったく気にしていなかったが、あまりに目に余る俺のアンチ勢力の嫌がらせ運動に、イザナの堪忍袋の尾が切れたのだろう。
揉め事は嫌だし、何よりこれ以上目立ちたくもないので、ありがたくもある一方、ことを大ごとにして欲しくないという願望の方が強かったのだが……、
「いや……お前はどこまで成長するんだろうな。楽しみにしてるぞ」
その言葉に、胸が少しだけ熱くなった。
討伐隊のメンバーたちと談笑していると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「天城くん!!」
振り返ると、リナと朱音がこちらに向かってきた。
「ずっと連絡取れなかったり、そっけなかったりした理由って、これだったの!?」
リナが腰に手を当てて詰め寄ってくる。
「……まあ、そういうこと」
「隠してるなんて酷い! 私たちなら協力したのに!」
朱音も少し頬を膨らませながら、不満そうに口を開いた。
「いや……俺のわがままで参加しただけなんだ。それに、もし言ってたら、二人とも絶対に来るって言うだろ?」
その言葉に、リナと朱音が一瞬黙り込む。
「二人ならそう言ってくれるはずだ。でも……もしそれで命の危険が及ぶなんて、俺は絶対に嫌なんだ」
「あ……」
「もう、大切な人を失いたくないから……」
その言葉に、二人の表情が一気に赤く染まった。
「た、大切な人って……」
朱音が目を逸らしながら言葉を詰まらせる。
「ちょっと、それどういう意味なの……天城くん?」
リナは顔を赤くしながらも、いつものからかうような調子を一切感じさせず、問いかけてくる。
「い、いや、正直に気持ちを言っただけだけど……!」
逆に慌てる俺の様子に、リナと朱音が同時に「へぇ〜〜〜〜、ふぅ〜〜〜〜〜〜ん」とそっぽを向く。だが、その表情は明らかに嬉しそうな気配を隠せていなかった。
「くそー、撮影ドローン禁止じゃなければ、この会場でも配信したかったなー! 絶対にバズるのに!」
「絶対やめてくれ……!」
その一言に、思わず微笑んだ。
「天城さん……」
その時、聞き慣れた小さな声が後ろから聞こえた。
振り向くと、僧侶タイプのリンが頬を赤らめながら立っていた。
「あ、リンさん……」
「その……ボス戦での天城さん、本当にかっこよかったです!」
彼女は言葉を詰まらせながらも、真っ直ぐにこちらを見つめてきた。
「いや、そんな……皆さんが支えてくれたからこそだよ」
「あの……もしよかったら、これからも一緒に冒険してもらえませんか?」
その言葉に、リナと朱音がピキッと固まった。
「あんた……また女の子をナンパしたの……?」
リナが眉をひそめ、朱音がじっと俺を見つめている。
「いやいやいや! 誤解だって!」
慌てて両手を振りながら否定するが、二人の視線は冷たい。
「だって、今のやり取り、完全に誘ってる感じだったけど?」
「さすが天城くん。S級ダンジョン討伐してモテモテね」
「本当に違うから!!」
俺の必死な声が会場に無情に響く。
S級ダンジョン以上の難易度イベントに遭遇したかもしれない……!




